三丁目の夕日⑬
「三丁目の夕日」⑬戦争の爪痕
本シリーズは同名のコミック昭和30 年代を描いたものからの連想だが、主人公「一平」君の名に平和への願いが込められている事は最初に紹介しました。コミックの中に格別、「戦争や平和」がテーマとして挙げられている事は多くはありませんが、今回特に「戦争と平和」が描かれている内容を紹介しています。筆者の追想は無しです。
【蜃気楼】昭和20,年四月、空襲を避けて富山県魚津市のばあちゃんの家に疎開していた幹夫君はその日、初めて蜃気楼をみた。富山湾の奥に町らしきものが見えたのである。そこで父さんが去年誕生プレゼントとしてくれた宝物の双眼鏡で見てみると、はっきりと自分の家族や犬猫迄そろって見えたのである。だが、祖母は隠していた、ひと月前の空襲で家は破壊されて一家も全滅してしまっていた事を。そして終戦。親戚の叔父夫婦に引き取られ、元の実家の焼け跡を見せられるが幹夫君には絶対信じられない。叔父叔母にも懐かぬまま時が過ぎて行った。ある日、不思議な雲を見た彼は双眼鏡で確かめると自分の家が見えたのである。玄関には犬のムサシが寝そべっていた。会いに出かけると、やっぱりみんな生きていて再会を喜び合うのだった。ところが八時になって「もう帰らなくちゃ」と父が言い、母も「自分たちはこの世の人でないから一緒に暮らせないの」と言う。「今日会えたのは、さよならも言えないまま死に別れた私達を神様が憐れんで三時間だけこの世に戻して下さったからなの。どうか私達みんなの分まで長生きして幸せになってね。そして大人になる頃には戦争なんかのない平和な世の中を作ってほしいの」と言い、「さよなら」と兄さん姉さんは手を振って消えるのだった。そして実家の焼け跡に茫然と立ちすくむ幹夫君を探しに来た叔父叔母さんが発見するのだった、というお話。
【幻海紀行】小学生のタカオ君は家のある広島市から小船で数時間の祖母の家に疎開する事になった。終戦の年である。そして船の中から、広島市に巨大な雲が立ち上がり、間もなく船にも黒い雨が降って真っ黒に汚れるのである。原爆雲と被爆だった。そして誰も迎えの来ないままタカオ君はばあちゃんと二人暮らしを続ける。やがて自分を運んだ船長さんが鼻や口から大量の出血をして死んだ時、異様な死に人々はウミヘビの祟りじゃと怖れる。そして四年が経ち彼が中学生になった時、いつも高台の家から彼を見守っていたばあちゃんが他界する。「これからもいつも見守っているからね」の言葉を残して。その後彼は村長の家に住み込みで働く。天気のいい日に高台の家を見るといつも玄関に立つばあちゃんの姿が見えるのだった。村長と乗った船が嵐に巻き込まれて進路が判らなくなった時に現れたばあちゃんが水先案内して助けてくれた事もあった。そして結婚し二人の子供を育てていた或る日、彼は倒れる。原爆症の発症だった。危篤状態の彼の枕元に立ち、励ましてくれたばあちゃんのおかげで彼は生還する。そして子供を連れて島に墓参りする。帰りに高台の家を振りかえると玄関から見守るばあちゃんの姿が見えた。「せめてこの子が育つまでは見守ってね」とお願いするタカオさんだった。ーー南九州新聞コラム掲載済み
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