「公的年金制度」は破綻の失政
5年に1度おこなわれる公的年金の「財政検証」の結果が6月にも公表される予定だが、それを目前に控えたいま、SNS 上では、年金制度に対する怒りの声が溢れている。
きっかけとなったのは、5月22日付けで金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」がまとめた「「高齢社会における資産形成・管理」報告書(案)」だ。
これは老後の生活を営んでいくための「資産寿命」をいかに延ばすかをまとめたものだが、なんとそこでは、「年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性がある」とし、「老後は年金だけに頼らず自助努力しろ」と呼びかけられているのだ。
〈かつては退職金と年金給付の二つをベースに老後生活を営むことが一般的であったと考えられる。しかし、長寿化による影響はもちろんのこと、公的年金の水準が当面低下することが見込まれていることや退職金給付額の減少により、こうしたかつてのモデルは成り立たなくなってきている。〉 〈重要なことは(中略)老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。〉 〈少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小していく以上、年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい。今後は、公的年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性がある。〉 〈老後の収入が足りないと思われるのであれば、各々の状況に応じて、就労継続の模索、自らの支出の再点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」の充実を行っていく必要があるといえる。〉
いったいこいつらは何を言っているのか。まず、信じがたいのは、この報告書の主張が政府の日頃の喧伝と完全に矛盾していることだ。
日本の年金制度は、保険金の割に給付が少ないが、将来的にはさらなる給付金の減少、さらには破綻の危険性が指摘されてきた。ところが、政府は老後の生活のために、年金加入は絶対に必要と喧伝。小泉純一郎政権の2004年に「年金100年安心プラン」を謳って年金制度改革をおこない、それに則って安倍第二次政権でも、厚労省は「公的年金は大丈夫!」とPRを展開してきた。現役世代の手取り収入に対する年金の給付水準50%を100年間維持するという約束のもと、安倍首相は「年金の受給者に年金を払えないという状況にはまったくなっておらず、年金制度は破綻しているとのご指摘は当たらない」などと強弁してきたのである。
しかし、それがどうだ。今回、金融庁は「年金の給付水準が今までと同等のものであると期待することは難しい」「年金だけでは満足な生活水準に届かない可能性がある」と、安倍政権がけっして語ってこなかった見立てを公表したのである。
2000万円ない人は?の問いに金融庁は「お金を預けられない人は対象外」
しかも、だ。この金融庁の報告書では、“平均的な高齢夫婦の無職世帯では毎月の赤字額は約5万円”とし、その先20〜30年生きた場合は不足額が約1300〜2000万円になると計算。その上で、現役期のあいだから投資などで資産運用をおこなうことが望ましいなどと提言している。
「老後は年金に頼るな」と言い、「若いうちから2000万円の赤字を補填する蓄えを考えろ」と迫る──。まったくふざけるな、の一言だろう。たとえば、2017年の「家計の金融行動に関する世論調査」では、2人以上世帯で運用や将来への備えなどを目的とした金融資産が「ない」と答えた世帯の割合は31.2%にものぼり、過去最高を記録した。
また、今月10日に厚労省が公表した3月の「毎月勤労統計」調査の速報では、物価の影響を考慮した実質賃金は前年同月比でなんとマイナス2.5%と大幅に下落し、3カ月連続の減少となったばかりだ。
賃金は上がらず、非正規の雇用者は増えつづけ、将来の蓄えをおこなう余裕もない状態に陥っている人は多いというのに、そうした経済状況をつくり出しておきながら「長生きしたいなら2000万円貯金しろ」「投資で資産運用しろ」とは、あまりにも無責任ではないか。
その上、日刊ゲンダイが“投資に回す余裕のない世帯はどう努力するのか”と訊いたところ、金融庁の市場課は「そもそも、お金を預けられない人は対象外」という信じがたい回答を寄せている。つまり、生活がカツカツな国民は、高齢化社会対策の議論において、そもそも無視されているというわけだ。
だが、これこそが、安倍政権が踏襲する「年金100年安心」の実態なのだ。実際、安倍政権は「年金制度は破綻しない」と喧伝してきたが、その根拠は嘘っぱちなもの。現に、前回2014年の財政検証においてシミュレーションの前提条件に挙げられた物価上昇率や賃金上昇率の数字はあまりにデタラメなもので、厚労省も現在の制度ならば100年後も年金積立金が十分に残っているから安心だと説明するものの、ご存じの通り、年金積立金の運用では損失を出しまくり、2018年10~12月期の資産運用成績では約14.8兆円という過去最大の赤字額を叩き出した。
大甘で恣意的なシミュレーションによって「年金制度は破綻しない」「大丈夫!」などと言い張って国民を騙してきた安倍政権。ようするに、それらは建前にすぎず、今回、「年金を当てにするな」「自助努力でどうにかしろ」という本音を、金融庁が図らずも“暴露”してしまったのだ。
安倍政権の「老後は国に頼るな、自助努力しろ」というグロテスクな本音
事実、安倍政権のそうした「国に頼るな」「自己責任」という本音、本質を端的に表しているのが、2013年に成立させた社会保障改革プログラム法だ。
この法律は、年金をはじめ医療や介護、福祉といった社会保障費削減のための工程を定めたものだが、安倍政権は「講ずべき社会保障制度改革の措置」として、〈個人がその自助努力を喚起される仕組み〉の導入を掲げ、第2条の2でこう規定している。
〈政府は、住民相互の助け合いの重要性を認識し、自助・自立のための環境整備等の推進を図るものとする〉
社会保障制度改革の基本は、「自助・自立のための環境整備」である──。しかも、じつは社会保障制度改革国民会議がまとめた最後の報告書では〈自助・共助・公助の最適な組合せに留意して形成すべき〉という文言があったのだが、それが法案では「公助」が消え失せ、「自助・自立」が前面に押し出されたのだ。
憲法25条では〈すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する〉と謳われ、〈国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない〉と定められている。しかし、憲法によって規定された社会保障に対する国の責任を放棄して、安倍政権は「自分のことは自分でどうにかしろ」と国民に押し付けたのである。
この条項を見れば、今回露呈した「年金に頼るな」「長生きしたいなら2000万円貯金しろ」「投資で資産運用しろ」というものは、安倍政権の年金に対する姿勢を端的に表したものであることがよくわかるというものだ。
無論、安倍政権は国民の生活を守るための年金制度が破綻しないように抜本的改革をおこなう気などさらさらなく、給付金の削減や保険料などの負担増といった国民の生活を追い込む手しか打たない。その上、安倍首相は「人生百年時代の到来は大きなチャンス」などと宣い、最近も70歳まで働けるようにする「高年齢者雇用安定法改正案」の骨子を発表したばかり。政府は年金支給開始年齢は引き上げないとしているが、こうした雇用年齢の引き上げによって、いずれ年給支給開始年齢も現行の65歳から70歳、さらに75歳……と上げていく算段なのは目に見えている。
「年金に頼るな」と責任を投げ捨て、高齢者に「死ぬまで働け」と要求し、老後の貯蓄のために投資などする余裕がない国民には目も向けない。──もはや安倍政権の社会保障政策は、すでに破綻している。そう言っていいだろう。
リテラ31日より転載(編集部)
橋ーー「少子高齢化」は国難と言っておきながら! これでも自公政権を支持しますか