「三丁目の夕日」追想①
本論で描くのはコミック「三丁目の夕日」から題材をとった昭和30年代の追想記である。戦後10年を経て、新憲法下、国家という軛〈くびき〉から解放され、〈個人として〉国民が生活に勤しみ始めた時代と言える。BGMには「私の青空」をお勧めしたい。歌詞の一部は〈夕暮れに仰ぎ見る輝く碧空 日が暮れてたどるは我が家の細道 狭いながらも楽しい我が家―略―恋しい家こそ私の青空〉である。エノケンでヒットしたが高田渡をお勧めしたい。文の冒頭【】は「夕日」の中のタイトルである。
【時の記念日】。役所勤めの岩田さんは父親譲りの高級腕時計が自慢で、公私とも時間に厳格。だけでなく、 職場でも会計として入札やカラ出張にも厳格で、自宅にくる中元や歳暮の品が業者からと知ると送り返しを奥さんに命じていた。親戚から息子へラジオが誕生祝いに届けられても役所の出入り業者と判ると返せと怒鳴って喧嘩となる、その最中にラジオは壊れて新品を買って返す始末となるのだが。妻と口論した時の彼のセリフは「公務員は国民の尊い税金で生活してるんだ。アルバイトやワイロにカラ出張など、真の公務員たる者ほんの僅かでも疑惑を持たれるような事は絶対に慎まねばならないのだ」であった。謹厳実直さから職場で疎まれもしていた彼だが、近隣の役所で談合事件が発生した時、彼の役所は一人も逮捕者を出さずに同僚から感謝される事となる。その後、高級腕時計は息子の学資工面の為に質屋に手放して、それから彼の人柄も少し角が取れたようになった、というお話。
筆者は大学入学時に初めて父が腕時計を買ってくれた。金がない時に質屋に何度も出し入れした。二千円という金額で助かったのは、土工さんのバイトが日当八百円の頃である。嘘かホントか知らないが以下二つのお話。民間業者が公務員に近づく時、奥さんが喜びそうなものを送る。最初は負担を感じない些細なものから次第に高価な物へと。もう一つ、公務員を落す法という隠語がある。「五セル」というものである。五セルとは、「食わせる、飲ませる、握らせる、威張らせる、抱〇せる」。公務員は民間業者と不要な付き合いをなさぬが為、自宅住所入りの名刺は持たないものと思ってるが、昨今の総務省・郵政省役人の業者とのドロドロした接待癒着はいかがなものかと、その麻痺した感覚に信じられない思いでいる。
【クラス替え・前】。五年に進級したケン太くんはクラス替えで大好きだった元担任の先生の学級になれず、今までの仲良し友達からも引き離されたと思い、それまで可愛がってくれた元担任を恨み、わだかまりから先生と距離を置くようになる。高校生になったある日、当時の新担任と出逢い、「元担任は生徒の事を想い、他の学級に行った方が伸びると思った生徒は積極的に手放す方針だった」と聞かされ、納得して元担任に会いに行きたくなるお話である。
筆者は小四のクラス替えで片思いのえりちゃんと離れてしまった。それで、昼飯時には弁当持参で彼女のいるクラスに行った。彼女に好意を寄せていた男十人程が、親友のまさはる君と同席していた彼女を囲んで食事会を続けた。彼女がその場から逃げ出さなかったのが救いだと思ってるが、さて。
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