ムーア・「世界侵略のすすめ」
第二次大戦後の米国はベトナム、アフガン、イラク、シリア、リビア、イエメンと度重なる侵略戦争を試みたが成果を生む事は無かった。で、国防総省幹部から相談を持ち掛けられたのがムーア監督。そこでムーアは、自身が国防省に代わり、「侵略者」となって、世界各国から「あるモノ」を略奪する為に出撃する。空母ロナルド・レーガンに搭乗し、ヨーロッパを目指していく。ドキュメントらしい手法で自らインタビューしたものを紹介する手法である。
最初はイタリア。注目したのは〈労働環境〉だった。翌年に持ち越せる八週間の有休休暇があり、年末にはバカンス費用として一月分以上のボーナスが出る。結婚の場合、有給休暇は追加される。ランチタイムは二時間で殆どの労働者が帰宅して家族とランチを楽しんでいる。平均寿命は八十三歳、日本は八十四歳である。以下は筆者感想。日本人が欧米諸国から〈働き蜂〉と呼ばれて久しい。それでも、平均寿命は世界トップクラスだと知ると、「日本人は死ぬ暇もないくらい忙しいのか」とのジョークがあるそうだ。健康寿命の比較なら日本は七十五歳の二位、イタリアは七十三、トップはシンガポールで七十六である。
次の目的地はフランス。注目したのは〈学校給食〉だった。日本の給食とは比較にならない豪華なフレンチが提供され、給食当番は生徒でなくプロの大人がして食事マナーも教えられていた。食育を大切する国と言っていいだろう。子ども達に米国の給食の画像を見せると、その粗末さに一様に嫌悪感を示した。給食代は米国とほぼ同額だそうだ。
次はフィンランドの〈学校教育〉だった。ここはかつて学力重視の米国と同レベルの学力だったが、ある方法で現在は世界トップ国となった。その手法とは、宿題を無くす事だった。そこから自由な時間が生まれ、興味関心が広がる事で自主性が伸びたのである。学力の地域差も無く、私立校も殆どないのだという。学力重視の米国と異なり、教師達は学力を身につける事より子どもが幸せになる生き方を身につけてほしいと望んでいるようだった。翻って我が国の共通テストは官僚制という弊害を生むだけでは、と思わされた。
次はスロベニアの〈大学〉。授業料は無料。外国人留学生も同様で、英語での授業もなされるので米国で授業料を払えなかった学生の留学も少なくない。それらの学生は「講義のレベルは高い」と満足していた。比べて我が国の奨学生は四年で500万に近い借金を背負って社会に出ていく。最近のコロナ禍でバイトが出来ず、学費と生活難から退学を考えている大学・専門学校生徒が二割近いという〈五月時点調査〉。国の将来を考える時、暗澹たる思いにならざるを得ない。
次はドイツの〈労働環境〉。週労働時間が36時間で、退社後に上司が部下にメールや電話をする事は法律で禁じられている。〈歴史教育〉では過去の歴史を、正しく教える事が未来に繋がるという理念に貫かれていた。元大統領ワイゼッカー氏の85年5月の連邦議会における演説「過去に目を閉ざす者は、現在に対してもやはり盲目となる」の精神が脈々と受け繋がれていると思った。以下〈ノルウェーの刑務所〉事情など、次号へ。ーー19日。南九州新聞コラム掲載
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