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米・イラン問題と日本


 政府が12月27日、海上自衛隊の中東地域派遣を閣議決定した。防衛省設置法の調査・研究に基づく措置。ソマリア沖のアデン湾で海賊対処活動に就いている自衛隊のP3C哨戒機のうち1機と、新たにヘリコプターを搭載できる護衛艦1隻をそれぞれ派遣する。

 5月以降、ホルムズ海峡付近でタンカー攻撃が相次いだことを受け、船舶警護を行う有志連合への参加を求めた米国と、最も情勢が緊迫しているホルムズ海峡を活動範囲から除外することで沿岸国のイランに、それぞれ配慮した、という事情は、すでに、各メディアが報じている通りだ。

 ただ、この「配慮」について、米国とイランはどのように評価しているのだろうか。感謝されているのであれば、配慮であると胸を張ることもできよう。

 実際の状況は少し異なっていたようだ。

 安倍晋三首相は閣議決定に先立つ12月20日、来日したイランのロウハニ大統領と会談した。安倍首相は海上自衛隊の派遣計画について説明した。

 外務省によれば、ロウハニ大統領は、ペルシャ湾地域の緊張緩和に向けた日本の外交努力を評価したという。また、安倍首相はイランの核開発合意を損なう行動に強い懸念を表明した。外務省によれば、これについてロウハニ大統領は「イランの立場について説明した」という。

 これについて実際はどうだったのか。

日本とイラン関係に詳しい関係筋によれば、安倍首相はロウハニ大統領に対し、米国との協議を進めるよう働きかけた。だが、ロウハニ大統領は「米国が一方的に核合意を破棄した。協議するかどうかは米国とイランの問題だ」と一蹴されたのだという。

 「日本が口出しする余地はない」と言われたようなものだ。

そして、安倍首相は翌21日、トランプ米大統領と電話で会談した。

 安倍首相は会談後、記者団に対して1分ほどのぶら下がり会見で、会談で北朝鮮情勢について話し合ったことや、訪中して日中や日中韓の各首脳会談を行うことについての抱負を語った。

 当然のことながら、各メディアの日米首脳電話会談を巡る報道も、北朝鮮情勢が中心になった。

 だが、日米関係筋によれば、会談の主題はイランだったという。

 確かに、外務省のホームぺージには電話会談の模様を3項目にわたって伝えたが、イラン問題は、北朝鮮情勢、日中韓首脳会談についで最後の三番目。「この機会にロウハニ大統領の訪日の結果についても説明した」とし、中東における緊張緩和と情勢の安定化に向け,引き続き米国と緊密に連携しつつ,外交努力を続けていく」という安倍首相の言葉を紹介しただけにとどまった。

 しかし、日米関係筋によれば、この話には続きがあった。安倍首相の説明を受けたトランプ米大統領の発言だ。

トランプ氏は「イランへの働きかけありがとう」と感謝の考えは伝えたが、続けてこうも語ったという。

 「この問題はイランに全面的な責任がある。国際社会とともにイランに対する圧力を強めていこう」

 要するに、「米イラン協議の仲介など余計なお世話だ。お前は黙って俺の後をついてくればいいんだ」と言われたようなものだ。

 トランプ氏から直接の言及はなかったようだが、捉えようによっては、米国が主導する有志連合が日本に加わらなかった事への当てつけのようにも聞こえる発言だった。日米関係筋によれば、米政府内から、ロウハニ大統領の訪日について反対こそしないものの、せいぜい「聞き置いた」程度の反応で、支持とはほど遠い冷たい反応が返ってきていたという。

首相官邸の思いつき外交

 別の日米関係筋によれば、今年6月に行われた安倍首相のイラン訪問を巡っても、米政府内からその意図をいぶかる声が出ていた。

 関係筋の1人は「安倍首相は、米国とイランとの間で仲裁役が務まると本気で考えているのだろうか」と指摘。別の1人は「外務省は少なくとも、日本外交の実力を理解している。ロシアや中国、北朝鮮との外交と同様、これも首相官邸の思いつき外交の一つだろう」と語った。

 安倍首相とトランプ大統領の親密な関係は世界中がよく知るところだ。

 2018年9月の国連総会ではこんなことがあった。トランプ氏はすぐに「国連総会が始まる前日に、一緒にゴルフをしよう」と持ちかけた。生憎、安倍首相には北朝鮮拉致問題を巡る集会への出席がセットされていた。「この集会は欠席できない。どうしても到着はニューヨーク時間の夕刻になる」と伝えた。すると、トランプ氏は「わかった。じゃあ、夕食だけでも一緒に摂ろう」と答えたという。

 しかし、そもそも国連総会期間中、日本政府は日米首脳会談の開催を目指していた。しかも、国連総会だから、各国の首脳が参加する。超大国の米国大統領と会談したい首脳はワンサといる。日本側が「夕食を一緒にすると、日米首脳会談が流れてしまうのではないか」とひやひやしたが、トランプ氏は「夕食会もやるし、日米会談もやろう」と答えたという。

 同じような経緯から、今年は4月から6月にかけ、異例とも言える3カ月連続の日米首脳会談が実現した。日本政府が誇る通り、安倍首相とトランプ大統領のそれが関係は特別のものだと評価して良いだろう。外務省幹部の1人は「一緒にいる時間が長ければ長いほど、色々と働きかける機会も増える」と語るが、これもその通りだと思う。

ゴルフを堂々とやるのに「都合の良いお友達」

 ただ、日本政府が期待する「特別な関係だから、トランプ大統領が安倍首相の願いを聞いてくれる」という構図になるとは限らない。

 たとえば、こんなこともあった。

 前述したようにトランプ氏は、安倍氏を「ゴルフ仲間」として大事に扱っている。2017年11月に訪日したときもそうだった。2人は埼玉県川越市の霞ヶ関カンツリー倶楽部でゴルフを楽しんだ。このとき、安倍首相は誤ってバンカーに転がり落ちた。ところが、トランプ氏は当初、安倍首相の転倒に気づかなかった。

 日米関係筋の1人はこう説明する。

 「安倍氏とトランプ氏がゴルフを楽しむとき、かならずプロゴルファーが同行する。トランプ氏はいつもプロとばかり話をしているから、安倍氏の動きに気がつかなかったんだよ」

 どうも、安倍首相と話をしたいという事でもないらしい。公職者である自分がゴルフを堂々とやるうえでの「都合の良いお友達」として見ているのかもしれない。

 実際、トランプ氏は日米関係でも、自分の興味のあることにしか目が向かない。11月、破棄寸前までいった日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)存続問題には全く関心を向けなかった。逆に、在日米軍駐留経費の日本負担問題では、何度も安倍首相に対し、大幅な負担増を求めたい考えを伝えている。

2019年5月27日の日米首脳会談では、こんなやり取りもあった。日米関係筋によれば、トランプ氏は、日本の経費負担について「3割しか負担していない」と不満を表明。「我々は(中東の)ホルムズ海峡を通って石油を輸入していないが、海峡を守っている。日本はその間、トヨタを世界中に売ってもうけている」と迫った。安倍氏が「3割はドイツだ。日本は74%も負担している」と訴えると、「心配するな。ドイツと韓国からも搾り取るから」と述べ、最後まで話がかみ合わなかったという。

 結局、安倍首相がトランプ大統領の「お友達」として威力を発揮するのは、トランプ氏がやりたいことと方向性が一致したときだけに限られるということだ。

 トランプ政権が行ったイラン核合意からの離脱は、トランプ氏が忌み嫌うオバマ政権が行った「誤った合意」の否定だ。来年秋の米大統領選を前に、トランプ氏がイランに対して圧力を強めることはあっても、核合意に立ち返るような協議を行うわけがない。

 これでは、「首相官邸の思いつき外交」と言われても仕方あるまい。

海自の中東派遣は日本の利益になるか

 もちろん、トランプ氏を説得できなくても、日本として利益になる行動であれば、文句も出ないだろう。

 しかし、米国とイラン双方に良い顔をしようとして、結論を出した海自の中東派遣は果たして日本の利益になる行動と言えるだろうか。

 すでに一部のメディアも指摘している通り、調査研究のための派遣だ。日本籍船を守るための防護活動はできない。防衛省は「不測の事態が起きた場合は、海上警備行動を発令する」としているが、非常時に迅速な対応ができるかどうかはわからない。

 また、海上自衛隊が保有する護衛艦のうち、遠洋航海に適した艦艇は30隻にも満たないとされる。海自は近年、北朝鮮の弾道ミサイル発射への対応や尖閣諸島の領有権問題、中国軍の南シナ海での活動対処などで、猛烈に忙しい状態が続いている。

 ソマリア沖で行ってきた海賊対処活動も当初は海自艦2隻態勢だったが、「艦艇が足りない!」という自衛隊の悲鳴を受け、2016年11月の閣議決定で1隻態勢に減らした経緯がある。

 今回、これが再び2隻態勢になるわけで、北朝鮮情勢が再び緊張に向かうなか、自衛隊OBのなかには「本当にこの対応で良いのか」という声も上がっている。事実、2021年3月にようやく8隻体制となる海自のイージス艦にしても、2019年11月から北朝鮮の弾道ミサイル発射を警戒するため、日本海に1隻が24時間体制で展開している。非常時のバックアップ用に1隻、交代用に1隻の計3隻が北朝鮮ミサイル問題に常時投入される格好になっている。

首相官邸が安倍政権の業績づくりのために、海上自衛隊に避けられた負担を強い、米国から不信を買うような事態を招くことは厳に慎むべきだ。

 安全保障と外交を政権浮揚の道具にして良いわけがないーー「論座」3日より転載

橋ーー最後の三行に合点がいきません。これが朝日新聞社の論点です

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