哲人論➂アリストテレス
プラトン〈哲人政治論〉の続きから。彼は考えた。正義の伝道師ソクラテスに何故、死刑の判決がでたのか。その理由を彼は指導者達が愚かだった所為だと断定する。故に師の叡知を見抜けず、ポピュリズム〈大衆迎合〉的にソクラテスに獄死の判決をするに至ったのだと。愚かな人間が政治に加わってはならない。大衆民主主義政治は破棄し、哲人のみが政治に参加するか、政治指導者は悉く哲学を勉強すべし、と説いたのである。
そのプラトンの建てた学校アカデメィア〈注。アカデミーの語源。意味は学問〉で学んだのが弟子にあたるアリストテレスである。彼は後のマケドニア国王アレキサンダーの家庭教師をした事で知られる。余談である、前安倍総理の少年時の家庭教師を務めたのが菅政権で復興大臣として七十五で初入閣を果たした平沢勝栄氏だ。安倍内閣が恩師の入閣をさせなかったのは、平沢氏が安倍少年を定規で叩いた事に対する怨念からという説と、身近な人間を抜擢すると〈えこひいき〉の批判が起こる事を憂えた、とする説があるが、森加計桜問題同様に真相は藪の中である。
さてアリストテレスは〈万学・ばんがく〉の祖と言われる。哲学から数学、自然科学に至るまで膨大な学問体系の基礎を作ったからである。師、プラトンのイデア論に対する批判をのみ紹介したい。氏は、完全な実在をイデアと呼び、真実の存在は現世には存在せず、かつて魂のみで暮らしていたイデア界にしか存在しない。それを人は想起しているのだとした。
対し、アリストテレスは反論した。「この世に存在しないものを追慕して何になるというのだ、理想は手に入らず求めるのみという点で師は理想主義だ。私は違う、理想は実現する事に意味がある。その点で私は現実主義を自認する」と。「理想というものは現実の中に有るのだ。全ての個物は形相〈形〉と質量〈材料〉からなる。例えば一個の石をみて職人が頭に閃く、この石はここを削れば石組みの家の土台、または壁の一部に使えると思った、その時石の可能性が現実となる。可能性が現実になった形、それこそイデアそのものじゃないか、とした。このギリシア語の〈イデア〉は英語のアイデアの語源となったとされる。この二人の関係を描いたのがルネサンスの画家ラファエロである。ルネヴァチカン宮殿所蔵壁画『アテネの学堂』の中で、二人は向き合い、プラトンの片手が天を指し、アリストテレスは地面を指している、それが理想主義と現実主義を象徴しているとされる。二人の傍らでソクラテスは対話にいそしんでいるのだ。アリストテレスの言葉として「「人間は、目標を追い求める動物である。目標へ到達しようと努力する事によってのみ、人生が意味あるものとなる」というのがある。
蛇足である。「アリストテレス」という名の競走馬が活躍している、ご存じか。名馬に習い、皆様が今年を快調に駆け抜けられん事を祈ります!丑年生まれの筆者は牛歩で歩むしかないですが。
ーー南九州新聞コラム掲載済み
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