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「戦争絶滅法」


 前回、カントの著「永久平和の為に」でみた彼の平和論を纏(まと)めるとこうでした。【常備軍の存在は軍拡競争に繋がりかねない、それよりも国際的平和組織を創設し、そこで外交問題を協議していく事の方が肝要だと述べ、この論が国際連盟の設立に繋がったと言われている】。

今回、紹介するのはデンマーク人のホルンという人の「戦争絶滅法」とです。以下は、小説内容の一部で、ブンタローとモモジローの対話からです。

「ところでブンタロ、知ってるか、戦争絶滅法というヤツを」

「いや」

「こんなやつだ。『戦争開始後、以下の者は十時間以内に最下級の兵卒として最前線に送るべし。元首と、首相以下の開戦に反対しなかった男性国会議員。その際、年齢健康は考慮に入れてはならず、招集後に軍医の検査を受けるべし。

該当者の妻娘、姉妹も戦争継続中は、最も砲火に接近した野戦病院に看護婦または使役婦として勤務させるべし』。

 以上だ。どうだ、保身を企てそうな者から先に選抜する戦争絶滅法は」

「いいじゃないか」

「ホルンというデンマーク人が提唱した、百年ほど前だ。九条の会の発起人井上ひさし氏も紹介している。そもそもが、だ、好戦論者に限って後方から勇ましい事を言うんだからな。魚で言うならオコゼだ、見た目厳(いか)つくて口ばっかり」

「そりゃ失礼だぜ、オコゼに」

「そうか。なら話を戻す。過去、戦場の最前線に送られるのは実際、最下層の子弟だ。傭兵(ようへい)だって金で釣るんだからな。貧しき者から戦場に送り込む事は容易(たやす)い、経済的徴兵制というヤツだ」

「奨学金苦の学生、若者が多いって言うじゃないか。奨学金返済免除を条件に、十・二一学徒出陣とかありうるかね」

「ありうるね。現在、GDP中の教育費にあてる公的支出の割合はOECDの中の最低国だぜ」

「それより俺が憂(うれ)うるのは、我が国の報道の自由度が世界六十一位〈注。二千十五年度〉にまで落ちた事だな。国境なき記者団発表だが過去最低だ。これで自由と民主主義の国か。立憲制を破壊し、特定秘密保護法、共謀罪法の行き着く先は紛(まが)う事無く戦争当事国だぜ」

「モノ言わされなくなった挙句、〈私は貝になりたい〉と後で臍(ほぞ)を噛むのだけはゴメンこうむりたいな」

「同感だ。貝と言えば、モモジロ、お前、サザエの教訓って知ってるか」

「磯のサザエが捕まえられそうになり、あわてて首を引っ込めました。首を出してみた時には店頭で、値札が付いてましたというやつだろ」

「そうだ。気づいたら前線で銃を持たされていました、にならないようにしなきゃ、な」。

 【注。出典は「全作家短編小説集第十五巻」〈所収の拙作「共業(ぐうごう)」からです。「共業」とは仏教用語で、「集団を成している人達全員が負うべき責任」の意味です。

 最後に補足すれば今現在、この戦争絶滅法を実定法として制定している国家は未だありません。この事実が示すものは一体?ーー18日「南九州新聞」コラム掲載

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