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みよちゃん⑪


みよちゃんに〈たら・れば〉催眠(ヒプノ)を実施する時がきた。

「お解りになっていると思いますが、〈たら・れば〉で出てくるのは一つではない。貴方が自分の所為(せい)で娘さんを失ったと罪を背負っている以上に、酷な別世界が現れるかも知れない。それでもかまわないのですね」。

唇を堅く結んで頷いた彼女を退行催眠に導いていく。

「貴方は娘さんを送り出したところです。用事は頼みませんでした。今二時です。確認できますね」

 頷く彼女に続けていく。

「時が進みました。四時です。電話が来ましたか」

「はい。娘です。無事に帰り着いたとの電話です。安心しました」

「そうですか。では時をもっと進めます。二年後です。何をしていますか」

「家にいます」

「お一人?」

「孫と一緒です」「孫?」

「結婚した娘が女の子を産みました。今、夫婦で買い物に出かけたので、私が子守をしているのです」「それは楽しみでしょう」

「ええ。孫も懐いてくれて嬉しいのですが、娘の注文が多くて」

「どういう事ですか」

「必要以上に甘やかすな、と。娘は躾に厳しいのです」

「そうですか。時を進めますね。その世界での現在です」「何をしています」

「孫と一緒です」「おや、また子守り、失礼、孫守りですか」

「じゃないの」「どういう事ですか」

「孫育てなの」「え?」

「娘夫婦は交通事故で一緒に他界しましたの。一年前です」「え?」

「それで私が孫を引き取って一緒に暮らすようになったんですの」

「そうだったんですか」

「勤めながらの孫育てだから、大変なのよ」「解ります」

「解らないわよ。簡単じゃないのよ。子育ては娘で二十年前に経験済みなんだけど、時代は変わったわ」「そうですか」

「娘の育児の時は、女の子らしく、を柱に置いたつもりだったけど、今は良妻賢母なんて言葉は聞かないでしょ」「そうですね」

「どう育てればいいのか。相談できるママ友なんていないし、不安でいっぱいなの」「不安、ですか」

「ええ、孫の一つ一つの仕草にどうしたらいいか、たじろぐ事ばかり。保育園勤務の経験ありと言っても、孫と他人様の子供じゃ同じとはいかないものね」

「女の子というより人間として育てればいいんじゃないですか」

「簡単にいうわね、他人事と思って」

「そんなつもりじゃないんですが。戦いの意思があるから戦(おのの)く事もある。戦いの字はおののくとも読むんです。たじろぐ、ひるむは貴方に前向きの姿勢があるからじゃないですか。貴方が投げ出していない証拠ですよ」

「そうなんでしょうか」

「ええ。そう考えます。思うようにいかないのが人生なんです。思うようにいかないところに学びがある。だからこその〈障壁〉を自ら仕組んだのです、この世に転生してくる前の中間生でね。何の為にかというと、成長の為です。神は乗り越えられない試練は与えないと聞くでしょ。神というのは大我、つまり永遠に転生していく自分なのです。貴方は試練の中で今勉強中なのですよ。子育てを通して、愛する事をね。聞いてみますか、自分の使命は何かと」

「結構です、それは今の現実世界と異なるこの他次元世界の使命でしょうから」

橋ーーいよいよ、後二回でラストです。お楽しみに

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