アベ外交とは
今回のイラン訪問は首脳協議でトランプ米大統領に次のように言われたから。
「今すぐにでもイランに行ってほしい」
「この1週間は他の問題はいいからイランのことに集中してほしい」(日経新聞6月14日)
しかしイランへ行ったら「米、新たな制裁を追加」。平気でハシゴを外す親愛なるドナルド!
そして日本船は謎の攻撃である。緊張緩和のために行ったのに……。
辛口のタブロイド紙・日刊ゲンダイは「誰がどう見ても大失敗」とデカデカと書き、「喜々としてトランプの“パシリ”を買って出た身の程知らずが招いたその後の情勢の不穏」(6月17日付)と早口で責め立てた。
パ、パシリ……!
すると日刊スポーツも「トランプの“パシリ”安倍が得たものは」(6月17日「政界地獄耳」)。
ここでもパシリ! トランプに頼まれたから行ったのにこの言われよう。
これ、最近の金融庁の立場とそっくり
これ、何かに似てる。ああ思い出した。最近の金融庁の立場とそっくりなのである。
「出せ」と頼まれたから報告書を出したのに「老後2000万円」が注目されたら政府や自民党から散々な言われよう。しまいには受け取りを拒否された。
今週こんな記事が出た。
「首相激怒『金融庁は大バカ者』 官邸主導、異例の火消し」(朝日新聞デジタル)
「2000万円不足」問題の追及が強まると、首相は周辺に「金融庁は大バカ者だな。こんなことを書いて」と漏らしたという。
この首相の激怒をきっかけに、
《官邸側は「初期消火に失敗したら建物ごと燃やすしかない」とし、問題に「ふた」をする判断をした。》(同)
なるほどなぁ。この数年間の「あったものがなかった案件」が走馬灯のように浮かびます。
金融庁にとってはまさに理不尽な展開だった。すると同時期にイラン訪問をした首相にも先述した理不尽な評価が待っていたのである。
因果応報とはこのことか。まさか、金融庁の呪い?
「私はめったに激怒しない人間としてですね」
ちなみに19日の党首討論で国民民主党の玉木雄一郎代表がこの「大バカ者」記事について問うと、安倍首相は「私はめったに激怒しない人間としてですね、自由民主党では大体理解されている」と答えた。
6月19日、国民民主党の玉木雄一郎代表(左)との党首討論に臨む安倍晋三首相 ©時事通信社
これまで国会の場でも朝日新聞を名指しで批判してきた首相。記事で書かれた事実が無いなら「朝日の誤報、捏造」と声を大にして批判したに違いない。しかし“大人の対応”で乗り切ったということは、朝日に書かれたことはやっぱり「あった」!?
「安倍外交」とは何なのか? 朝毎読み比べてみた
さて、では実際に「安倍外交」とは何なのか?
実はイラン訪問前に、朝日新聞と毎日新聞に安倍外交について考える特集があったのである。その違いが面白かったので紹介しよう。
まずは朝日。
「安倍外交の手詰まり感 目立つ変節 説明ないままに」(6月3日)
・首相に復帰して6年半。「外交の安倍」と言われるが主要課題は手詰まり感が漂う
・強硬一辺倒だった対北朝鮮政策で「前提条件なしの対話」に転換も、説明なし
・政権は外交を、内向きの政権浮揚や選挙に利用してないか
記事の最後は《首相は日本とイランのパイプを生かし、米イラン関係の緊張を緩和させようと仲介役に乗り出す構えだ。理念に根ざした外交戦略の一環なら歓迎だが、手詰まり外交の目先を変えようとのパフォーマンスなら、また手詰まりを繰り返しかねない。》
朝日は王道的な批評の仕方だった。これに対し毎日新聞の「安倍外交」記事が一工夫していて読ませた。
特集タイトルは、
「『安倍外交』ここがすごい?」(6月3日 夕刊)
とても気になる見出し。
「安倍応援団と目される」人に話を聞くと
「『安倍外交』ここがすごい?」がすごかった理由
安倍外交の「どのあたりがそんなにすごいのか」と考えた記者は、なんと「安倍応援団と目される」人に話を聞きにいったのだ。登場したのは政治ジャーナリストの田崎史郎氏ら。面白いなぁ。
その田崎氏は「世界の指導者でトランプさんとうまくいっているのは安倍さん一人なんですよ」。他にもフィリピンのドゥテルテ氏、トルコのエルドアン氏、ロシアのプーチン氏の3人の大統領の名を挙げ、
「こういうちょっと毛色の変わった人と合わせるのがうまいんです」
この田崎氏の安倍「高評価」を受けて記者は、
《いずれも「独裁的」との批判を浴びることの多い顔ぶれで、そういう人と馬が合うというのも、「さすが安倍首相」ということらしい。》
なんとも行間を読ませる。
さらに田崎氏はトランプ大統領との会談で日米貿易交渉が「参院選後決着」で一致したことについて、
「選挙の懸念材料を先送りにすることができた。国内的には大きな意味を持つ」
と「先送り」を高評価。
すると記者は、
《外国との交渉を通じて有権者の判断材料を減らすのは、「外交手腕」と言っていいのか。》
「安倍外交を絶賛している人」の話を聞くことで、結果的に己の「??」を浮かび上がらせるという手法だった。
自分では思いつかない考えを持つ人の意見を積極的に聞いてみる。そこからさらに考えるという記事のつくり方。
現在、ネットでは「見たいものしか見ない」という分断がすすんでいるとよく言われる。いや、新聞を購読する人だってその新聞の論調しか読まないという人も多いだろう。
でも見解が分かれるテーマのときは様々な見方を知ると面白い。貪欲に、スケベ根性を大切にしたいと思う。----文春オンライン21日より転載
橋ーー上論に全く賛同します(笑)