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実存ヒプノ⑧脱稿ーー副題「チークダンスは二人で」


初稿自己採点45点なりの「実存ヒプノ⑧」を枚数31枚で脱稿しました。産みの苦しみを乗り越えーーイャー嬉しいです、。この完成のよろこびの為に今まで苦難の一か月だったと思えばーー以下、一部を転載します。全文を作品集に掲載するのは八月「全作家短編小説集十八」刊行後とご理解下さい。

 思いがけない偶然に出会った。尤も精神世界には偶然は無く、共鳴(シンクロニシティ)が招いた必然と考える。

 教え子の子供と出会ったのである。

 青年は寒気が押し寄せていた夜、繁華街で一人、生ギターを抱えて路上ライブをやっていた。しばらく様子を見ていたが聴き入る客も、当然ながら開いたギターケースに投げ銭を入れる様子も見られなかった。三十歳くらいの彼が尾崎豊を歌い終えたのをシオに近づき、しゃがんでから言った「浜田(ハマ)省吾(ショー)と長渕(つ)剛(よし)を歌えるかい、曲はまかせる」。やりますというと、両手を服に突っ込んだ。使い捨てカイロで温めたのかと思うや、楽譜集を捲ると彼は歌い始めた。曲風の異なる二人の歌手(シンガー)の曲二曲を終えた彼のケースに千円札一枚を入れ、他に何も入って無いのを確認して聴いた。どこからきたの。東京です。今夜泊るところは。返事はなく笑顔を返した男を誘った。ウチに来ないか、独り暮らしだ、気兼ねは要らない、と。路上芸人が寝袋一つで公園やビル街に寝泊まりするのは知っていた。旅する若者を家に誘い込んだ事は過去幾度もある、お節介なのだ。

 半ば強引に家に連れて行き、スト―ブおでんと焼酎で語るうちに意外な事が解った。何故鹿児島にの問いに、東京はヘブンアーティスト条例とかがあって路上ライブの規制が厳しい、それで感性を磨こうと旅している。寒い時期は南国がいいかなと、それに父親の郷里だしと健康そうな歯を見せて語った。

 自分が催眠(ヒプノ)療法(セラピー)をやっていると語ると、父も高校時代に催眠をやって貰った経験があると。すぐに自分の事と理解した、県内で催眠をやれる教師は知らない。父の出身だという地域には勤務歴があった。だが、息子の顔から父親の顔は思い浮かばなかった。訊いてみた、過去世は何だっのかな。考え込んだ後、彼は口を開いた

「確か、といびきと語ったような」

「といびき、って」「鉱山で出水を汲み出す仕事だったとか」

「へえ。そうなんだ、いつ頃だったのかな」

「無宿改めに引っ掛かってヤマへ送り込まれたと、江戸期頃かな。憶えてませんか」

「残念だけど。個別や集団催眠(ヒプノ)併せて二千人くらいはやっているからね」催眠談義に話が弾んだ後、彼が言った、やってみたいですと。で、翌朝実施と決める、飲酒後はやらないのが鉄則だし、青年は当HPを見ていない。代金を貰うで無し、過去世が出なくても仕方はない、親子二代は過去数件やってきたが、興味が湧いた。

――現生に最も関係深い過去生です。何をしていますか

「水屋が遅いんで心配してるのよ。」「水屋って」

「水商い」「水を買うんですか」

「あたりきよ。来るのは間違いねえんだが、担ぎ屋の爺さんが転んだんじゃねえかとな」「もう少し詳しく教えて貰えますか」「何をだい」

「どこでいつ何をしているか、など」「江戸は深川、商売は夜鷹よ」

「夜鷹って街娼さん?」「からかってみたのよ。夜鳴きだ、蕎麦よ」

「おお、蕎麦屋さん、いいなぁ」「何でえ」

「私も蕎麦打つんですよ、二八とか」

「同業か、最近、やたらと増えてるからなぁ」

「いや、こちとらは趣味なんですわ」「そうか」

「水屋を待っているとは?」「買う為さ」

「井戸はないんですか」「ここらは塩っぽくて使えないから買うしかないのよ。水は命だからな」

「水の価格は」「一荷、二桶四文」

「蕎麦は」「十六文が通り相場よ。だから二八」

「水屋さんの事を教えて貰えますか」

「おう、蕎麦は捏ねに湯がきに出汁に水は欠かせねえだろ。だから買っている。万一の用心の為に二人から仕入れているんだが、この二人ともが信用できるんだな。一度たりと御用に間違いはない。儲け無しの商売なのによ。見上げたもんだ。爺さんは引退したいらしいんだが跡継ぎが見つからないらしいや」

「大変なんですね。で、出汁はなんで取られるのかな」「鰹削り」

「おお、私と一緒だ。他には」

「よせよ。何で教えねばなんねえ。同業が増えてると言ったろ」「では、その生を終えた中間生です。どうでしたか一生は」

「まじめに蕎麦屋をやって家族も養った人生でしたが、評判が悪かったのが残念でしたね」

「どういう事?」

「夜鷹蕎麦とか慳貪(けんどん)蕎麦とか良くは呼ばれなかったな、自分の事では無いのですが」

「慳貪(けんどん)蕎麦とは」

「つっ慳貪(けんどん)です。客あっての商売です。愛想無しはだめでしょう」

「そうですか。では現生へのメッセージをお願いできますか」

「出汁の話に戻りますが」「聞かせて貰えますか」

「隠し味は愛情とか言うでしょ」「ええ」

「調理とは美味しいものを召し上がって貰いたい、その真心に尽きます。音楽家も同様でしょ、曲で自分が伝えたい心は何か、そこを見失わない事、以上です」

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