「戦争法」の現状
やはり米軍のための「空母化」だった――。21日の朝日新聞の1面スクープ。事実上の空母に改修される海上自衛隊の「いずも」型護衛艦(「いずも」と「かが」の2隻)を最初に使うのは、日本の自衛隊ではなく米軍機だというのである。 空母化は艦艇の定期検査のタイミングで行われ、「いずも」は2020年度、「かが」は22年度に甲板の耐熱強化などの改修が予定されている。ところが、その甲板を使用する米国製のステルス戦闘機F35Bが航空自衛隊に配備されるのは24年度以降。つまり、空母化されても3年程度は使えない。そのため、米軍機の先行利用を想定しているのだという。今年3月、米海兵隊トップの総司令官にもその旨は伝えられた。日米共同訓練や飛行中のトラブルなどで米軍機が緊急着陸する場合が考えられている。 許し難いのは岩屋防衛相だ。3月の衆院安全保障委員会で、改修後の「いずも」を米軍機も使うのかどうか質問された際、「絶対に米軍のF35Bが護衛艦に載ってはいけないと申し上げるわけにはいかない」と曖昧に答弁していた。既にその時には米軍機の先行利用が分かっていたのに、隠し、ゴマカしていた。
5月末に国賓として来日したトランプ米大統領を安倍首相は横須賀に案内し、2人で「かが」に乗艦。日米の隊員500人を前に訓示した。「日米の軍事一体化」を世界に宣言したようなものだったが、空母の甲板を“米軍様”が最初に使うのだから、お見せするのは当然だったわけだ。 軍事評論家の前田哲男氏が言う。 「米軍が使うのだろうと思っていました。そもそも防衛省は、いまだ改修する『いずも』を『空母』と呼ばず、『多用途運用護衛艦』と言い換えています。空母は、長距離爆撃機やICBM(大陸間弾道ミサイル)と同様に自衛隊が持てない兵器だからです。日本の護衛艦を米軍に使わせることになれば、文字通りの『一体化』です。米軍が主体となって空母を運用することになるのでしょう。 米軍は南シナ海やインド洋で中国を仮想敵にして訓練しています。日本の艦船で日本の乗組員だとしても、中国には『日本が米軍のF35Bを載せて、一体となって我々を威圧している』と受け止められる。ますます覚悟が必要になります」
解釈改憲で憲法を破壊したことを思い出せ 今回の「いずも」の一件で分かるように、秘密裏に軍国化を推し進め、既成事実を追認させるのが安倍流だ。同じ手口を改憲でも使うだろう。 参院選の結果、与党は参院で3分の2の勢力を失い、公明党も9条改憲に消極的なことから、永田町では「安倍政権での改憲は遠のいた」という見方がある。野党の抵抗もあって、衆参の憲法審査会も開催のメドが立たない。 だが、相手は世紀のペテン政権だ。思い出して欲しい。解釈改憲という憲法破壊の手法で閣議決定により集団的自衛権の行使を容認し、多くの憲法学者が違憲とした安保法制を強行成立させたことを。この国を米軍と一緒に戦争のできる国につくり替えておきながら、「専守防衛を堅持」と言ってのけるのが安倍だ。国民ダマシなんてへっちゃらの詐欺師集団なのだから、国民はそれを前提に身構える必要がある。
憲法破壊行為は刑法78条の内乱予備罪に当たるとして、安倍を刑事告発している元参院議員の平野貞夫氏は、安保法制定までのだましの手口についてこう話す。 「米軍と一緒に戦争をできるようにするため、安倍首相はまず改憲の発議に必要な『3分の2』条項を『2分の1』に変えることを画策した。しかし、それが“裏口入学”と批判されると、『安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会』という私的諮問機関を立ち上げた。そうやって閣議決定で憲法解釈を変えることは違法ではないという環境整備をしたのです。米国との間でガイドライン(日米防衛協力のための指針)変更の話も先につけていました。こうして既成事実を積み上げ、マスコミを使って北朝鮮の脅威を煽り、世論を盛り上げ、反対デモを封じ込めた。これが安倍政権のやり方です。だから私は、権力者による憲法破壊のクーデターだと言っているのです」
安保法から3年、自衛隊はすっかり変貌した
2016年3月に安保法が施行されて3年。国民が知らないうちに、自衛隊の任務は大きく変貌している。
「米艦防護」が可能になり、17年5月、海自の護衛艦が米海軍補給艦と行動を共にし、初めて防護任務に就いたのだが、安保法の初適用を政府は説明しなかった。 同じ年に空自の戦闘機が米軍の爆撃機と共同訓練した際にも防護任務が付与されたが、それが明らかにされたのは翌年1月の安倍の施政方針演説だった。 米軍の防護任務は、17年に2件だったのが、昨年は16件に急増。共同訓練中だけでなく、北朝鮮の弾道ミサイルを警戒中の米艦の防護という実任務も行われている。 地理的制約なく、自衛隊が米軍を後方支援できるようになったことで、日本から離れた地域での共同訓練もどんどん増えている。その辺り、月刊誌「世界」(8月号)の東京新聞論説兼編集委員・半田滋氏のリポートが詳しい。
安保法施行後、海自は米軍とインド軍の共同訓練「マラバール」に毎年参加することを決め、17年にはインド南部のチェンナイ沖で訓練が行われたという。また、海自は「インド太平洋方面派遣訓練部隊」を編成し、昨年は2カ月間にわたって、護衛艦3隻をインド洋や南シナ海に派遣。南シナ海では、後から到着した潜水艦「くろしお」とともに本格的な戦闘訓練を行ったという。今年4月には、フィリピン軍も加わって、4カ国で南シナ海での共同訓練を行っている。 国連主導ではない平和維持・監視への参加も可能になり、今年4月、イスラエルとエジプト両軍の停戦監視活動を行う「多国籍軍監視団」に陸自の幹部2人が派遣された。安保法による実績づくりが着々と進められているのである。 あれよあれよという間に、自衛隊のありさまは一変していく。そこに国民が関与する余地はない。
「昨年末に閣議決定された新しい『防衛計画の大綱』には、『専守防衛に徹する』と書いてあります。しかし、実態は全く違う。空母は動く空軍基地であり、先制攻撃も可能な軍艦です。そこに米軍の戦闘機を載せる。それでも『専守防衛』と言うのか。国民を愚弄するこれ以上の言葉はありません」(前田哲男氏=前出) ■韓国叩きは9条改憲の環境整備 改憲に向けても国民を愚弄するのは間違いない。 安倍は憲法9条に「自衛隊」を明記したい。「明記しても自衛隊が違憲ではなくなるだけで、役割は変わらない」と言い張るが、これは嘘だ。安倍がイメージする9条に新条文を書き加える方法だと、既存の「戦争放棄」を明記した9条は死文化する。安倍はそれを国民に知らせないで隠している。とにかくズルい政権なのである。
前出の平野貞夫氏がこう警告する。 「私は今の韓国叩きに世論の6割が賛成している現状に危うさを感じています。韓国敵視外交と東京五輪の国威発揚ムードが相まって、悪いナショナリズムが広がるのではないか。安倍政権の韓国叩きは、9条改憲のための環境整備の一環です。日本が危ないという空気をつくって、世論がそれを後押しすれば、改憲できるというシナリオ。衆参の3分の2は、議員の一本釣りなどを強行すればどうにでもなると思っている。国民投票だって、賛成が半数を超えてしまいかねません」
既成事実は着々と積み上げられている。今こそ、国民の決起が必要だ。
ーー日刊ゲンダイ22日より転載
橋ーー久々の「ゲンダイ」です。論に賛意します