映画「ツナグ」を観ました
七年前に公開の大ヒット映画「ツナグ」を観ました。原作は直木賞作家・辻村深月による七十万ベストセラーが元になったものです。題名からお判りのように、現生の人と亡くなってる人を「ツナグ」仲介人を通して再会の物語が展開していきます。キャッチコピーは「あなたがもう一度、会いたい人は誰ですか?」です。主人公男子高校生を松阪桃李氏、彼にツナグ役を引き継ぐ祖母役を樹木希林さんが。二人の個性が引き出されたいい演出作品になっていると思いました。
ネタバレになったら楽しみを損ないますので、粗筋は簡潔にね。死者と生者をツナグには幾つかルールがあります。〇依頼人が死者に会えるのは生涯に一度、一人だけ。〇死者も生者に会えるのは一度だけ。ただし死者側からの依頼はで
きない。〇会えるのは月の出る夜の一夜のみで夜明けと共に死者は去る。などです。三話のオムニバスになってます。
一話は、母と死別した長男は、死因を自分の胸に抱え込んだ為に、死後、隠した事を家族に責められています。そこで、亡き母とあった彼は、自分の行いの是非を母に問うのです。答えはーー。第二話は演劇部に属する女子高校生が主人公。次期公演で主役の座を親友に取られた彼女は、、通学路に水を撒き、凍らせて翌朝、友人の事故を狙い、友人は事故死するのです。謝ろうと高校生は友人を呼びだして貰うのですがーー。三話は田舎から出て来た娘と知り合い、結婚の約束をした青年が主人公。だが彼女は七年前に彼の前から突然消えているのです。ツナグに呼び出されてもしも彼女が現れたら死を確認する事になる、その理由から直前まで彼は逡巡します。逡巡は彼女も同じではなかったでしょうか。探し続けてきた彼の前に現れたら自分の死を確認させた上に、二度と会う事はないーー。粗筋はここまでにして。ツナグ役の希林さんが残した印象深い言葉を紹介しますね。【この世の最上のわざは何?】 というものです。【楽しい心で年をとり、働きたいけれども休み、喋りたいけれども黙り、失望しそうなときに希望し、従順に平静に、己れの十字架を担う。若者が元気一杯で神の道を歩むのを見ても妬まず、人の為に働くよりも謙虚に人の世話になり、弱って、もはや人の為に役だたずとも親切で柔和であること。老いの重荷は神の賜物です。古びた心にこれで最後のみがきをかける。まことのふるさとへ行く為に。己れをこの世につなぐ鎖を少しずつ外していくのは真にえらい仕事。こうして何もできなくなれば、それを謙遜に承諾するのだ】。
さて、間もなくお盆ですね。お還りになる御霊と何を語らいますか。『亡き人の〈黄泉返り(よみがえり)〉とは、生者が蘇(よみがえ)る為のものだ』、こそ映画ツナグのテーマだと私は思いましたが。最後に書かずもがなですが、ヒプノセラピストの私も「ツナグ」同様、物故者の御霊に降臨して戴き依頼者と対話して貰う、そんな場に何度か臨在させて貰ってます。印象に残っているのは、亡くなって間もないおばあちゃんと話したいという、綺麗なお嬢さんでした。言葉に発しない対話の間、彼女は閉じた瞼から無垢の涙をホロホロと落し続けたのでした。内容は覚えていません。三十五年前の事です。
--13日南九州新聞コラム掲載