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再考・検事長定年問題


 心理学関係に多少の縁を持つセラピスト業の筆者は刑法犯の〈犯罪動機〉にも関心があり、犯罪関係本も多く読んで来ました。刑法犯罪では、肉親関係の殺害は一般殺人より残酷な被害様相を示すと言われるが、そこからどんな結論が導き出せるだろうか。

 例である。検事「加害者の息子はかねてから激しい憎悪を被害者の父に対して持っており」。弁護士「逆である。息子は父に強い思慕を抱いていたのである。故にあの出来事が思慕心を著しく逆転させたのである」。等、まる反対の犯罪動機を提示されたら裁判官は悩む事だろう。ここで思い至ったのは芥川作品「藪の中」である。作品の結論は「立場によって真相は異なる。まるで藪の中で真相を見つけるような困難なものだ」に至る。ここまでを長い前置きとし、本題の「検察庁法改正」問題である。執筆時26日に至って事態は二転三転しており、現時点での考察とお断わりしておきたい。

〇黒川検事長の「麻雀賭博」が訓告という軽い処分だった事に対して。総理は「検事総長が処分した」と国会答弁したが「定年延長を無理押しした官邸が、責任問題に関わる事から軽い処分で済ませた」と筆者は考える。また黒川氏にとっても、今春定年後に弁護士事務所開設の準備までしていたのを無理やり前例もなく慰留され、重い処分で退職金まで没収となったらーーこれ迄の官邸との経緯を明らかにするリベンジを企てかねないか しらん 

〇「検事総長は黒川氏の今回の件に関して監督不行き届きの責任をとれ」とは総理の弁である。逆転している。事件時まで黒川氏を法的根拠のないまま、閣議によって不適格者を定年延長させたのは官邸である。監督責任より任命責任の方が大きいだろう。〇現稲田検事総長は政権に近すぎる黒川氏が厚遇される事に不満があったとされる。自身が官邸意向のまま定年前辞職をしたら、黒川氏の検事総長が見えてくる。黒川時代となったら「桜を見る会の公選法違反疑惑」等に指揮権発動がなされ、第二の「造船疑獄」として検察信頼を失墜させないかとの不安は生まれなかったか。指揮権発動とは総理の意を受けた法相が検事総長に対し捜査停止等を命じる行為であり、政権有利に働く事から司法権独立を犯す行為とされる。

〇賭け麻雀に反対派とみられる朝日と産経紙の記者が同席しており、文春記事は産経リークとされるが驚くまでもない。かつて拙稿「報道」論で書いたが、わが国の報道は「隠された事実をスクープする」ものでなく、「番記者と呼ばれるベッタリ記者が、いずれ明らかになる事実をより早くキャッチし報道する」が主の競争である。故に社内競争が産経からのリークとなり、産経朝日の呉越同舟となる。

〇検察に関して。検事適格性を審査する「検察官不適格審査会」があり、裁判官の身分を問う「弾劾裁判所」と同類になる。検察の訴追不当等に関しては「検察審査会」に請願できる仕組みがある。筆者も過去に提出し受領通知がきた事があります。いずれも主権者たる国民に開かれています、形だけを実にするは国民ですね。

最後に。「巨悪を眠らせない」とは過去の某検事総長の言葉ですが、威風堂々と正義に溢れ、国民に信頼される検察の復活を望みます。ーー28日南九州新聞コラム掲載

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