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きばいやんせ南大隅町


 鹿児島県南大隅町が地域起こしの一環として約1億円の制作費を負担した映画『きばいやんせ!私』の興行成績を制作会社が公表せず、議会報告を控えた役場の担当課が困惑する事態となっている。  人気女優・夏帆さんを主演に「きばいやんせ!私」を制作したのは、東京都内に本社を置く「アイエス・フィールド」。議会報告の必要があるとして役場の担当課が同社に興行成績の報告を求めたが、数週間経っても回答がないという。  興行収入や観客動員数について尋ねたHUNTERの取材に対して同社は、「そうした数字は公表しない」と断言。「町側にはいずれ、何らかの形で報告する」としながら、非公表の理由については明らかにしていない。 ■興行成績の公表拒む制作会社  過疎化に苦しむ南大隅町は2017年、地域再生法に従って国が認定した地域再生計画の一環として映画制作を行うことを決定。《映画制作により、対外的な町の認知度やイメージの向上を図り、作品への町民参画により地域への愛情と誇りを醸成し、移住者・観光入込客を増加させ、本町の人口減少に歯止めをかけること》(南大隅町公表資料より)を目的にアイエス・フィールドと『きばいやんせ!私』制作の協議を進め、昨年3月にクランクインしていた。主演は、演技力に定評のある人気女優・夏帆さん。完成した映画は今年3月に公開されたが、マスコミの話題に上ることもなく、南大隅町内からも興行成績の不振を心配する声が上がっていた。

 取材のきっかけとなったのは、南大隅町に住む読者からの「南大隅町が1億円もの公費を投じた映画『きばいやんせ!私』の興行成績は?映画は、地域おこしに役立ったのでしょうか?」という問い合わせ。さっそく南大隅町役場の担当課に興行収入と観客動員数について聞いたところ、「議会報告の必要があるので映画の制作会社に問い合わせているのですが、忙しいのか、教えてもらえていません」という回答だった。

 それから数週間経っても役場からの連絡がないため、何度か「きばいやんせ!私」を制作したアイエス・フィールドに問い合わせたが多忙らしく、なかなか担当者と話ができない。25日、ようやく電話に出た担当者に取材の趣旨を告げたところ、少し間をおいて「数字は公表しません」とそっけない言葉が返ってきた。あとは、その理由を聞く記者とアイエス・フィールドの担当者との間で、かみ合わないやり取りが続いた。

記者:公費が投じられた映画である以上、興行成績を非公表にするのはおかしい。 担当:この映画については、そういった数字を公表することはありません。業界ではよくあることです。

記者:非公表の理由は? 担当:あなたの会社の決算書を出せと言われたら、出しますか?

記者:それとこれとは、まったく違う話。論点をすり替えるのは良くない。南大隅町の担当課は、御社の報告がなくて困っていると言っている。 担当:それは間違いだ。さっき、町の担当者と話をしました。コミュニケーションはとれています。南大隅町には、何らかの報告をしますよ。それをどう使おうが、自由。近々、うちの代表者と南大隅町の人が会うことにもなっている。

記者:間違ったことは言っていない。現にこれまで、町に報告していないではないか。それより、聞いているのは興行成績を非公表にする理由だ。 担当:2時から約束がある。来週また連絡する。

 同社への取材結果を南大隅町の担当者に伝えたが、「電話はありました。こちらからは、(興行成績を)早く教えていただくよう、再度お願いしました」として、合点がいかない様子だった。

問われる公費投入の正当性  アイエス・フィールドの不誠実な対応には呆れるしかない。南大隅町が開示した資料によれば「きばいやんせ!私」の総制作費は1億2,420万円(制作費8,640万円、宣伝費3,780万円)とされており、南大隅町が9,936万円を、残りは映画制作会社が負担する計画となっていた。アイエス・フィールドが実際にどれだけの負担をしたのか分からないが、1億円もの公費が投入された事業である以上、同社は興行成績をきちんと公表すべきだろう。それは、公的な事業に参加して「利」を得た企業の、義務でもある。

 同社が興行成績を公表すべき理由は、まだある。南大隅町が映画制作を進めるにあたって国に提出した「地域再生計画」には、次の数値目標が掲げられていたからだ。

 映画によって南大隅町の認知度を上げ、移住者や観光入込客数を増加させるという遠大な計画。記された数字を見た町民の間からは「机上の空論にしても、酷すぎる」という批判が出るほどだったが、アイエス・フィールドはこうした事業目標を知ったうえで映画制作を請け負ったはずだ。ならば、結果がどうであれ興行成績を公表し、“地域おこし”の役に立ったか否かの判断材料を提示すべきだろう。

 念のため役場の担当課に確認したが、「映画を見て移住を決めた」というケースは皆無だという。当然である。「きばいやんせ!私」は、興行的に惨敗した可能性があるからだ。

 公開された映画についてネット上で調べてみると、多少なりとも話題になった映画は興行収入や観客動員数を知ることが可能だ。しかし、アイエス・フィールドが「公表しない」と断言するだけあって、「きばいやんせ!私」の興行成績は、まったく分からない状況となっている。ヒットすれば、制作会社は成果を誇るために興行成績を公表するものなのだが……。

 ちなみに、南大隅町が映画制作にあたって参考にしたのは、2015年(平成27年)2月に公開された『マンゴーと赤い車椅子』。鹿児島県大崎町が中心となって鹿屋市、志布志市など九つの周辺自治体と地域団体が制作した映画だった。

 制作費は約1億2,000万円で、南大隅町の『きばいやんせ!私』とほぼ同額。元AKBや三代目J Soul Brothersのメンバーといった人気タレントを主役に据えた映画だったが、観客動員4万人で「大惨敗」(映画関係者)に終わっていた。

 制作を手掛けたのは「きばいやんせ!私」と同じアイエス・フィールド。同社は、「地域映画を商業映画として展開するプロジェクト」(同社代表のプロフィールから)を事業として進めてきた実績があり、自治体などにカネを出させ、同社が映画制作を請け負うという仕組みが出来上がっていた。

 「きばいやんせ!私」は、森田俊彦町長が“地域おこし”のためと称して事業化を決め、女優である自分の妹を出演させた映画だ。南大隅町の住民は、本当にこの「地域再生策」に納得できるのだろうか……。

    --ハンターニュース9/30日より転載

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