「アベ吉本新喜劇出演」の愚劣
こんなことを許していいのか。そう、安倍首相が吉本新喜劇に出演した一件だ。安倍首相は20日、なんばグランド花月で吉本新喜劇が舞台に登場。「本物ですか?」と尋ねる出演者に「ほんまに本物です!」と大阪弁で返したり、「『四角い仁鶴がまーるく収め』る、そういう解決策を見いだしたい」などと、大阪に媚びるようなギャグを口にしたのだという。
場内には笑いはほとんど起きず、デイリースポーツが「安倍首相 吉本新喜劇でスベる「ほんまに本物です!」、反応今イチ、飛び入り出演」と見出しを打つほど、サムい空気だったようだが、だからといって、この暴挙を見過ごすわけにはいかない。
安倍首相の出演は、「G20のPR」ということになっていたが、20日は大阪12区の衆院選補欠選挙の投票日前日。実際、出演の直前には、大阪・寝屋川市など3カ所で応援演説を行っていた。安倍首相は明らかに吉本新喜劇を政治利用し、選挙のPRに使ったのだ。
「出演はハプニングでもなんでもない。大阪12区のテコ入れのために少し前、官邸が吉本にもちかけたようです。吉本はこれを受けてかなり入念に準備していた。また、マスコミも数日前から情報をつかみ、取材の体制をとっていました。いわばやらせの選挙PRショーですよ」(大手紙選挙担当記者)
舞台はテレビと違って、放送法や公職選挙法の規制の対象ではないが、吉本新喜劇の場合はもはやテレビに近い公共的な存在である。それを公党の総裁である総理大臣が選挙運動に利用するというのは、倫理的にありえない行為だろう。
それは、この非常識なオファーを受けた吉本興業も同様だ。本来、お笑いというのは庶民が権力や権威を笑い飛ばすためにあるもの。大阪の庶民文化に根付いた吉本新喜劇はその象徴でもあった。ところが、吉本の上層部はその“大阪の魂”ともいえる存在を権力者にいとも簡単に差し出してしまったのだ。
「いまの吉本興業は完全に政権にベッタリですからね。法務省のPRを会社ぐるみで受け、タレントにも政府や安倍政権のPRを積極的に引き受けさせている。 吉本は沖縄と大阪でカジノ利権への参入を狙っており、政権に“貸し”をつくっておきたいという狙いもあるのではないかといわれています」(週刊誌記者)
まったくお笑いの風上にもおけない堕落ぶりだが、しかし、そんな吉本にも骨のある芸人はいる。空気を読み権力に媚びる芸人ばかりが幅を利かすなかで、この間、圧力に屈することなく、「言うべきことは言う」という姿勢をつらぬいてきた、ウーマンラッシュアワーの村本大輔と星田英利(ほっしゃん。)だ。
二人は今回も吉本所属でありながら、安倍首相の吉本新喜劇出演にはっきりと異を唱えていた。
村本「社会に苦しめられ、笑いに救いを求めて来た客はその時、何を思ったか」
まず、ウーマン村本は安倍首相が吉本新喜劇に出演した翌日21日お昼の12時すぎに、以下のようなツイートを投稿している。
〈おれは芸人だから総理大臣をこき下ろしても総理大臣を持ち上げて当たり障りのない時間は作らない。〉 〈金もらうなら金もらう芸をすべきだ。それは圧からの解放だ。いまの社会に苦しめられて笑いに救いを求めて劇場に来てたかもしれないその客はその時、笑いに対して、なにを思ったか。〉
「吉本新喜劇」とは明記こそしていないが、村本が何について書いているかは明らかだろう。
SNSで政権批判をしたりデモに参加するなどしてきた星田英利(ほっしゃん。)も、安倍首相の新喜劇出演に憤りの声を上げている。安倍首相が吉本新喜劇に出演した当日4月20日の18時半すぎから、以下のようなツイートをした。
〈仕事終わってスマホ開いたら、、、 あまりにも気色悪い。反吐が出る。 私は恥ずかしい。〉
〈新幹線から。田舎生まれ田舎育ちなので、夕方に田んぼが景色を映し出す時間がちっちゃい頃から大好きだ。時代が変わっても昔から変わらない景色がある。時代が変わっても変わらない品格や矜持がある。芸能は庶民の味方であるべきこと。芸能は庶民に食べさせてもらうべきこと。〉
村本同様、「吉本新喜劇」とか「安倍首相」とは書いていないが、仕事を終えた星田がスマホを開いて目に入ったものが、「安倍首相が吉本新喜劇にサプライズ出演」だったことは想像に難くない。星田は、さらに安倍首相の新喜劇初出演にこんな皮肉を飛ばしてみせている。
〈吉本新喜劇は初めてでも、日本新悲劇の座長です。〉
そして、松尾貴史の以下のツイートもリツイートしている。
〈新喜劇の舞台は、誰も論理的な反論も質問もして来ない「絶対安全地帯」と踏んでの、華やかな選挙運動でしょうなぁ。観客も芸人の皆さんも、随分と見くびられ馬鹿にされたわかりやすい現象。〉
安倍に選挙PRをやらせる一方で、村本の政治発言を封じようとする吉本興業
村本も星田も決して多くの言葉を語っているわけではないが、この2人の一連のツイートには2人の勇気と知性が詰まっている。何より感じられるのが、この社会のなかでお笑いがどうあるべきかという高い意識と矜持だ。
「芸人だから総理をこき下ろす」「圧からの解放」「いまの社会に苦しめられている者を救う笑い」「芸能は庶民の味方であるべき」
村本も星田も、単に気に入らない人間が吉本新喜劇の舞台に立ったことを気に食わないと憤っているわけではない。
ネトウヨたちから「活動家」などと揶揄される村本と星田だが、彼らはあくまで「芸人」として「お笑い」がどうあるべきかという視点に立って、「安倍首相の吉本新喜劇出演」をありえないと批判し、吉本の醜悪な“太鼓持ちぶり”に対して忸怩たる思いを吐露しているのだ。
そして、庶民の側から権力者や現状への不満や怒りを皮肉や風刺の笑いに変えること、そのことで人々に救いや気づきをもたらすことこそが、お笑いの役割だと強く訴えている。
しかし残念ながら、この勇気ある芸人たちの声は吉本興業の上層部には届かないだろう。届かないどころか、彼らは会社から政権批判などの言論に圧力を加えられているのが現実だ。
実際、村本はレギュラーだった『AbemaPrime』(AbemaTV)の最終出演で、政治発言をするたびに所属の「よしもとクリエイティブ・エージェンシー」から、沖縄の米軍基地問題発言をやめるよう圧力を受けていたことを明かしている。
「なんかこう、ちょっとでも僕が沖縄のことを書くと、いままでだったらスルーされていたことが『すごく許せない』ということで会社とかに電話があって。吉本という会社もちゃんとした会社なんで、やはり1件、2件とかで、社員さんなんかが『沖縄の発言、あれはやめたほうがいんじゃない』とか。毎回ですよね」 「番組終わった後、楽屋に毎回、吉本の社員とか偉い人が待ってて、そのまま取り調べみたいなの受けるでしょ? そうなんですよ。僕、最近、吉本の社員のこと、「公安」って呼んでるんですよ。治安維持法でね、ちょっと僕がつぶやいたらしょっぴかれて」 「この前なんか『ガキの使い』で『アウト!』って言う藤原(寛)さん、(よしもとクリエイティブ・エージェンシーの)社長ですよ。社長が楽屋に座ってるんですよ。アベプラが終わったら、『ちょっと来てください』って言われて、『こないだのTwitterの件やけども、これはどうにかならんか、百田(尚樹)さんや高須(克弥)さんのこと』ということで、楽屋に30〜40分も閉じ込められて、ずっと藤原さんに言われたんですよ。『ホンマにあかんときは「アウト!」って言わへんのや』っていうくらい(笑)」
安倍の選挙期間中の吉本出演を批判せず“楽しいニュース”にするマスコミ
一芸人が安倍応援団批判や基地問題に言及しただけで詰問して止めろと圧力をかける一方で、選挙期間中に政党の総裁を舞台に立たせ、選挙PRに協力する。神経を疑いたくなる姿勢だが、これがいまの吉本興業の姿なのだ。
これから先も吉本は安倍政権に全面協力をし続けるだろう。たとえば、改憲が発議されて、国民投票が実施されたとき、吉本の芸人が大挙して改憲CMに登場する、なんてこともありうるだろう。
しかも、この政権への恭順は吉本だけの問題ではない。今回の件で、吉本のやり口以上に暗澹とさせられたのは、安倍首相の投票日前日の吉本新喜劇出演という問題行動を、新聞、テレビがまったく批判しなかったことだ。いや、それどころか、民放やスポーツ紙はもちろん、NHKまでがこれを“微笑ましいニュース”のように取り上げ、そのPRに全面協力していた。
「安倍官邸への忖度に加えて、民放は吉本興業の株主でもありますから、批判なんてできるわけがない。スポーツ紙も吉本とはべったりですからね。安倍首相の吉本出演はそれを見越しての行動なんでしょう」(前出・週刊誌記者)
報道からエンタテインメントまで、すべての言論と表現が安倍政権に乗っ取られる。そんな日がやってくるのもけっして遠い話ではなさそうだ。ーーリテラ20日転載