官邸の焦りか!
厚生労働省、内閣官房、自民党広報のSNSが一斉に『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)を名指しし、その報道内容を否定したことが「言論弾圧につながる」として大きな問題になっている。当然だろう。何しろ、今回の行為は事実の訂正などではなく、報道をデマ呼ばわりするため役所や官邸のほうが事実を捻じ曲げ、虚偽の情報をふりまき、正当な論評を無理やり否定していたのだ。
本サイトは、6日の記事(https://lite-ra.com/2020/03/post-5296.html)で、この言論弾圧が「安倍官邸による指示があった可能性が高い」と指摘した。同じタイミングで、複数の政府機関や与党がデマまで駆使して一斉に『モーニングショー』を攻撃したことがあまりに不自然だったからだ。
当の『モーニングショー』出演者である玉川徹も、厚生労働省の反論ツイートを検証し、逆に厚労省の嘘を喝破した6日放送回で、こんな指摘をしていた。
「間違いはあります、誰でも。我々の番組でも間違いがあれば訂正するわけです。僕が疑問なのは、なぜ、うちの番組の名前を名指ししてこの時期にこのツイッターを出したかなんです。僕が興味があるのは」 「なんで、この時期にちゃんと事実確認をしないで正しくない日本語を使って、厚生労働省が名指しでやったんだろうということに僕は回答が欲しいんです。これは番組としてではなく個人的に」
玉川もまた「官邸から『モーニングショー』を黙らせろと指示があったのではないか」という疑念を抱いていたのだろう。
そして、この疑念はやはり事実だった。毎日新聞が3月7日付朝刊で新型コロナ 政府、ワイドショーに何度も反論 官邸幹部が指示」と打ったのだ。同紙によると、首相官邸幹部が「事実と異なる報道には反論するよう指示した」と明かしたという。
「『モーニングショー』潰しを指示した首相官邸幹部は、“影の総理”の異名を持つ今井尚哉首相補佐官ではないかといわれている。これまでのパターンだと、メディアに圧力をかけるのは菅官房長官の役目だが、最近、菅官房長官は安倍首相から外され気味で、コロナ対応はほとんど今井補佐官が仕切っている。ところが、その対応策がことごとく裏目に出ているため、今度は必死になって批判をつぶそうとしはじめたということだろう。とくに『モーニングショー』は政府の後手後手対応批判の急先鋒で、視聴率も高いからね」(全国紙政治部記者)
一方、菅官房長官が記者会見で「事実関係の誤りを指摘するなど政府から必要な発信をすることが自由な論評を阻害することになるとは考えられない」と述べたことから、菅官房長官も同様の指示を出したという見方もあるが、いずれにしても、首相官邸から各省庁に反論しろ、と指令がいっていたのは事実だ。これは紛れもなく、自分たちの失態を隠すための批判封じ込め、言論弾圧といっていいだろう。
しかし、メディアやネットを見ていると、この期に及んでまだ、「政府は反論しただけで圧力とは言えない」などという意見が散見される。くだんの菅官房長官の言葉をそのまま引用して「事実関係の誤りがあったら反論するのは当たり前」などとしたり顔で語る“中立厨”も少なくない。
いったい連中はどういうリテラシーをしているのだろう。繰り返すが、今回、事実関係を歪め、デマを振りまいたのは政府のほうなのだ。『モーニングショー』は医療機関でマスクが足りていない現状を指摘して「まず医療機関に配らないとダメだ」と提言しただけなのに、厚生労働省のツイッターはそれを否定するために、全然できていないマスクの医療機関の優先配布をすでにやったかのように言い張った。内閣官房のツイートも同様だ。新型インフルエンザ特措法改正の動きについて「安倍首相が『後手後手』批判を払拭するため」と分析したごく当たり前の論評を否定にかかり、そのために「現行の新型インフルエンザ等対策特別措置法では未知のウイルスしか対象としていない」などと、条文にもないことまででっちあげた。
官邸の「事実の誤りへの反論」指示で“忖度官僚”たちは事実や論評にも攻撃を始める
そして、このデマを駆使した一斉反論は、まさに「官邸の指示」によって引き起こされたものなのだ。指示の言葉は「事実の誤りに反論しろ」だとしても、安倍政権下で官邸がひとたび命じれば、忖度官僚たちがどう動くかは自明だろう。批判封じ込めのために重箱の隅をつつくように報道の些細な誤りを探し、誤りがなければ、事実の立証が困難なグレーゾーンの報道、さらにはただの論評や分析にまでけちを付ける。さらには、政府の側がデマを駆使してでも反論する。それが、いま起きていることだ。
今回は『モーニングショー』が圧力に怯まず、反論のために検証取材して、逆に厚労省の嘘を暴いたからよかったが、メディアがこの権力から「事実の誤りへの反論」を装った圧力をうけると、ほとんどの場合、萎縮し、政権批判を鈍らせてしまう。
たとえば、同じテレビ朝日の『報道ステーション』が昨年12月、自民党の世耕弘成・参院幹事長から、抗議を受けてどうなったか。世耕氏は安倍政権が「桜を見る会」問題で説明責任を果たしていないことを伝えるニュースのなかで、年内の定例会見の予定について問われた世耕氏が「よいお年を」と返したシーンを使ったことが「印象操作だ」「切り取りだ」とかみついたのだが、世耕氏は明らかに(まだ12月10日なのに)年内の定例会見はもうやらない=もう説明しない、という意味でこのセリフを吐いており、「切り取り」でも「印象操作」でもなんでもなかった
(既報参照→https://litera.com/2019/12/post-5140.html)。
ところが、『報ステ』は世耕氏に対して番組で全面謝罪。世耕氏のVTRを担当したデスクの経済部に異動させ、今年4月には鈴木大介チーフプロデューサー(CP)と筆頭デスクを交代させてしまった。
こうしたケースはほかの新聞、テレビでもさんざん繰り返されてきた。その結果、大手マスコミは事実を立証できないグレーゾーンの報道に踏み込まなくなり、分析や論評ですら野党や識者の意見としてしか扱わなくなったのである。
しかし、今回のコロナ対応では、多くの国民が怒りの声をあげていることに背中を押され、テレビもひさしぶりに安倍政権批判に踏み込んだ。そこで、官邸がまたぞろ萎縮効果を狙って、政府機関に「反論」を促したのだ。
しかも、「事実でない報道に反論をする」というのはあくまで報道されることを前提に官邸幹部が認めた指示内容で、実際の指示は具体的に『モーニングショー』や岡田晴恵・白鴎大学教授を名指しして「黙らせろ」というかなり強硬なものだったといわれる。
もう一度言うが、いま、官邸や政府機関、自民党がやっていることは、自分たちへの批判封じ込めを目的とした言論弾圧以外の何物でもない。これでもまだ「ただの反論」「誤報の検証」などといっているメディア関係者はそれこそ、政権の回し者だと考えたほうがいい。ーーリテラ8日より転載
橋ーー上論に全面賛意を表します