極東情勢展望20
2020年から「新しい道」に進むと脅してきた北朝鮮。ぎりぎりの均衡を保っている 東アジアの情勢は、どう動くのか。朝鮮半島を中心に紛争危険地帯の状況を見た。 * * 「世界は遠からず、新たな戦略兵器を目撃することになる」 北朝鮮は1日、2019年末に開かれた朝鮮労働党中央委員会総会の結果を公表した。朝鮮中央通信によれば、金正恩党(キムジョンウン)委員長は冒頭のように予告し、「わが人民が受けた苦痛と抑制された発展の代価を受け取るための衝撃的な実際行動に移るだろう」と述べた。 東アジアでは近年、朝鮮半島、台湾海峡、東・南両シナ海の計4カ所が安全保障上の紛争危険地帯とされてきた。20年も四つの「火薬庫」を巡る緊張が緩和する見通しは立っていない。 18年から19年にかけ、米朝協議が進んだ朝鮮半島だが、20年はうまくいっても膠着(こうちゃく)状態が続く展開になりそうだ。 北朝鮮は昨春以降、米国が制裁緩和などに踏み切らなければ、核・弾道ミサイル協議に応じないとし、20年から「新しい道」に進むと脅してきた。 新たな戦略兵器」は固体燃料を使った新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を意味する可能性が高いが、金正恩氏は「発射」とは言わず、「目撃する」と語るにとどめた。 金正恩氏にとっての最優先課題は、自らの地位と独裁体制の維持だ。米朝間で戦争になる事態は避けたい。トランプ米大統領が19年12月8日、ツイッターで「敵対的な行動に出るなら、本当に全てを失う」と警告したことも効果を上げているようだ。 北朝鮮の経済状況は不振を極めている。18年の輸出額は2億4千万ドル余で前年よりも8割以上減った。何とか今年前半に再び米朝首脳会談を開き、部分的な核・ミサイル軍縮と引き換えに制裁緩和を引き出そうとするだろう。 だが、トランプ氏も今秋の大統領選に加え、中東情勢の緊迫化もあって、北朝鮮に対する関心は下がる一方だ。米朝協議が進まない場合、金正恩氏が権力維持に不安を覚えるかどうかが、北朝鮮の次の行動を決めるカギになる。
北朝鮮内は軍を中心に外貨不足への不満が高まっているとされる。正恩氏が国内の不満を抑えきれないと判断すれば、核実験やICBM発射といった軍事挑発を選択する可能性がある。朝鮮労働党創建75周年にあたる10月10日には、国威発揚を図る必要にも迫られている。 あるいは、正恩氏が国交正常化に伴う巨額の経済支援を念頭に置き、日本に接近するかもしれない。安倍晋三首相は「無条件での日朝首脳会談開催」に意欲を示すが、北朝鮮への経済制裁を進めてきた国際社会と歩調を合わせた対応が求められる。 一方、東アジアの残る三つの火薬庫はどうなるのだろうか。 日米豪などは、三つの火薬庫で勢力を広げる中国の軍事力に脅威を感じつつ、有効な手を打てずに来た。米国が19年に決めたのが、ロシアとの間で締結していた中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱だった。 米国は今後、数年間のうちに中距離ミサイルを東アジアに展開したい考えで、中国の中距離弾道ミサイルを中心とした軍事力増強の抑止を狙うだろう。 ただ、中国はすでに様々な場面で米国の動きを強く牽制(けんせい)している。19年も8月、11月に行った日中外相会談や、12月の日中韓首脳会談の席などで、何度も米国の動きに同調しないよう、日本や韓国に警告した。 日中関係は4月に予定される習近平中国国家主席の国賓訪問までは順調に進むとみられるが、その後は一転、厳しい対立局面に陥る可能性がある。尖閣諸島付近への中国公船の侵入も続いている。国際社会が懸念する香港や新疆ウイグル自治区などの人権・民主化問題も深刻だ。 こうしたなか、東アジアの安全保障を安定させる役割を担ってきた日米韓の防衛協力が揺らいでいる。 日韓は昨年11月、軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)の破棄こそ回避したものの、徴用工判決問題や日本の韓国向け半導体素材などの輸出管理問題で解決のめどが立っていない。 東アジアにおけるロシア・中国・北朝鮮と、日米韓との力の均衡が崩れると、偶発的な衝突が起きる危険性も増えそうだ。(朝日新聞編集委員・牧野愛博
ーーアエラ20日より転載
橋ーー特別に目新しい論でもありませんが( ´艸`)