三丁目の夕日⑫
【終戦記念日】一平君たちは、〈戦争ごっこ〉が好きで、二手に分かれてピストルで撃ち合う遊びをよくやっいた。そこに通りかかった学級委員の美佐子さんから「やめなさい。大勢の人が死んでいるのだから不謹慎でしょ」と注意され「チエッ、俺たちが戦争ごっこやったからと言って、本当の戦争が起こる訳じゃ無し」と不満げな少年達だった。その帰り、一平君の家でスイカをごちそうになった三郎くんは「僕と同じ長男なのにどうして三の名前がついてるの」と一平君に言われ「ひょっとして貰い子なのかも」と不安になる。帰るなり母親に尋ねると
「思い出すと辛すぎるので、三ちゃんには話してなかったけど、貴方が生まれる前に二人のお兄さんがいたのよ」と二人の話しをしてくれたのだった。「昭和二十年初夏の頃、大空襲があったの。母さんは次郎ちゃんをオンブし、一郎ちゃんの手を引いて逃げ惑ったけどはぐれてしまい、翌日、多くの死人の中に彼をみつけたの。そして戦争が終わった年の冬、栄養失調に肺炎で次郎ちゃんも無くなり、翌年、お父さんが戦地から帰ってきて三ちゃんが生まれたの。兄ちゃんたちは写真も残ってないので、忘れないでおこうとあなたには三郎と三の字をつけたの」と。送り火を炊いたその夜、三郎の前に二人の兄さんが現れるが二人は小さい子供のままだ。「死んだ子供はその年のままで大きくなれないんだ」と語った兄さんは続ける゜だから三郎は僕たちの分まで長生きして大きくなって、父ちゃんや母ちゃんを大切にしてね」と。翌日、戦争ごっこに誘われるも断り、みんなでターザンごっこで楽しむ。一平くんが言う「今日は終戦記念日だったね。やっぱ戦争ごっこはやめて良かったな、さぶちゃん」と。周りで蝉の鳴き声が姦〈かしま〉しい昼過ぎのお話である。
【迎え火】平和(ひらかず)くんの家ではお盆の準備をしていた。キュウリとナスで馬を作ったり。金平糖のお備えをするお母さんに「どうして金平糖を」と彼が訊くと「亡くなった朋子姉ちゃんがすきだったからね」と答える。一家は中国からの引き上げ組だった。その時の事を思い出している。【「急げ、ソ連軍が折ってくるぞ」゜日本の兵隊さんはどうしたんだ】「民間人を見捨てて先ににげちまったとさ」などとグチを言いながらの逃避行である。疲れておなかを減らした朋子ちゃんの最期の言葉は「金平糖をたべたい」だったがどうしようも無かったのである。満州からの引き揚げは困窮を極め、戦火や病気そして飢えで帰国できぬまま十七万人以上が死亡したと言われる。「もう戦争はコリゴリ。平和で穏やかな暮らしが一番だわ」「全くだ。戦争が無かったら朋子だって生きていたんだ。だから平和、大人になっても絶対に戦争なんかしちゃだめだぞ」と語らっているところに大きな蛾がとびこんでくる。「お盆に殺生は禁物だよ。日本では蛾は嫌われ者だけど、中国では、蛾眉(がび)といって蛾の触角のような眉は美人とされるんだ」と語る父さん。翌朝、蛾は消えていた。遠い大陸でしんだ朋子の魂が蛾になって戻って来たのかも知れないと思う母さんだった、というお話
ーー南九州新聞コラム掲載済み
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