菅の逆襲開始か
政権の終わりが見えてきたと思ったら、一枚岩だったはずの政権幹部たちの関係が異様なまでに軋み始めている。自分が死ぬか、相手が死ぬか。五輪まで半年、永田町で本格抗争の号砲が鳴った。 総理に呼ばれなくなった
「もう、あの人も終わりだよな」 ある自民党のベテラン議員が言う。官房長官・菅義偉のことである。官邸の守護神と言われたのも今は昔。 定例の記者会見では、記者の質問にもまるで上の空。「すみません、もう一回言って?」を繰り返すシーンは、毎度のこと。回答に窮し事務方からペーパーを差し込まれることも増えた。 この4ヵ月、菅はさんざんだった。菅原一秀や河井克行といった「側近」を無理矢理入閣させたものの、一気にスキャンダルに見舞われた。 重用してきた官僚が不倫騒動に追い込まれ、自分が肩入れしてきたIR問題でも、10年ぶりの国会議員逮捕という騒動に巻き込まれた。すべて菅の周りで醜聞が出たことから、「菅潰し」の声が囁かれた。 総理候補など夢のまた夢、スキャンダル処理にほとほと疲れた菅は、「このままやけくそで辞任するんじゃないか?」と噂を立てられる始末だ。 安倍総理との関係も決定的に軋みだした。昨年末から、菅が安倍に呼ばれる機会が減った。もちろん、朝、官邸で顔は合わせるものの、安倍は視線を合わせない。 要人との同席回数や接触時間は、かねてから菅との不仲が囁かれる今井尚哉秘書官のほうが格段に多くなった。 安倍に嫌われたのか。自分を嵌めたのは、今井ではなくて、安倍なのではないか。疑心暗鬼が、菅の胸中を交錯している。 官邸に2つあった危機管理ラインのもと、菅と今井は、修復不能な関係に陥った。今井は「菅さんは信用できないよ。総理の寝首をかく男だしね」と公言し、菅も「総理にぶら下がり会見なんてやらせて、本当にあのバカ」と今井を批判。だが、安倍は今井を選んだ。 「今井が官僚だからですよ。政治家とちがって、主君に取って代わろうとすることはありえない。総理にとって菅さんは不気味だが、今井は安心して使える。その結果、安倍総理と菅さんは『官邸内別居』状態になってしまった」(安倍側近) このままでは、菅の政治家生命は終わる。頻繁に行っていた夜の会合も鳴りを潜め、菅の側近議員も「まったく誘われなくなったね。何をしているんだろう」と言う。表情も乏しくなり、抜け殻のようだ。 だが、これは演技だ。 『仮名手本忠臣蔵』に出てくる大星由良之助の一力茶屋のシーンを覚えているだろうか。連日酒を飲み、昼行灯そのものの大星は、ここで敵を油断させ、討ち入りのタイミングを見計らう。 慎重に五感を働かせていれば、どんなときにも運は巡ってくる――後ろ盾もない横浜市議から出発した叩き上げの菅は、それがわかっているのだ。俺をバカにして、ただで済むと思うなよ。「逆襲」への兆しはかすかに出てきている。 1月21日、廃棄していたはずの「桜を見る会」の3年分の資料が、突然見つかった。 会場設営の契約書などが、内閣府総務課に残っていたというのだ。これまでの説明とはまったく異なるが、これは菅を後押しする官僚の「反乱」だった可能性が高い。官邸職員の証言。 「桜の件は、けっきょく安倍さん自身の問題なわけです。安倍後援会が850人も招待され、昭恵枠まで膨大にあった。 すべて『廃棄』でウヤムヤにするつもりが、ここでわざわざ資料が出てくるというのは、菅さんに世話になった官僚が、菅復権のために、あえて出したとしか考えられない」
ぜんぶ、俺のせいか?
最近の「菅潰し」は、人事権を握ってきた菅に恨みを持つ官僚が荷担してきたという見方がある。一方で、アメとムチを使い分ける菅に「人事で世話になった」と感謝の感情を持っている官僚も多い。前出の職員が言う。 「菅さんにとっては、資料が突然出てきたのは大きな援軍でしょう。総理が追及されるきっかけになるし、『桜』対応を振り付けてきた今井氏にとっても失点となります」 菅が入閣させた前法相・河井克行と妻の案里についてはどうか。すでに広島地検は家宅捜索だけでなく秘書をはじめ30名以上の事情聴取まで行っている。しかし、もともと、河井夫妻は安倍総理との関係が深い。 「河井氏は『菅銘柄』と言われてきましたが、実際には河井さんは『安倍派』といっていい。案里氏の出馬も、対立候補の溝手顕正元参院議員を、安倍総理が大嫌いだったことからごり押ししたもの。菅さんは後から従っただけ」(自民党代議士) だが河井が法務大臣を辞任する段になると安倍は「菅さんが大丈夫といったから」「菅さん自身が何度も選挙区に入ったでしょう。だから問題ないと思っていた」と菅に責任転嫁している。 そのような事情があるからこそ、週刊文春が報じた「参院選前、1億5000万円が自民党から河井陣営に振り込まれていた」という事実は、菅にとっては有利に働く。 カネの主体は党なのだ。官房長官である菅には関係ない。むしろ安倍銘柄であることがクローズアップされていくだろう。
二階とのタッグ
「さらに、次期検事総長と目されてきた東京高検検事長の黒川弘務氏が、2月8日の誕生日をもって定年退官する可能性が高まってきたのが、菅氏にとって追い風です。 『官邸の門番』としてさまざまな政治案件を握りつぶしてきた黒川氏が消えれば、菅氏も『黒川がいなければ、私も手を出せません』と堂々と安倍総理に言える。 稲田(伸夫)検事総長は、『黒川がやめれば、8月の任期までバンバン事件をやる』と語っているため、河井夫妻の立件は確定的になるでしょう」(政治部デスク) 大臣経験者の逮捕となれば、政権への打撃は大きい。菅と安倍のどちらがダメージを受けるか? 安倍のほうだろう。 IR問題についても、実は安倍のなかでは危ない時限爆弾がある。逮捕された秋元司が、細田派の有力議員の名前を具体的に挙げ、カジノ企業との癒着を検察に話しているという。 「具体的に、安倍に近い現職大臣の名前と、その人物が受け取った2000万円という金額も話している」という噂で永田町は持ちきりだ。 これまで挙げてきた「追い風」は、今のところ、静かなさざ波にすぎない。どう活かすかは、菅次第。しかも、先手を打たれるかもしれない。 「総理には、年内に内閣改造を行って、菅さんを閣外に出すという思いもあるようだ。後任には甘利明氏の名前が上がってきている」(安倍側近) 実際には、「菅以外に、安倍さんの防波堤がつとまる政治家はいない。安倍さんとしては、菅に内閣を守らせ、力だけは着実に削いでいくという戦略だ」(閣僚経験者)という見方が強い。 いずれにせよ、菅は座して死を待つことはできない。チャンスがくれば、官房長官を辞任し、派閥を立ち上げるだろう。 援軍は多い。なにせ、睡眠時間まで削って会合を行い、飼い慣らしてきた「隠れ菅派」の議員は優に50人を超える。いまの菅を支えるのは、幹事長の二階俊博である。 「二階さんは今年になっても、何かにつけて菅さんの携帯に電話を入れて、ねぎらったりアドバイスをしたりしています。総理は、去年9月の人事で、いったん本気で二階幹事長更迭を計画しましたから、二階さんは安倍への警戒心を募らせているのです」(自民党幹部) 安倍に切られそうになった実力者2人が、タッグを組み始めているのだ。 目下、安倍が4選を狙わないかぎり、岸田文雄への総理禅譲はほぼ確定的だとされる。 「岸田さんと犬猿の仲である菅さんは、ついに『タダの人』になる。そうなるくらいなら、自分が総裁選に出馬するか、あるいは同じ神奈川選出の河野太郎か小泉進次郎を担いで政権をつくり、幹事長に就き『キングメーカー』として生きながらえるしかない」(菅派議員) 隠れ菅派に加え、二階派はもちろん、岸田を見捨てた古賀誠率いる宏池会の古賀グループ、さらに竹下派や石破派も戦列に加わる――。人数的には、不可能ではない。針に糸を通すような繊細なやり方で、最後の一手を下す。 裏切られたなら、裏切り返すだけ。菅はいま、牙を研ぎ続けている。 週刊現代」2020年2月1日・8日合併号より転載
橋ーー記事としては面白いが、希望的観測としか思えないね( ´艸`)