G20
「議長国として、力強いリーダーシップを発揮していきます」――。月末開催の大阪G20サミットに向け、こう意気込んでいる安倍首相。7月の参院選を前に“外交の安倍”を猛アピールする思惑だが、国際情勢はとてつもなくキナ臭くなっている。国際会議の議長国として参加国を“おもてなし”する安倍首相にとって、波乱含みの展開になりそうだ。 G20は、G7後に行われるのが慣例だ。ところが、安倍政権は参院選対策の見せ場として利用するため、8月開催予定のG7議長国のマクロン大統領に拝み倒し、G20前倒しにこぎつけた。 世界のリーダーと肩を並べて“やってる感”を演出しようとしているわけだが、そうは問屋が卸さない。G20は問題山積だ。そのひとつが、米国とイランの対立である。 トランプ米大統領はイランに対する軍事攻撃を一時承認していたと認めている。イランが米国の無人偵察機を撃墜したことに対し、米国はイランのレーダーシステムやミサイル関連施設への限定攻撃を計画していたが、攻撃開始10分前に中止を決めたと自身のツイッターで明らかにした。米政権内ではボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)やポンペオ国務長官、ハスペルCIA長官が攻撃に賛成していたという。
軍事衝突は回避されたものの、トランプは「イランはひどい過ちを犯した」と鼻息荒く、何をするか分かったものじゃない。 「そもそも、米国がイランとの核合意から一方的に離脱したのは、イランとの緊張関係をあおるためです。仮にイランを攻撃して戦争になれば、(緊密な同盟関係にある)イスラエルと対立する相手を叩くことができるうえに、米国内の軍需産業が儲かります。米国と対立する中国やロシアがトランプ大統領に対抗するカードとして、イラン問題を利用することも考えられます」(元外務省国際情報局長の孫崎享氏) 世界経済の行方を占う米中貿易戦争もG20の大きな焦点だ。 ■習近平訪朝で牽制 一方、中国の習近平国家主席は21日、2日間の北朝鮮公式訪問を終えて帰国。金正恩朝鮮労働党委員長との蜜月ぶりをアピールしたのは、対米交渉を有利に進めるためだとみられている。
「中国は、米国との貿易戦争や、『逃亡犯条例』の改正に反対する香港の大規模デモによって、外交的な失点を重ねています。ただ、G20の直前というタイミングで訪朝したことで、トランプ大統領との首脳会談でのトピックスができた。北朝鮮問題を持ちかけることで、高関税措置の全面実施まで時間を稼ぎ、次回の会談で貿易戦争についてじっくり話し合おうと提案することができるのです」(東京財団政策研究所の柯隆主席研究員) 米中トップが全面対決するという安倍首相にとって気まずい展開はひとまず避けられるかもしれないが、冷や汗をかきっぱなしの2日間になりそうだ。米中貿易戦争をはじめ、「対立ムードが基調の中、各国は日本のかじ取りに注目するので安倍首相としてはキツイ役回りになる」(孫崎享氏)からだ。 策士策に溺れる――。問題山積のサミットに翻弄され、“外交の安倍”は、“外交もダメ”に塗り替えられるんじゃないか。ーー日刊ゲンダイ22日より転載