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「椿山課長の七日間」読後感


「椿山課長の七日間」

浅田次郎氏は元日本ペン会長で、平和や言論の自由に関するスタンスは正しく、私は評価してきた。

彼の作品はいくつか読んでいる。出世作「ポッポ屋」はよく描けていたし、映画も悪くなかった。ただ一点、当時、中曽根民営化によって、国鉄が解体され、千人を超す強制解雇者が路頭に迷ったことを「ポッポ屋」に書き込まなかったことを除いては。

今回、偶然娘の部屋で同書を見かけたので機上で読書しようと拝借した。機上だったのでメモ書きとかせずに通読した感想である。以下

〇出会いの機微を巧妙に書き込み、心理の襞を丁寧に書いて涙腺を刺激するのが人情派の作者のエンタティメントであり、重松清にも似た面がある。私は二人を好きな作家に入れている。

〇本作はヒットして、映画化も二度されているようで、観る予定にしている。売れたのは涙腺刺激作品である点、もう一つは「黄泉がえり」を興味深く面白く書いた点であろう

〇しかし、作者が霊界を理解して書いているかというとそうではない。中陰と冥途の区別すら曖昧ではまるっきり霊界を理解していないのだ。だから、エンターティナメントに徹しており、チラッとだけ霊界に興味を持っている読者に安心と満足を与えたのではないか。

〇主人公椿山課長は「邪淫」の罪を問われ、納得しなかった。で現世へ女性として戻り、意識は男性のまま、元男性の元ヤクザと疑似恋愛を楽しもうとキスをしたのち、スピリチュアルな恋愛にはセックスは不要と止める。現実的には職場の同期の女性とセックスを楽しみながら、彼女とは同志的繫がりとして、恋愛対象としなかったところが「邪淫」に問われているのである。この不整合!

〇以下は気に入った文章です

〇亡くなった課長の家に妻の愛人が家族の用心といって寝泊まりするようになります。弁明する母に息子が言う「それって日米安保だよ、外国軍が日本にいるって恥ずかしいことだよ。世界中の笑いもの。お母さんも彼もそう」

〇「僕ら二人が死なずに大人になれたら政治家かなんかになって、きっと素晴らしい日本を作ったと思うよ。何故なら僕らは嘘をつかない」と言い切る少年――安倍に聞かせたい科白

〇「人殺しだけはするな。人を殺さねばならないくらいなら自分が死ね」――うん。自衛隊体験者,浅田氏の至言!

兵隊でシベリア捕虜から帰ってきたおじいちゃん。帰ってからじいちゃんは考えたんだね、お金も贅沢もいらない。かわいそうな人に自分の全部の力をあげようと。そしておじいちゃんは世界中の不幸と言う不幸を全部自分の責任と考えている。それって男の中の男だよ

〇おじいちゃんは言った「小役人ではあったが血税をあだやおろそかにしなかった点で、百倍の自信を持っている。〈略〉弱きを救え。法を曲げても正義を貫け」――これも安倍にきかせたい

死にゆく爺さんの述懐――妻へ。自分の近しい人から幸せにしていくのが道理だと思う。でも俺にはそれができなかった。ほんとは一万回でも百万回でも愛しているといいたかった。許せーー

いるんです、そういう人が。私も同類ーー橋

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