時事論二題
① 医療立国論
過日、南日本新聞コラム「時言」で井上ひさし著「父と暮らせば」が紹介され、被爆や戦争の記憶に思いを馳せたいとあった。九条の会発起人の一人で、日本ペンクラブ元会長でもあった井上氏には「吉里吉里人」という大作がある。東北のある寒村が政府に反旗を翻し、吉里吉里国〈きりきりこく〉として独立を名乗る話である。自給自足を基本に独立の柱の一つが医療立国だった。中の「他国にできない高度な医療を受ける為に、多くの国から入国した多数の要人達は、〈人質〉にもなり得ます。多数の要人が接遇されているそんな国が攻撃されますか」という内容だったとの記憶がある。
また七日付けではワクチン特集で、「開発と争奪ダブル敗戦」の見出しで米国のワクチン審査に携わった経験のある東大石井教授の「日本ではワクチンが国防や外交の要という概念が欠けている」との談を載せていた。国防とは防衛費を増大させる事だけでなく、根本となる医療面での国民の安全保障や緊急時の食糧保障も重要と考える。食の元となる種子の自家生産が困難になりかねない種苗法改正や、水道水民営化に道を開いた水道法改正などは果たして国民の安全な生活の保障に繋がるのか疑問に思っている。
➁ヘイトクライムと大谷選手の心配り
先月、米国でヘイトクライム(憎悪犯罪)禁止法が成立した。新型コロナの感染拡大に伴いアジア系住民への憎悪犯罪が急増したからとされる。新型コロナを〈中国ウイルス〉と呼び憎悪を煽ったトランプ前大統領に原因ありとの指摘もある。指導者は言動に心配りして貰いたいものだ。
一方心温まる出来事も目にした。米国は大谷選手だ。大谷論に入る前に筆者の「日ハム」論から。
凡そ半世紀前の筆者の売り出し文句はこうだった「野球は東映、映画も東映一途の男です」。今の日本ハムの前身になるのが東映フライヤーズで、土橋というエースの元、「暴れん坊」というのがチームカラーだった。管理野球とは対極の個性尊重である。そんな気風を受け継いだところに「大谷の二刀流」を球団が認めたものと筆者は思っている。他球団だったら「二刀流」は消滅させられていただろうと、以下、大谷論である。六月18日、単打で出塁した彼は対戦相手の張育成一塁手に声かけて談笑した。その様子を台湾メディアも好意的に取り上げ広く知られる事となった。二人の会話はこうだ。大谷「陽岱鋼〈ようだいかん〉を知っていますか?」。張「知ってるよ。郷土の先輩だもの」。陽選手は台湾出身で大谷の日ハム時代の同僚だった人物である。この短い会話だけで二人の間には友情が芽生えた事だろうし、台湾に大谷ファンが増えた事は疑い得まい。東北大震災時に台湾がいち早く多くの支援をしてくれた事を国民は忘れていないし、大谷の言動も台湾友好の土壌が為さしめたものと思う。先月、日米共同説明に台湾の名が半世紀ぶりに挙げられたが、日台国民の信頼は共同戦線に勇まし気に名乗りを挙げる事ではないと考えた次第である。先日、台湾に日本からコロナワクチンが供与された事も望ましく思う次第である。我が国が「一つの中国論」を過去に承認した事は差し置いても。ーー南九州新聞コラム17日掲載予定です
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