三高から四低へ
「哲学者論⑤デカルト」の予定でしたが延期とします。理由は、アリストテレス以後哲学が長い暗黒の時代に入るからです。キリスト教が瞬く間にローマ帝国の中で支持を広げると、権力者は同教を国教として認定し、キリスト教神学が学問の王道になります。「哲学は神学の僕〈しもべ・召使〉」とされ、キリスト教神学に抵触する学問は異端とされ、極刑は火炙りの宗教裁判が待っていました。判例としてはガリレオ裁判があります。「地動説」事件です。それまで、神が創られたこの地球の周りを天が廻るとされていた宇宙論・天動説に対し、彼は、地球が天〈太陽〉の周りを廻っているという新論・地動説を唱えたのです。だが彼は宗教裁判の場で自説を否定させられるのです。終了後に〈それでも地球は動く〉と呟いた逸話が残っています。
思い出したのが日本学術会議問題です。政権に異を唱えた六名の学者が任命拒否とされました。学問研究は五十年、百年先にその成果が評価されるものもあるのです。時の政権に都合のいい研究つまり政権の僕〈しもべ〉になるという事は学問の否定です。キリスト教支配下で学問が沈没した暗愚の歴史を繰り返すべきではありません。
さて、以下は筆者が執筆中の創作「実存ヒプノ⑭」からの転載です。
「学術会議の機能が停止したら、コロナ対策にせよ専門家会議のみの機能になっちまう。国民にとって大きな損失、ゆゆしき事態だと思うね。で、ブン、お前は何か動いたか」「日本ペンが抗議声明を出した時、評価はするが表明が遅いと電話した」「些細でも動く事が大切だな、我々の運動は。ところで女の方はどうなってる? ニューディルは進んでいるのか。新規蒔き直しよ。意中の女に捨てられたのなら新しい開拓しかないだろ。それに救いは無きにしもあらず、だね。お前の時代になりつつあるかも知れん」「どういう事だぃ」「あんまり期待せずに聞けよ。以前、三高とか言われた時代があっただろ、高身長、高収入とかの」「おう。俺は遙かに勝る四高だった」「初耳だ」「高血圧、高血糖、高脂血に高尿酸」「高齢を足せば五高だな、凄すぎるわ。ところが時代は四低に移行中なのさ。知ってたか」「四低だと。うんにゃ」「教えてやろう。四低の一は、女性への低姿勢」「低姿勢ね。前妻への亭主関白を猛省したオレだ。次は低姿勢間違い無し」「よろし。二は妻への低依存。家事分担できるよな?」「おう。六年のやもめ暮らしで家事ならバッチリよ」「三の低リスクとは、リストラの心配無し」「年金暮らしだ。リストラ無しは保証付き」「四は低燃費。つまり金のかかる趣味が無い」「まかせとけ。山と海の遊びは卒業したし。今は原稿に向かうだけの金要らず趣味だ」「よし。とりあえず合格だ、後は女の高望みをしない事だ」「ブラジャー間違いラジャー、完璧に解ってるって。美人でなくとも可愛くて優しくて、若くて働き者で、それに健康的で正直でありさえすればいい」「それを高望みというのだ。身の程をわきまえろ」「身の程を弁えろなんて、友人に言う言葉か。アナクロも甚だし、だ」「枯れ木に花を咲かせられそうにもない今のお前には、それくらいの注文が必要って事さね」。
――南九州新聞コラム掲載済み。短編「実存ヒプノ⑭」は今夏2011/8月刊行予定です
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