日韓関係の見方2
嫌韓煽動報道が完全に日常化してしまった日本メディア。8月14日の「日本軍慰安婦被害者をたたえる日」、8月15日の「光復節」をめぐっても「反日ムードが高まる日」「反日集会」「文大統領が『光復節』で日本に対抗」などと、対立ムードを煽りに煽っていた。
実際には、文在寅大統領は「慰安婦をたたえる日」集会には出席せず、「光復節」のスピーチでも日本に対話を呼びかける非常に冷静なものだったが、テレビのワイドショーは「文大統領のトーンが弱まった」としつつも、北朝鮮との経済協力を強調していたことに難癖をつけたり、8月2日のホワイト国除外閣議決定を受けて文大統領が発した「賊反荷杖」という言葉をもう一度引っ張り出すなどして(しかも、例の「盗人猛々しい」という“煽り訳”をつけるかたちで)、相変わらず文大統領攻撃を展開。「光復節」についても、まるで「韓国の反日がこれまで以上にエスカレートした」「日本糾弾イベント続々」などと報じた。
しかし、今年の「光復節」は決して、日本のマスコミが決めつけるようなたんなる「反日の日」「日本糾弾の日」ではなかった。
日本メディアはまったくと言っていいほど報じなかったが、「光復節」の演説で文大統領は日本に対話を呼びかけただけでなく、その「光復節」の本質について、こう語っていた。
〈光復は私達にとってのみ嬉しい日ではありませんでした。 日清戦争と日露戦争、満州事変と日中戦争、太平洋戦争まで 60余年間の長く長い戦争が終わった日であり、 東アジア光復の日でした。 日本の国民たちもまた、軍国主義の抑圧から逃れ 侵略戦争から解放されました。〉 (「コリアン・ポリティクス」編集長・徐台教氏による全文訳https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20190815-00138475/)
日本メディアでは、「日本が敗戦した日は、韓国にとっては勝利、日本の植民地から解放された日」などと二項対立的に報じているが、文大統領は、多くの日本人にとっても終戦記念日は戦争と軍国主義から解放された日だとし、ナショナリズムを乗り越えるよう、日韓両国の国民に呼びかけたのだ。
こうした姿勢は、韓国国民も同様だ。韓国国内の反日・不買運動などに対して当の韓国市民がNOの声をあげて撤回させていることなどがすでに報じられているが、日本メディアが「反日集会」「反日デモ」と決めつけたデモや集会も、単純に日本という国や日本人を攻撃する内容ではなくなっている。プラカードの多くはハングルで「NO安倍」と書かれ、抗議の内容も、多くは戦前回帰を志向し侵略戦争を肯定する安倍政権の動きを批判するものなのだ。
また、韓国ではいま、『日本会議の正体』(青木理・著)の韓国版がベストセラーになるなど、安倍政権の極右思想の背景を検証する報道に注目が集まっている。
これらの現象からわかるのは、韓国国民が日韓対立問題の本質をはっきりと認識するようになったということだ。
いま、起きている日韓対立のエスカレートの責任のかなりの部分は、明らかに日本の歴史修正主義の台頭、そして安倍政権の侵略戦争肯定と戦前回帰政策にある。
安倍首相は第一次政権で首相に就任するや、日本軍「慰安婦」の強制性を否定。米国から非難を浴びて撤回した後も、政権周辺がことあるごとに日本の戦争犯罪を否定し、先の戦争を肯定する発言を繰り返してきた。第二次政権になると、この動きはさらにエスカレート。2015年の終戦記念日には、日本の植民地支配と侵略を謝罪した村山談話を見直し、2015年末には慰安婦問題でまともな謝罪をすることなく、金で黙らせるような慰安婦問題日韓合意を結んだ。
こうした安倍政権の姿勢が、韓国の国民の怒りと危機感を高まらせ、逆に日本の戦争犯罪を問い直す動きを加速させていったのだ。
ワシントン・ポスト「日本は何十万人を性奴隷にし朝鮮文化を根絶やしにしようとした」
ところが、安倍政権はこの韓国との対立の沈静化を図るどころか、逆に“反韓感情”を煽動し続けた。徴用工問題で韓国の裁判所で日本企業に賠償責任を求める判決が出ると、参院選直前、消費税や年金問題などの不利な争点を隠そうと、官邸主導でその報復措置として対韓国輸出規制を決定した。
しかも、国内では御用マスコミにオフレコで“徴用工問題への対抗措置”とリークして勇ましい姿勢をPRしながら、国際社会では批判を浴びることを避けるために「対抗措置ではなく、韓国に安全保障上の不備があったから」などとゴマカシを図るという、姑息な二枚舌作戦まで展開していた。
こうした安倍政権の体質、やり口こそが最大の元凶であり、日韓対立をエスカレートさせているということに、韓国の人たちが気づき始めたのである。
いや、韓国だけではない。欧米でも安倍政権の歴史修正主義の責任を問う声がどんどん強くなっている。例えば、米紙ワシントン・ポスト11日付電子版は、「日本が過去の罪への償いを怠ったことがいかに世界経済を脅かしているか」(How Japan’s failure to atone for past sins threatens the global economy)という記事を掲載した。
記事はまず、世界のマーケットへの悪影響を指摘しながら、安倍政権の目的が徴用工問題での「報復」にあることをこう指摘する。
〈日本の動きはすでにメモリーチップの価格を急騰させており、世界のテクノロジーマーケットに恐ろしい影響を与えている。日本政府は制裁(the sanctions)の理由として安全保障上の懸念をあげているが、ほとんどの識者は、日本企業が第二次世界大戦中に強制労働させた朝鮮人に賠償金を支払うべきとした最近の判決に対する韓国への報復と見なしている。〉(訳は編集部による)
そのうえで、日本政府がいまだに戦中のアジアへの侵略行為を清算できていないことをこのように解説するのだ。
〈日韓では何十年もの間、日本がどのようにして植民地支配の過去を償うべきかについての意見がわかれてきた。過去の数々の残虐行為をきちんと考慮してこなかったことが、東アジア地域を超えた経済的影響をもたらしているのかもしれない。さらなる平和と繁栄のために、国家というものは歴史に取り組まなければならない──その歴史がどれだけ醜悪だったとしても。 第二次世界大戦の終焉とともに日本が帝国主義を放棄したそのときから、韓国のような元植民地では日本に対する根深い恨みが残り続けた。まず帝国主義の支配のもと、そして第二次世界大戦のあいだに、日本が犯した残虐行為の数々は、歴史上最も恐ろしいもののひとつだった。そこには、何十万人の“慰安婦”を性奴隷にしたことや、韓国の学童たちに日本語を教え込むことで朝鮮文化を根絶やしにしようとしたことも含まれている。〉
国際社会の批判を無視し、安倍政権の歴史修正主義と同化する日本マスコミ
さらに同紙は、1965年の日韓基本条約にも触れ、〈しかし、この条約はまた、日本を過去の残虐行為の清算から逃れさせた〉として、交渉において日本政府と韓国軍事政権が戦争被害者の視点を考慮しなかったと指摘。その後、80年代から90年代にかけての韓国民主化の流れのなかで、それまで沈黙を強いられていた元「慰安婦」が声を上げたと解説し、〈条約は彼女たちの不満を扱うのに十分でないことを証明した〉と述べる。そして、過去の戦争犯罪を忘却させようとする日本社会と政治の歴史修正主義的な性格を指摘し、日韓の貿易問題に限らず、こうした状況が世界に及ぼす悪影響を示唆して記事を締めくくっている。
〈日本はまた口先だけの努力で(両国の)論争を煽り続けている。90年代以降、日本の政治的リーダーらは、日本の過去の悪行のお詫びと反省を表明するいくつもの談話や声明を出してきた。しかしながら彼らの釈明、あるいはその誠実さに疑問符を付けさせる悪名高い靖国神社参拝などの行為で、談話や声明を一貫して弱めてきた。 日本社会は、第二次世界大戦で日本軍がしたことを認め、反省を示すことを失敗してきた。ドイツとは違い、日本は第二次世界大戦での残虐行為を人々に教育し思い起こさせる記念碑や記念館を建ててこなかった。現在の総理大臣である安倍晋三は、歴代の首相よりも歴史問題で強固な姿勢をとっており、それまで以上の謝罪をおこなわないことを明確にしている。学校教育では20世紀初めの日本は純粋に利権を追求したにすぎないと教えられ、日本の若者もまた自分たちの国が過去におこなったことについて謝罪する必要はほとんどないと思っている。こうした傾向はすべて、ナショナリストのパブリックメモリーとしてより強化し、現在の貿易問題を悪化させる恐れがある。 貿易戦争が地域経済と世界経済に波及する前に日本と韓国が何かしらの合意に達する可能性はあるが、現在の問題が解決したとしても、日本が、近隣諸国との和解を達成するために、さらに広く一貫した努力をしないかぎりは、アジアは常に、別の経済的あるいは軍事的な危機に近い状況に不安定なかたちで置かれるだろう。難しい歴史の考慮を怠ったことが未来の繁栄に限界をもたらし、そして世界の他の地域が苦しむ結果になるかもしれない。〉
日本政府がアジア侵略や戦争犯罪を反省し、被害を受けた市民一人一人に対して謝罪や真摯な対応をしなかったことが、現在の日韓関係の悪化を招き、さらには世界経済を混乱させかねない。そう追及するワシントン・ポストの論調は、国際的に考えて至極当然のものだろう。
しかし、韓国国民が反日ではなく、安倍政権の戦前回帰、大日本帝国肯定に危機感を持っていることも、そして、欧米をはじめとする国際社会がワシントン・ポストと同様に、「安倍政権が過去の罪の償いに向き合わないこと」が韓国との対立の最大の原因だと捉えていることも、いまの日本のメディアはほとんど報道しようとしない。
それどころか、テレビのワイドショーなどはまったく逆に、安倍政権の歴史修正主義、戦争犯罪否定をデフォルト化させ、植民地時代の差別的視線そのままに、洪水のような韓国ヘイト報道を展開しているのだ。
17日、ジョージメイソン大学大学院博士課程の社会学研究者・古谷有希子氏が、「Yahoo!個人」に「日韓関係の悪化は長期的には日本の敗北で終わる」と題した論考を発表。そのなかで、日本政府に対して〈たとえ貿易戦争で一時的に国民をスカッとさせるような結果を得ても、歴史修正主義に立った「歴史戦」は日本の外から見れば明らかに日本の劣勢であり、長期的に見れば勝ち目のない戦いである〉と警鐘を鳴らした。
ネトウヨはこの論考に早速「反日」「韓国の回し者」と攻撃を加えているが、この分析は国際社会の動きを見ると、決して間違っていない。安倍政権の煽りに乗っかって、日本がのっぴきならない状況に追い込まれたら、間違いなく、その共犯者はマスコミである。ーーーリテラ19日より転載
橋ーーワシントンポストに言われるまでも無く、上論に賛意します