「お帰り寅さん」と「パラサイト」
盆・正月と言えば独身時代は酒瓶を手に映画を見に行くのが常だった。
そして今年。コロナ禍もあり、借りたDVDを独り、自宅で見る羽目となった。勿論、酒肴と共にである。今夏に観た映画から四本の感想である。
〇「お帰り寅さん」。ご存じ「フーテンの寅さん」の最終リメイク版である。寅さんの甥っ子の満男君の回想で物語が綴られていく。満男君〈吉岡秀隆〉は幼児から立派な大人に成長している。へき地診療所の医師でなく、小説家だ。若くて綺麗だった妹のさくら〈倍賞千恵子〉さんも年齢の深まりを感じさせる。主題歌をサザンの桑田氏が歌ったが違和感はなかった。
〈目方で男が売れるなら何の苦労もないだろに〉。の歌詞は、「男は売れてナンボ」と言った昭和の風潮を感じさせた。回想に是非使って欲しいシーンが二つとも出ていたのは嬉しかった。一つは、旅先から帰った寅さん
、貰いもののメロンが彼の分が勘定にいれてなくて、その事でむくれるシーン。つましく生きている人がそれでもケンカに至るのは〈ささやかな欲〉かと、寅さんの細い目が真剣で、筆者は笑えなかった。もう一つは、もてない寅さんが流しの歌手リリー〈浅丘るり子〉さんから「結婚してもいいわよ」と打ち明けられるシーン。思いを寄せていた美女からの告白に天にも昇る心持になるはずだが。「冗談言っちゃいけねえよ。からかってんだろ」が寅さんの売り言葉で、「冗談よ」の買い言葉で話が霧消してしまうシーン。五十作のシリーズで未視聴のものを見たい気が強まった。
〇「パラサイト〈原題・寄生虫〉」は、昨年のカンヌ映画祭で最高賞を獲った韓国映画である。夫婦と青年男女の四人家族は失業中で、劣悪な住居、〈半地下〉で暮らしている。息子に大富豪の子の家庭教師の職が手は行ったことを機に、家族全員が身分を隠して金持ち一家に寄生しようと企てる。父は運転手、母は家政婦と。身分を偽ったのは金持ちに「貧乏人の身の匂いには耐えられない」との蔑視観があるからである。長女が面接を受ける際に自分の履歴をラップ風の歌にして覚えこもうとした歌「ジェシカソングは「ジェシカ、一人っ子、イリノイ、シカゴ~」と言うものだった。首尾よく金持ちの家に入り込めた四人は主人たちがキャンプ出かけた夜、豪邸で宴会となる。ところが大満足の宴会の最中に、元住み込み家政婦が現われ、地下室に棲む夫に逢わせろと強要してくる。やり取りの中、四人が実は家族だと見抜かれ、持ち主の金持ちにバラすと脅されるに至る。そこへ金持ちから電話が。天候急変より間もなく帰宅するというもの。そこから大混乱の終末へと向かう、が大まかな粗筋である。「貧富の差」がテーマの娯楽性のある風刺映画で引き込まれた。金持ち風刺から、大富豪トランプ大統領の本作への評価は低いとの事。もう一つ。「ジェシカソング」のメロディ曲は「独島〈竹島〉は私達の領土」という歌で、これも話題となった。メロディの件を度外視すれば十分楽しめる作品としてお勧めしたい。ーー17日南九州新聞コラム掲載