おサムイ噺2
EMP(電磁波破壊)攻撃というのを御存じか。以下は拙作「邯鄲〈かんたん〉の夢」からの一部である。
ローソクの灯りの下で、奴は本題を切りだした「このブラックアウト〈電子機器破壊による全電力停止〉をどう思う」。「さっぱり解らん、全く電波の情報が入らんのだからな。車や電子機器に加えて電池すらも動かないのはただの停電で無い事だけは解る」「携帯やパソコンも不能だから確かめようも無い。だから推測だが」「聞かせてみろ」
「電磁波異常だ、〈空からの津波〉と言われる襲撃を受けた」「空からの津波だと。それは何だ」「電磁バルス攻撃だ。EMPと呼ばれる核攻撃を受けた」「Jアラートはならなかったぞ」「ミサイルなんて不要さ。気球を使って上空三十キロで核一個を爆破させれば西日本全域の電力網破壊だ、二個で日本全壊。高度百キロだと一発の核で済む」「そんな大型核なんて」「否。広島長崎型の三分の二の小型核で充分なんだ。気球での爆破なら少数のテロ集団でも可能だ。爆発の熱線や衝撃波は地上に届かないし、誰も気づかないうちに沈黙の攻撃で終了だ」
「SFだろう、聞いた事も無い」
「軍事研究家の間ではとっくに知られていたさ、自衛隊化学学校鬼塚元校長も警告していた。五十年前の一九六二年、米国は高度四百の爆発実験で千三百キロ離れたハワイの停電を起こした。中露もEMPの配備と対策は完了していると考えられている。北は一昨年保有宣言していた」「イージスとかの追撃ミサイルは機能せずか」「何十発も要らないのさ、一発でジエンドだからな。電子機器の破壊で空母もステルスもオスプレイも動かぬオモチャになった。今頃は大量の飛行機墜落事故発生で国中が大騒動の筈だ」「先制攻撃しか無しという訳か」「無駄。アルミなどの特殊な格納倉庫で核を保管出来たら、後で持ち出しての報復は可能だ」「対策は無しだった、と」「俺達の主張、核なき世界を一刻も速く作るべきだったのさ」
「電磁バルスによるものだとしたらどれくらいだ、復旧迄」「復旧とは」「電力」「日本全土が被害に遭っていたら数年」「数年での被害は」「一年内に九割が死亡」「嘘だろ」「とっくに米国は試算していたぞ。火災、食糧不足、疫病蔓延〈まんえん〉等による。それより電源喪失による川内原発のメルトダウン、放射能漏れが起きてたら風向き次第ではここも危ない。情報無しだからな。最終的にはだ。本土以外で被害に遭ってないと推測される沖縄、そこからの支援次第だな、復旧は。沖縄もどうなってるか判らんが」。
ーー拙作「邯鄲の夢」は〈今夏刊行の『全作家短編集十八巻』〉所収作です。
なお、ブラックアウトは映画DVD「サバイバルファミリー」で見られます。その中で、平和に暮らしていた東京の家族が助かる道はーーなんと、鹿児島への自転車での避難なのです。途中の食糧調達は? 勿論お金は無価値になります。見ごたえありますよ。
橋ーー本稿は9/5南九州新聞コラム掲載予定です(フライング( ´艸`))