三丁目の夕日⑥
コミック「三丁目の夕日」から題材をとった私的追想記で、時代は昭和30年代である。戦後10年を経て、新憲法下、国家という軛〈くびき〉から解放され、〈個人として〉国民が生活に勤しみ始めた時代と言える。筆者の小中学時代である。【】はコミックのタイトルである。
【夕日堂の看板娘】。〈看板娘――店先で、客をひきつけるような美しい娘〉。古本屋の夕日堂は母親と30になる一人息子と二人でやっていた。経営は傾きつつあったのだが、息子は「大学出したのに就職せず、売れもしない小説書いては家でゴロゴロ、まだ独身」と言うのが母の悩みの種だった。隣町の古本店主から「ウチは息子が美人の嫁を貰って、その嫁が店番し始めたら客が増えて大繁盛ですわ」と聞き、息子に縁談を勧めるが乗ってこない。そこで「求。眉目秀麗女性。愛想良しで読書好き」の求人をするも効果なし。ある日、息子が捨て猫を拾ってくる。その子猫が可愛くて愛想がよく、店番の母親の隣に座っているうちに評判になり、マスコミにも取り上げられて人気店になるという話。
筆者の小学校の近くに町立図書館があった。だが熱心に借りた方ではない。同級生のやす子さんは足しげく通い、後年聞いた話では「児童向けの本は殆ど読みました」との事だから、凄いと思った記憶がある。筆者が熱心でなかったのは〈山学校〉の方が忙しく、余計な本を抱えての片道3キロ程の通学が難儀だったからに他ならない。記憶に残っている本はユゴーの「レ・ミゼラブル〈ああ無情〉」である。貧乏から盗みをした主人公ジャンバルジャンと子コゼットの名を憶えているくらいで、話は途中までしか記憶がない。ギネス記録によると最高に短い手紙としてユゴーと出版社の通信があるそうな。「?」に対して「!」という返信で、意味は「本は売れてるか」「ええ、評判です」になるようですとの意味だと。さて五年前の16年、イタリアの最高裁はホームレスの青年のチーズとソーセージの窃盗に無罪判決を出してます。「飢えをしのぐ為に少量の食物を盗む事は犯罪には当たらない」というものです。我が国の「貧困率」に思いを馳せてしまいました。
【レットイットビー】。洋一君は不勉強から落第して高二を繰り返す事となった。だが、一年下の同級生が子供っぽく見え、毎年同じダジャレを繰り返す先生達の授業もつまらなくて孤立していた。独り教室で音楽雑誌の「ビートルズ」特集を拡げていると「ビートルズファンなのか」と声をかけてきた同級生がいて、「レットイットビー〈訳・なすがままに〉」から、「イエスタデー」「ヘイジュード」と話が弾み、友達になっていった。うち二人は生涯の親友となり、一人の女子生徒は生涯の伴侶となった、と話しは続いて末尾はこう結ばれている。「人生には、時として回り道もある。しかしそれが何より大切な宝物になることもあるのだ」、である。
筆者も同期より二年遅れの社会人になったが、悔いる事はない。「すべての出来事は必然的で、且つ最上の意味がある」と思っている。頑張れ、浪人生諸君!未だ対面授業が叶っていない学生諸君にもエールを送りたい! 「雪に耐えて梅花麗し」好きな西郷さんの言葉である。
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