三丁目の夕日⑧
コミック「三丁目の夕日」から題材をとった追想記で時代は昭和30年代である。戦後10年を経て、新憲法下、国家という軛〈くびき〉から解放され、〈個人として〉国民が生活
に勤しみ始めた時代と言える。筆者は小中時代である。【】はコミックのタイトルである。
【紙風船】。本タイトルで〈置き薬〉が浮かんだ方は筆者と同じく団塊世代かもしれない。コミックの粗筋はこうである。小学生の女児ちえ子ちゃんは置き薬屋さんを怖がっていた。おばあちゃんが亡くなったのは得体の知れない越中富山の置き薬の所為だと思っていたし、何より年に二回ほど訪問してくる薬屋さんの風貌が不気味で、人さらいの〈山椒大夫・さんしょうだゆう〉のイメージを彷彿〈ほうふつ〉させたからである。山椒大夫とは幼い子供の安寿と厨子王をサラって売り飛ばした残忍な人さらいの首領で、森鴎外の同名小説で知られている。ある日、腹痛で苦しんだちえ子ちゃんだが、置き薬の〈熊のい〉を飲んで快癒(かいゆ)し、薬屋さんがくれた五色の紙風船で恐怖は好意に変わってしまう、というお話。
ドラッグストアも通院用の車も無かった時代、置き薬に頼る家は多かったのではなかろうか。薬箱には、赤チン、キンカン、オキシフル、アンモニアほか頭痛、腹痛などの丸薬が詰め込まれていた。筆者の幼少時の秘密である。腹が減った時に薬箱から「正露丸」をこっそり取り出して飲み込み、空腹を満たしていた。おやつがわりだったのである。今でも丸薬は薬なしで平気で飲み込める。特技とは言えないか! さて、小学ではそれほど目立たなかった体格差が中学では目立つようになる。中三の友人ヨシト君は大きな体格にハンサムで淡白な性格もあってモテていたように思う。会わずにいたが、ある時、写真入賞者に名前を見つけて「カメラマンか、頑張ってるな」と嬉しく思った記憶がある。
【幻灯機】。子どもの由美子ちゃんは兄さんと30分ほど離れたばあちゃんちに行った帰りに、兄さんの友達一平くんと合い、彼の家の幻灯機で〈黒頭巾〉を観せて貰う。その帰り、道に迷い、兄さんとはぐれるが、〈お月見祭り〉を楽しんで帰宅する。だが、その祭りは狸さん達の祭りで、〈化かされていた〉というお話。
筆者が幻灯機の映写を観たのは小二の頃、北薩の小学校にいた時、医者の息子である友達の家で初めて見た。内容は覚えていないが、医者の子供は金持ちなんだな、と思った記憶がある。TVが家庭に来たのはいつだったか、はっきりした記憶がないのは、正式な購入で無く、期間を定めて電気屋さんが引き揚げていた〈仮置き〉からだ。集落の仮置きの家に子供たちはたむろして見せて貰いに行っていた。一番人気は力道山のプロレスで、小学校の昼休みはプロレスごっこが盛んだった。他には西部劇で「ローハイド」「ライフルマン」「アニーよ銃をとれ」などはタイトルを聞くだけで、実際に観られたのは僅かである。観たいという願望がトラウマになった訳では無かろうが、〈失われた学童時代〉を取り戻すべく、今はDVDで西部劇を観ている。100本以上は観た。が、白人が先住民のインディアンを支配していくのは御免だ。そんな内容は殆ど無いけれど。
ーー南九州新聞コラム掲載済み
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