アベの泥沼20
20日召集の通常国会を控え、主要野党が「長期政権のゆがみをただす」と気勢を上げている。 米国とイランの対立で緊迫化する中東への海上自衛隊派遣の是非や、カジノを含む統合型リゾート(IR)事業に絡み、東京地検特捜部に逮捕、起訴された元自民党衆院議員の秋元司容疑者の収賄事件、昨年から続く安倍首相主催の「桜を見る会」の私物化疑惑と名簿廃棄問題、経産相を辞任した菅原一秀衆院議員の金品贈与疑惑……など、追及のネタを挙げればキリがない。野党が安倍政権を退陣に追い込もうと手ぐすね引いているのも当然だ。
さらに国会開会直前になって、また新たな火種が浮上した。 昨夏の参院選をめぐる公選法違反容疑で、ともに自民党の河井克行前法相(衆院議員)と妻の案里参院議員が広島地検の家宅捜索を受けたことだ。
公選法違反の疑惑が報じられて以来、2カ月半以上も国会を欠席し、雲隠れしていた2人は、広島地検の家宅捜索を受けてようやく報道陣の前に姿を見せたものの、詳しい説明は一切なし。野党の国対委員長は16日の会談で、2人に対する政治倫理審査会の開催を求める方針を決定。参院野党は、自民党が調査した上で、議院運営委員会に報告するよう要求するとともに、一部の野党は、安倍が施政方針演説を行う20日の本会議開催には応じられないとの強硬姿勢を示した。 ■不祥事の理由は長期政権より体質にある
国会の会期は6月17日までの150日間。政府・与党はまず、経済対策を盛り込んだ2019年度補正予算案を月内に成立させた上で、20年度予算案の年度内成立を目指す考え。新規提出法案を60本以下に絞ったのは、夏の東京都知事選や東京五輪を控え、会期延長が難しいとみているからだが、長期政権の末期症状ともいうべき醜聞ネタが次々と出てくる状況を見ていると、会期延長どころか会期末まですら果たして持つかどうか。
与党・自民党は継続審議中の国民投票法改正案を成立させ、国会での改憲論議の進展を目指しているらしいが、ハッキリ言ってそれどころじゃないだろう。 仮に中東情勢が悪化し、それこそ海自隊員が巻き込まれるような最悪の状況になれば、年末のドサクサに紛れて勝手に閣議決定で中東派遣を決めた安倍政権の責任を求める怒りの声が噴出するのは間違いない。カジノ疑惑だって、すでに秋元以外の複数の自民党議員が賄賂を受け取っていた疑惑が取り沙汰されているのだ。河井の公選法違反疑惑にしても、検察がこのタイミングで現職国会議員の捜査に着手したのは立件に自信があるということ。つまり、いつ国会開会中の逮捕許諾請求があっても不思議じゃない。そうなれば安倍政権はたちまち火ダルマ状態になるのは間違いない。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。
「相次いでいる問題に対し、長期政権ゆえの腐敗、堕落のように報じられていますが、そうではなく、政権の体質がもともと悪いのです。これまでに辞任した閣僚だって1人や2人じゃないでしょう。いわば、政権内の毒がいよいよ全身に回り、それが表面化してきただけ。予算委では安倍首相も逃げられず、野党が徹底的に追及すれば政権もどうなるかわかりません」
「現政権は8年目を迎える。桃栗3年、今年は立派な柿を収穫したい。実はこの先もある。ユズは9年の花盛り。このユズまでは私も責任を持ち、大きな花を日本に咲かせていきたい」 7日に自民党本部で行われた新年仕事始めのあいさつ。安倍はこう言って総裁任期(3期9年)を全うする意欲を示し、あらためて「求心力」をアピールしていたが、もともと後ろ暗いことばかりやってきた悪辣政権だから、いったん、ほころびが出始めたら崩れるのはあっという間だ。 「補正予算を成立させた直後に解散するのではないか」――。通常国会での野党の激しい追及を予想し、永田町では「2月解散」説までささやかれているが、醜聞の連鎖が止められなくなった背景には、安倍政権の屋台骨を担ってきた菅官房長官の足元が揺らいだこともあるだろう。 昨年9月の内閣改造で菅が入閣を後押ししたとされる河井前法相と菅原前経産相の2閣僚が「政治とカネ」問題を理由にわずか1カ月半で辞任に追い込まれ、菅の昨年5月の訪米に同行した「右腕」の和泉洋人首相補佐官が不倫旅行疑惑で猛バッシングを受けた。新元号「令和」を発表して注目を集め、「ポスト安倍」に急浮上した時期もあったが、当時の勢いはすっかり衰え見る影もない
政治アナリストの伊藤惇夫氏がこう言う。 「長期政権の緩みたるみと一緒に閣内のきしみも出始めているのは間違いないでしょう。日本では過去、東京、札幌、長野で五輪が開かれていますが、いずれもその年に総理大臣が交代している。国会審議などで安倍首相の求心力が落ちれば、政権内で“政権交代”の動きが顕在化する可能性はあります」
■強制捜査、起訴権限を持つ検察を本気にさせた 安倍政権をグラつかせている理由は他にもある。今まで幾度となく政権の悪事が指摘されても、ダンマリを決め込んでいた法務・検察が態度を一変させていることだ。 今の稲田伸夫検事総長は、法務事務次官だった時に林真琴名古屋高検検事長(当時は法務省刑事局長)を次の事務次官に起用しようと考えていたが、官邸の横やりでご破算に。そうして後任の次官にねじ込まれたのが、菅の覚えめでたい黒川弘務東京高検検事長(当時は法務省官房長)だった。稲田検事総長はこの官邸人事に激怒していたとされるが、黒川は2月に定年を迎えるため、もはや法務・検察が官邸に忖度する必要は何もないと判断したのだろう。
人事や権限が官邸から法務・検察に“戻った”ことで、手のひら返しの対応に変わるというのも、それはそれで問題ありだが、いずれにしても他の霞が関省庁のヒラメ官僚と異なり、強制捜査、起訴権限を持つ検察が本気になれば、次から次へと安倍政権の醜聞が出てくるのは当たり前だ。 果たして総理大臣の在職日数が憲政史上最長となった世紀のデタラメ政権の命運と波乱国会の行方はどうなるのか。政治評論家の森田実氏がこう言う。 「政権の中枢が今ほどモラルや社会正義を失った時代はありません。戦後最低の政権と言っていいでしょう。五輪ムードが高まる前に野党は総辞職か解散に追い込む必要がある。野党が一丸となって徹底的に追及できるか。国民世論も後押しできるか。すべてはその動きにかかっています」 「今だけ、カネだけ、自分だけ」。平気で悪事を働き、隠し、バレても嘘を重ねる。こんな最悪政権は今年こそ鉄槌を下す時だ。
ーー日刊ゲンダイ18日より転載
橋ーー上論に全面賛成します