消費増税の行方
「経済を強くすれば税収だって増えるんです。税収は今年、過去最高になった」というのが安倍晋三・首相の得意のフレーズだ。数字だけを見ると、確かに2018年度の国の税収は60兆3564億円でバブル期の最高税収を抜き、第2次安倍政権発足後の2013年度(46兆9529億円)から比べても年間13兆円以上増えている。
だが、2013年から2018年にかけて消費税8%への引き上げによる税収増は年間約8兆4000億円、その他のアベノミクス増税を合わせると国民の税負担はざっと年間10兆円(国税と地方税の合計)ほど増えた。つまり税収が増えたのは景気上昇で給料が増えたからではなく、増税の結果だとわかる。
その税金はどこに消えたのか。10兆円も増税したのに、国の社会保障関係費(予算)は2013年度の約29兆円から2018年度は33兆円と年4兆円しか増えていない。
かわりに使われたのが「国土強靭化」の公共事業や、TPP対策費だ。その中でも増税後、毎年、倍々ゲームで増えていったのが、米国からの高額の「買い物」だった。
「安倍が買うと言った」
秋田市の中心部から日本海に向かって車で5分ほど走り、秋田運河を越えると陸上自衛隊の新屋演習場がある。隣は名門・秋田カントリー倶楽部。高校や閑静な住宅地も近い。
全国に2か所設置される地上配備型の弾道ミサイル防衛システム「イージス・アショア」の候補地の1つだ。高性能のレーダーと迎撃ミサイルを配備し、北朝鮮から発射される弾道ミサイルを迎撃する。近所の主婦が語った。
「このあたりの住宅地は、官庁街や商業地が近く、学校もあって便利だから人気もあります。どうしてこんな市街地の近くに置かなければならないのでしょうか」
安倍首相は日米首脳会談のたびに米国から大きな買い物をしてきた。増税で税収が増えると特に気前が良くなった。
このイージス・アショアはその一つだ。2017年の日米首脳会談をきっかけに浮上、政府は急遽、配備を決定した。防衛省は当初、米国からのレーダーシステムの取得費、維持費など2か所で4500億円と見積もっていたが、施設の建設費や迎撃ミサイルを合わせると6000億円にのぼるという試算もある。
昨年6月の日米首脳会談ではもっと巨額の買い物をした。
「安倍首相がつい先ほど、数十億ドルもの戦闘機や農産物などあらゆる製品を購入すると言った」
トランプ大統領は首脳会談後の共同記者会見の冒頭、上機嫌でそう語ったが、ほどなく、日本政府はF35戦闘機を105機追加購入する方針を決定した。1兆円を超える商談である。イージス・アショアも105機のF35の購入も、わが国の防衛力整備を定めた防衛大綱や中期防衛計画では調達する予定ではなかったものだ。
アベノミクス増税後、いかに米国からの買い物(防衛調達)が増えたかを示す統計がある。
防衛予算の中で「FMS」(対外有償軍事援助)と呼ばれる防衛装備の購入費だ。日本がオスプレイや水陸両用車、ミサイル、戦闘機などを米国の軍需産業から購入するのではなく、米国政府から直接、有償で調達するやり方だ。FMSとは米国側から見た同盟国への“軍事援助”という意味だが、価格は米国の言いなりで、しかも“前払い”(最長5年ローン可)が原則となっている。
防衛省のFMS予算は2013年度は1179億円だったが、消費増税が行なわれた2014年度に1906億円に増え、2019年度予算は7013億円に達した。
FMSの残債など防衛費の「後年度負担」(借金)は5兆円を超え、年間の防衛予算より多くなっている。
そうした巨額の防衛装備品の購入が、日本の安全保障上、不可欠のものであればやむを得ない。
だが、防衛省の「防衛生産・技術基盤研究会」委員などを務める防衛問題研究家・桜林美佐氏は防衛予算のバランスが崩れていると指摘する。
「FMSで最新鋭の防衛装備を得られるメリットは大きい。悩ましいのは、高額な最先端装備の購入が増えると、車両や隊員の装具など日常的な経費を切り詰めなければならないことです。自衛隊が使う一般車両も40年前の80式がまだ使われ、修理部品がないから故障で使えない車両が多い」
最新鋭装備のイージス・アショアについても疑問が提起されている。国際政治学と国家安全保障論を専門とする松村昌廣・桃山学院大学法学部教授が指摘する。
「イージス・アショアは未完成で今後もどこまで予算が膨らむか未知数。装備することの合理性は、費用対効果の面では高くありません。では、なぜイージス・アショアを調達したのか。研究者の立場としては、日米関係を考慮して“上(官邸)で決めた”としか言えません」
保険料はアップ、年金はカット
安倍首相は「幼児教育や高等教育の無償化に安定税収である消費税が必要だ」と消費税率を10%に引き上げる。
しかし、米国はこの増税のカネも狙っている。トランプ大統領はこの9月に在日米軍の予算の一部を「メキシコ国境の壁」建設に回す方針を打ち出し、そのかわりに日本政府に“基地負担金をもっと増やせ”と要求してきた。増税でカネが入る安倍首相に総額2兆円の壁建設費を丸々肩代わりさせようという魂胆が透けて見える。
「社会保障費にしか使わない」と国民に約束したはずの6年前の消費増税のカネは、国土強靭化やTPP対策の農業補助金、そして米国への貢ぎ物に消えた。
そうした社会保障予算の壮大な流用の結果、現役世代は年金保険料アップ、年金生活者には受給カットが行なわれた。
あのカネがあれば、保険料アップも年金カットも防げたのではないか。国民が使途に目を光らせなければ、今回の消費増税のカネも、知らないうちにどこかに消えていく。ーー※週刊ポスト2019年10月4日号
橋ーー消費税は廃止して法人税上げろ、高額所得者への所得税も上げろ!