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受験シーズン


大学受験、中学受験、国家試験などあらゆる年代の人たちがテストに向かう受験シーズンに突入し、結果に一喜一憂している人もいるだろう。自身も受験の"失敗"をこじらせ不登校になったという全国不登校新聞編集長の石井志昂さんが、元「受験失敗組」の著名人に取材。そこで見えてきた答えとは? *  *  *  1月19日~20日にかけて「大学入学者選抜大学入試センター試験」(以下・センター試験)が行なわれました。成績がふるわなかった受験生たちからはこんな声が、予備校であがっているそうです。 「もう生きていてもしょうがない」 「これからどうすればいいんだ」  実は、2017年度だけでも「入試に関する悩み」が背景となった自殺が20件ありました。そのうち14件は高校生の自殺です。いじめによる自殺が注目されがちですが、受験失敗によるショックもいまだ大きな問題なのです。  また1月中旬から始まるのは大学受験だけではありません。小学生による私立中学校への受験は2月1日がヤマ場。この時期は、小学生から浪人生までが入試シーズンとなっています。 そんな時期だからこそ、伝えたいことがあります。それは受験の失敗によって人生の花が開いた人たちのことです。  女優・東ちづるさんはそのひとりでした。ちいさいころから成績はトップクラスだった東さん。周囲からも期待され、自身でも「将来は教師に」と思っていたそうです。しかし、第一志望の広島大学教育学部には不合格。受験に失敗した日、東さんは母親からこんな一言をつぶやかれたそうです。 「18年間の期待を裏切ったわねぇ」  ゾッとするような言葉ですが、東さんはこの一言で「吹っ切れた」と話してくれました。そこからは周囲の期待に流されるのをやめ、東京にある別の大学に進学。会社に就職し4年目で退社。飛び入り参加したオーディションを機に芸能界入りし、27歳で全国放送デビューをします。  以後、東さんは売れっ子の女優として、50代になった現在も活躍されています。東さんにとっては大学受験の失敗が契機となりました。

もうひとり、受験の失敗で人生の花が開いたのが第146回芥川賞作家の田中慎弥さん。授賞式で「もらっといてやる」と発言し、話題を集めた作家です。  田中さんは、大学受験の失敗を機に、15年近くひきこもりました。「なんとなく働く気になれなかったから」という理由から15年間は定職に就くどころかアルバイトもしていません。しかし、仕事の代わりに読書をはじめ、20歳のころから執筆を開始。33歳で作家としてデビューしました。  田中さんの魅力は、なんといっても、その突き抜けた考え方です。「孤独論」(2017年刊/徳間書店)では、こう書かれています。 <みんなこうしているから、という幻影の声に惑わされ、正体のないものの奴隷になってしまう。この御時世、放っておけば奴隷のような生き方にからめとられてしまう。だからこそ、意識的にそこから逃げなければならない>  田中さんのこうした考え方は、大学受験に失敗しひきこもったからこそだと私は思っています。  私はこうした「受験失敗組」の話を聞くのがとても好きなのですが、それは自分も受験失敗組のひとりだからです。私が受験したのは私立中学校でした。いまでも当時の雰囲気はよく覚えています。  1993年の2月1日。試験会場に着くと、2年間、この日のために塾で勉強してきたことを思い緊張してきました。答案用紙が配られ、「始めてください」という声とともに、問題に眼を通します。  そのとき私は「どれも解けそうだ」と安堵しました。  4教科のテストを終え、解答用紙をもらって帰宅。自己採点を始めると、なんと「解けそうだ」と思った問題のほとんどが間違えていました。しかも回答を見ても、なぜ自分が間違えたのかわかりません。  おそらく想像していた状況と違って、混乱していたのだと思います。しかし、そのことを誰にも相談せず、混乱したまま第二志望校から第六志望校までを受験。すべての受験で落選しました。

 それからは、ほとんど記憶がありません。第二志望校の合否発表の際、自分の受験番号が書かれていないボードを見ていたのは覚えています。ほかの学校は、すべて母親が見に行ってくれ、「落ちてたよ」と教えてくれました。  どの学校にも合格せず、受験が終わったとき「もう人生は終わりだ」と思いました。通っていた塾の講師から「偏差値50以下の人は、この先、人生がないと思っていてください」と言われていたからです。今後の将来に、どうしても希望が持てませんでした。  私の受験失敗への思いは、このあと2年間ほどこじらせて、不登校へとつながっていきます。  この思いが完全に晴れたのは10年後。21歳になったころ、『不登校新聞』に入って数学者・森毅さんの講演を取材した際のことです。講演中、森さんは「受験生のみなさんへ」と切り出して、こんなことを話してくれました。 「もしも試験中、あなたが『正解がわからない』と思うことに出会っても、すぐの正解は求めなくてもいいんです。もしも『一生、正解が解らない』と思うことに出会えたら、それはあなたの財産です」  アドバイスの背景になっているのは、宇宙の成り立ちや、大きさといった「解けそうにない難問」に魅せられた偉大な科学者や数学者たちです。  私は、この言葉を聞いてようやく「受験生の私」から卒業できた気がします。考えてみれば、女優の東ちづるさんも、作家の田中慎弥さんも、受験失敗という問題を抱えたことから、自分の人生をスタートさせました。それは大学に合格することよりも、結果的には価値の高かったことだと思います。私自身も自分の受験失敗がなければ、人生がどれほどつまらないものだったか、と思っています。  もちろん受験生のみなさんが、がんばっていることを否定するつもりはありません。ただし受験にとって価値のあるものは「合格」や「正解」だけではないと思っています。すくなくとも「受験に失敗したら人生が終わり」なんてことはありません。 「もっとやれたはずだ」「なぜできなかったんだ」と悔いている方もいるかと思います。そんなときは、どうか森毅さんの言葉や、東ちづるさん、田中慎弥さんの活躍を思い出してもらえればと願っています。(文/石井志昂ーーアエラ1/24より転載

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