「検察庁法」改正批判ーー南九新聞21日
今国会に上程されていた〈検察庁法改正案〉の不成立が確定となったが、当然と考える。ツィッター上でも歌手小泉今日子さんやプロレスラー高田延彦氏など多くの著名人ほか1000万に近い反対意見が数日間で集まり、法曹界でも日弁連が二度に亘って反対表明を出したほか、全国52ある弁護士会中51の弁護士会が同じく反対表明を出すなど異例の事態となっていた。世論でも全国紙が最近行った緊急世論調査で、改正案への反対が64%で賛成の15%を大きく上回り、内閣支持率も33%へと急落した結果を出していたから内閣が成立断念をしたのも世論を見据えた結果と言えるだろう。
今回出された「検察庁法案の定年延長」事案のどこに問題があったのか、論点を整理してみたい。
①点は、〈定年延長〉を国家公務員法と束〈たば〉ねて一緒に審議課題とした点で、同じ扱いとした点が間違いなのである。検察官は検察庁法によれば、「公益の代表者」として篤い身分保障と、63歳定年で延長無しと一貫してきた。これが公務員法と異なる特別法たる訳である。そして法理論上、特別法は一般法に優先するのが原則であり、公務員の延長に合わせて検察官もというのは不条理なのである。
②点めは、公務員は、その退職により公務の運営に著しい支障が生ずる場合に延長を認めているが、検察官の職務は異なる。欠員代替を誰もが勤められるべしという特殊組織原理で動いている。これを〈検察官一体の原則〉と呼び、全国的に統一的階層的な組織の中で上命下服の関係として職務を行っている。よって誰かが特別に定年延長を必要とされるような職場ではないという事である。
③点目に延長人事を〈内閣が決定する〉点に問題がある。じんじが内閣に握られなら内閣のご機嫌伺いすべしとならないか。忖度(そんたく)の日常化である。二月に「解釈を変更した」との総理の一言で黒川東京高検検事長の法慣行を無視した定年延長が閣議決定したのも、彼が小渕、甘利、下村各大臣の政治資金疑惑を不問にし、森友関係財務省職員を不起訴処分にしたと言われる功績にあり〈政権の守護神〉の異名すら持っていた人物だからと言われている。今後「森友・加計」「桜を見る会」はもとより「河合選挙資金還流」疑惑が司法で争われる事に成ったらと、息のかかる人物を検察高官としておきたいとの狙いはないか。
最後に。定年延長は「民主的統制と検察の独立性・政治的中立性確保のバランスを大きく変動させかねないもので、検察権行使に政治的な影響が及ぶ事が強く懸念される」とは18日提出の元東京地検特捜38名の意見書である。もう一つ、15日には松尾元検事総長と清水元最高検検事14名も反対意見書を提出。中で、改正意図は「時の政権の意のままに動く組織に改編させようとする動きであり、ロッキード世代として看過しえない」としている。なお末尾に加藤節訳・ロック書「統治二論」〈別名・市民政府二論〉を引用し「法が終わるところ暴政が始まる」と警告している。訳者加藤節氏は総理の大学恩師で、恩師の名前提示をする事で強い自省を促したものと考えたが、胸に届いたなら総理は潔く廃案にして貰いたい。
--南九州新聞コラム21日掲載