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衆参同時選挙か


 「ついに、ここまで来たか」と思った。何の話かと言えば、先日の日米首脳会談だ。会談では北朝鮮情勢をはじめ多くの問題が議論されたが、私がもっとも感慨深く受け止めたのは、日本が「米国とイランの仲介者」になった点である。

最初に書いておこう。残念ながら、これまで日本は国際社会で仲介者のような立場に立つのは、極めてまれだった。外交力が乏しかったからだ。それが、安倍晋三政権の下でようやく実現した。実に喜ばしい。いったい、日米首脳会談で何が起きたのか。

米国は2018年5月、イラン核合意から離脱した。トランプ政権はことし4月、日本など8カ国・地域に対するイラン産原油禁輸の適用除外措置を撤廃する方針を決め、制裁を強化した。その後、米国は中東に空母打撃群を派遣し、軍事的にも米国とイランの緊張が高まっている。

一方、日本はイランと歴史的に友好関係を維持してきた。原油輸入の8割を中東に依存し、イランが接するホルムズ海峡を日本のタンカーが通過している事情を考えれば、日本にとって、イランとの関係が極めて重要なのは言うまでもない。

安倍晋三首相は両国の間に立って、緊張状態を打開する道を探るため、6月中にもイランを訪問する見通しだ。そんな中、来日したトランプ大統領は5月27日、安倍首相との会談冒頭、記者団に対して、安倍首相のイラン訪問を支持する考えを表明した。

トランプ氏は「安倍首相がイランと親密な事実を理解している。訪問は問題ない。だれも恐ろしいことが起きるのを見たくない。とくに私が、だ」と述べた。

事態が動いたのは、イランのザリフ外相が急きょ来日し、5月16日に安倍首相と会談してからだった。すると、米国の対イラン強硬派であるボルトン大統領補佐官も大統領に先立って一足早く来日し、24日に首相と会談した。双方が安倍首相の仲介に期待していた。

今回のように軍事的緊張をはらんだ局面で、これほど明確な形で日本が対立する2国の仲介者として登場したケースを、私は思い出せない。おそらく初めてではないか。なぜ、こんな出番が可能になったかと言えば、まさしく安倍・トランプ関係の親密さゆえだ。

首脳同士が信頼し合っているからこそ、日本は米国に意見も助言もできる。だから、イランが頼りにして、トランプ氏も首相の調整に委ねたのである。話はイランだけにとどまらない。米中貿易戦争でも、日本は影響力を発揮できる可能性が出てきた。

中国は昨年来、日本との関係改善に動いてきたが、それは米中関係が緊張したからだ。緊密な安倍・トランプ関係がイラン問題での緊張緩和に有効と証明されれば、中国は同じように米中関係の緊張緩和を期待して、一段と安倍首相を頼りにするようになるだろう。

さらに、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長をも動かすかもしれない。トランプ大統領の心を掴むために、正恩氏は韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を頼りにするより「アベに頼んだほうが話が早い」と考える可能性がある。

もっとも、現段階では正恩氏自身が肝心の非核化に踏み出すべきかどうか、決断できていない。まして日本人拉致問題では、なおさらだ。だからこそ、安倍首相とトランプ氏は今回の会談で北朝鮮について制裁を維持し、非核化を迫っていく方針を確認した。

拉致問題でもトランプ氏は再び、拉致被害者家族と面会し、米国が日本と完全に歩調を揃えている姿勢を正恩氏に示した。トランプ政権は核とミサイルに加えて、拉致問題を解決しなければ、日本の制裁解除も経済支援も得られないことを明確にしたのだ。

外交は本質的に多国間のゲームである。イランへの道は中国にも北朝鮮にも通じている。その意味で、今回の日米首脳会談は確実に日本の外交力を新たな次元に引き上げた。国際社会で日本が重要なプレーヤーとして動き出したのだ。

もう1つ、私が日米首脳会談で注目したのは、トランプ氏のツイッターである。

ネット上でも話題になったので、承知の読者も多いと思うが、大統領は5月25日、ツイッターで日本との貿易交渉でとくに農業と牛肉分野の進展に期待感を示したうえで「日本の7月の選挙が終わるのを待つ」と書いた(https://twitter.com/realDonaldTrump/status/1132506435848495104)。

Donald J. Trump

✔@realDonaldTrump

Great progress being made in our Trade Negotiations with Japan. Agriculture and beef heavily in play. Much will wait until after their July elections where I anticipate big numbers!

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1:39 PM - May 26, 2019

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「7月の選挙」について、原文は「their July elections」と複数形だった。そこから、トランプ氏は「7月はダブル選」と理解しているのではないか、という見方が出た。参院選は複数の選挙区で戦われるので「electionsと表記してもおかしくない」という説明もある。

どちらが正しいのか、現段階では、断定できる材料がない。

私は、やはり「ダブル選の意味」ではないか、と思う。トランプ氏が日本の参院選が複数の選挙区で戦われる事情を承知していて、複数形で書いたという説明は信じがたい。米国大統領選も複数の選挙区で戦われるが、英語の選挙は単数形で表記しているではないか。

日本語は単数、複数の区別をしないが、英語は厳密に区別する。ましてトランプ大統領が文章にしたとき、うっかり間違えたとは考えにくい。

そうなると、なぜ大統領がダブル選と理解していたのか、という疑問が生じる。大統領自身が日本の選挙事情と政局に詳しかった可能性も考えられるが、もっともありそうなのは「安倍首相が大統領に解説していたケース」ではないか。

私は3月29日公開コラムで、安倍首相が4月末にトランプ氏と会談した理由の1つは、米中貿易交渉について大統領の「腹の内を見極める必要があったからではないか。それは、消費税を引き上げていいかどうかの判断材料になるからだ」と書いた(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63795)。

トランプ政権が中国に厳しい態度に出るなら、中国の景気は一段と落ち込む。そうなれば、世界経済への悪影響も免れず、日本は10月に消費税を引き上げにくくなる。そこで増税を延期するなら、国民に信を問うために、参院選を衆参ダブル選にする可能性が出てくる。

安倍首相は4月の会談で、トランプ氏にそんな日本の政局事情を説明していたかもしれない。それで、大統領はダブル選になる可能性を知っていたのではないか。そう考えると、今回のツイッターも辻褄が合うのだ。

以上は推測にすぎない。だが、親密な安倍・トランプ関係と双方が置かれた立場を考えれば、実に「もっともらしい」ではないか(笑)。

ちなみに、朝日新聞など主要紙は「複数形選挙」の問題を当初、報じなかった。まさか記者が英語を読めないとは思わないが、微妙な真実から目を遠ざけたがる彼らの態度は痛々しいほどだ。記者はサラリーマンなので、余計なリスクをとりたくないのだ。

おかげで、私のコラムもネタが尽きない。ぜひ、そのまま目をつぶっていてほしい(笑)。ーー長谷川幸洋

              現代ビジネス5/30より転載

上記論の上段部は首肯するものではありませんが。下段の「解散」論は納得です

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