「やすらぎの刻〈とき〉」
視聴率85%のモンスター番組をご存じか。本稿で今回紹介したい。85%とは「天上界」での視聴率である。
本作は前作「やすらぎの郷(さと)」の続編である。二年前の前作の折はたまに観ていただけだ。が、「次作では戦争を描きたい」と原作者倉本氏が表明していたので観る気になった。TVドラマにハマる事は滅多にない私である。故に過去の倉本作品は殆ど見ていないのだが。
倉本聰は1934(昭和九)年生まれで、八十五歳間近である。「北の国から」などの著名なシナリオライター兼、北海道に富良野塾なる劇団研究生を育成する場を設けて四十年近くなる。「その間、塾の周りも舗装道路が造られていった。その道路は若者を都会に引っぱりだしただけだ」との述懐から彼のスタンスは垣間見えるだろう。数年前、元劇団員が書いた芥川賞小説「シンセカイ」にも登場している。
本題に入る。ドラマは二本立てで構成され、進行していく。
一つは、元劇作家を主人公とする老人保養施設「やすらぎの郷(さと)」での生活である。施設では往年のスター達がピラ(個人住宅)に暮らしている。サロンで語らい、スナックでくつろげる贅沢な生活である。
本稿は十月一日時点での感想なのですが、来年三月までの長丁場なので、見逃しておられた方も今から十分に楽しめると思います。
さて現在のお話から一つ。昔のスター達にバラエティ番組から出演依頼が来る。劇作家は視聴率至上主義をプロデューサーに諫(いさ)める一方で、仲間の元スター達には「おちゃらかにされる冷やかし番組だよ」と反対するのだが、「往年の輝きをもう一度」と老優達は出演した結果が、お笑い扱いされるのである。怒った老優達はコケにしたお笑いタレント達に制裁を加えて生番組は崩壊する。ところが有る夜、報復の為に徒党を組み、タレントらがやすらぎ郷に殴り込みをかけようとする。制止したのが本物のヤクザさんと思える集団。暴力映画を過去に演じた老優達をあがめていたらしき親分がお笑い軍団に諭(さと)した言葉が「我が国ではな、戦争は禁じられてるんや。憲法を読め」であったのには笑えた。
もう一方。劇作家が書く回顧録は、先の戦争である。山梨の農村に平和に暮らしていた一家が戦争に巻き込まれて行く。五男坊がそこでは主人公だが、長兄達は戦死と入隊それと徴兵逃亡、「殺すことも殺される事も嫌だ」と語っていた兄は徴兵前に自殺。五男は、兄の子を妊娠していた娘と結婚するのだが自分にも召集令状が。そこで妻と子の為に自損事故を企てる。片足を損傷し徴兵から逃れて、敗戦を迎える。今後、戦後の混乱の時代をどう一家が生き抜いていくか興味が持たれる。
中島みゆきの挿入歌二曲も効果的である。「私達は〈心の〉進化を成しているか」の問いは胸に迫る。
もう一つ。現代での、認知症を患いつつある美女、松原智恵子さんの、老いらくの恋の行方も気になるところである。ーー31日「南九州新聞コラム掲載」