オール1先生とヤンキー先生
かつて「落ちこぼれ」なる言葉がマスコミで頻繁に使われた時があった。文字通り、現在の教育課程から「脱落」していく生徒達を指す。
現役教職時代、「いや。それは教育制度の不備や、師の力量不足から〈落ちこぼし〉をさせているんだ。生徒に非はない」のスタンスで多くの良心的教師が苦闘していたと思う。自分もその立場に立ち、多くの教育書を読んで研修に努めようとした。専門書以外にも(非行少年少女)達の自伝や保護者が書いたものなど、社会的話題になったものは殆ど目を通してきた。「不良少女」から弁護士になった大平光代さんの「だからあなたも生きぬいて」は生徒に勧めたりもした。元教師の本では夜回り先生、水谷修氏の行動に敬服し本も薦めて来た。現在闘病中の氏についてはいずれ筆をとりたい。
本稿では元教師と現役教師の二人の話である。
義家弘介元教師は「ヤンキー先生」の名で有名になった。「不良少年の夢」や「ヤンキー母校に生きる」の著で時の人となり、テレビにも多く出演したのは二十年ほど前である。不良少年が教師を目指したのは大学時に交通事故で瀕死の状態にあった時、見舞いにきた定時制の母校の恩師から「君は私の夢だから」と励まされたからと言う。そして大学卒業後、母校に戻り「熱血教師」と評されたようだ。が、六年で退職し横浜市教育委員を経て、現在自民党衆議院議員で文教族である。かつての主張「日の丸・君が代の強制は良くない」のスタンスを転向し、別の恩師の言では「糸の切れた凧」と化した。文科副大臣時には、加計学園問題で内部告発した省職員に対して恫喝した「国家公務員法(守秘義務違反)での処罰を検討している」と。それを知った小生は彼の事務所にFAXを送りつけましたね【仲間を守るのがヤンキー魂じゃないか】と。その後、前川元次官への攻撃をも強めた彼の先行きに注目している。教育勅語の復活は企てないだろうが。
五十歳に近い現在も母校の夜間定時制で教職を続けているのが「オール1先生」こと宮本延春氏である。敬意をもって氏の略歴を紹介したい。いじめから不登校になった彼の中一の通知表は「オール1」である。著に通知表写真が添付されている。父母に先立たれて天涯孤独となったのは十八。中卒で大工見習いをしていた彼が、アインシュタインの番組に衝撃を受けたのは二十三。物理学を勉強したいと定時制高校に翌年入学する。が、漢字で書けたのは名前だけ。A+B=Cが英語の授業なのか数学なのかさえ理解できなかった彼が小三の算数ドリルからやり直しての猛勉強の成果、高三の模試では数学は県一となり、現役で国立名古屋大に合格し、大学院を卒業後、定時制母校に戻って教職を続けている。著「オール1の落ちこぼれ 教師になる」「未来のきみが待つ場所へ」「キミのためにできること」は多くの生徒、特に「落ちこぼされている」と感じている子どもたちに強くお勧めしたい、始めるのに遅い事はない、と。ーー南九州新聞コラム21日掲載
橋ーーヤンキー義家に「先生」はつけたくないのだけど( ´艸`)