みよちゃん⑩
「その日です。貴方は家にいます。何をしています。教えて下さい」
「すこし頭が痛むので休んでいます」「息子さんは何をしています」
「先程までぐずついていたのですが、夫が遊んでくれたので機嫌をなおしています」
「良かったですね。時間を進めます。夜です。何をしています」
「夫が作ってくれたカレー、それを三人で食べています。レトルトなのですが息子はカレー好きなので喜んでいます」
「そうですか、時が進みます。何をしていますか」
「女の子が生まれたところです
」「ほお。それはおめでとうございます。妹ができて息子さんは喜んだでしょう」
「息子はーーいません」
「え、どうしてでしょう。時が進みます、何をしています」
「海の見える公園にいます。水平線が遠くに丸く見えます。気持ちがいいです」
「ご家族は?」
「今日は娘と二人です。娘は下の駐車場に降りていきました」「二人ですか。娘さんは幾つ」
「十九です。今、下の方から私を呼びました。大きな仕草でソフトクリームを食べないかと聞いています」
「息子さんは?」
「いません
」「探してみて下さい」
「ええ。でも見当たりません」
「もっと呼びかけてみて」。
突然、一筋の涙が彼女の眼から零れ落ちた。落ち着かせねばならない。私はゆっくりとそして丁寧に告げる。
「大丈夫です。悲しくはありませんよ」。
彼女は手の甲で涙を拭(ぬぐ)うと静かに答えた「悲しいのではありません。嬉しいのです」
「どうしました。息子さんは?」
「いませんでした。でも、息子の声が聞こえたのです、『ママ』って」。
「どういう事ですか」
「『僕が美保リンに生まれ変わったのを気づいてなかったんだね』と息子が言いました。『僕の分まで美保リンを愛してくれてありがとう。親孝行も二人分するからね』って。美保リンと言うのは娘です、夫が呼ぶときの娘の名です」。
覚醒した女性に言った「息子さんがいなくなった別の世界だったのですね」。
頷いた彼女に諭(さと)すように続ける
「他次元世界は一つと限りません。幾つもあり、その中の一つに貴方は行かれたに過ぎません。息子さんが成人に成長された世界もあるでしょう。他の機会にその世界を味わう事も可能です」
「有難うございます。今日のヒプノは納得いくものでした。別の世界はまたの楽しみにするとします」。
みよちゃんに〈たら・れば〉催眠(ヒプノ)を実施する時がきた。ーー続く