選挙争点「改憲の緊急事態条項
日米共同記者会見と後のツィッターで米大統領が発信したのは「日米貿易交渉での大きな成果は選挙後に発表できるだろう」である。選挙の単語は複数形となっており、衆参ダブル選挙を匂わせていた。もし総理がダブル選挙を国民より先に大統領に報せたなら国民軽視も甚だしい。まして牛豚や農産物関税を「大きな数字」で引き下げる事を約束してそれを選挙後に発表というのは信じがたいが想定外とは言えないだろう。
米中の関税引き上げ合戦が始まれば中国経済が失速するのは必至だし、それで日本経済もダメージを受けるなら、消費増税延期を新たな争点として衆院解散・総選挙もないとは考えられない。
来たる国政選挙での争点は何か、と明確には言えないがここでは「改憲」について考えたい。他案の「選挙区改定」と「教育の無償化」はここでは割愛する。改憲せずともできる話だからである。「緊急事態条項」と「自衛隊明記」について考えてみたい。まだ自民党案も確定していないので今まで明らかになった案文を元に考察する。
「緊急事態条項(国家緊急権)」とは「戦争や内乱、大規模自然災害などが発生した時に、内閣が政令を制定する事により人権制限を可能にする」、と現憲法の立憲秩序破壊をするものであり、「法の支配」から「人の支配」への逆行を意味する。この場合の政令とは現憲法化の「政令は法の下」とは異なり、現憲法下の刑法、民法等全ての法を変更可能にするものだ。「緊急事態」の定義が明確でない以上、「サイバー攻撃があった、開戦だ」と内閣が「緊急事態」と発令した途端、礼状無しの拘束、反対政党への解散命令、マスコミ統制などが新政令により容易に可能となるのである。過去、我が国において「治安維持法」が暴風と化したのも緊急勅令の発令という形だったし、戦前のドイツが世界有数のワイマール憲法を持ちながら第二次大戦に突き進んだのも、ヒトラーが全権委任法という非常事態大権を手中にしたからに他ならない。
権力集中は独裁政治に繋がるとの反省から、現憲法制定時に当時の国務大臣は「非常という言葉を口実に政府の自由判断を大幅に残すと精緻な憲法も破壊される」として「非常大権」など設けるべきでないと論じているのだ。
「災害対策」で言えば、日弁連が東日本大震災後に被災三県で行ったアンケート(二十四市町村回答)で、災害対策に当り個人の権利を最大尊重する「現憲法が障害になった」と答えたのは一自治体のみだった。災害対策基本法等の強化改正で地方に権限を委譲し、役割を明確にすれば足れりとの結論から日弁連も緊急事態条項を含む憲法改正に反対の声明を出している。
最後に、九条改憲で自衛隊明記は不必要と考える。「専守防衛」の現状で充分だ。「九条」という歯止めがなかったばかりに、米国の要請でベトナムに参戦し、五千人もの戦死者を出した韓国軍の二の舞になる必要は無い。
橋ーー南九州新聞コラム「雑草」に本日掲載