よく言ったで大賞・後
★5位 本田圭佑−−−炎上を恐れず朝鮮学校を訪問!「自分の国しか愛せないのは悲しいこと」と
本田圭佑ランクインの理由はもちろん、W杯閉幕直後の7月19日に神奈川朝鮮中高級学校と、横浜朝鮮初級学校を訪れたことだ。朝鮮学校への差別問題はいまやリベラルなメディアさえ、右派からの攻撃、批判を恐れてほとんど言及しなくなっているが、本田は「訪問」という行動でそのタブーを乗り越えて見せた。しかも、本田がすごいのはその訪問について真正面から語ったことだ。
フリーのスポーツライター・金明昱氏のインタビューで、訪問の真意について問われた本田は「僕が一番伝えたかったのは、両国の間に歴史として様々な事があったとしても、僕らが人である限り、“仲間”になれるんだ!ということを伝えたかったんです(中略)そして朝鮮学校を訪問することで、間接的に日本人にも同じことを伝えられればという想いがありました」と答えた。
加えて、「愛国心」や「政治家の果たすべき役割」について問われた本田選手は「自分の国を家族と思えることが愛国心かなと。ただ問題なのは自分の国しか愛せないこと。それは悲しいことだし違うと思う」「結果から言うと世界を平和にすることではないでしょうか? 国益だけを考える政治家は、今後は必要とされなくなっていく時代になると思います」と指摘した。
これは、自分の国しか愛さない、自分の国の国益だけしか考えない、いまの日本社会と安倍政治に対する本田なりの警告といっていいだろう。
そもそも本サイトは、本田に対して、若者世代の自殺が多いとのニュースについてTwitterで〈他人のせいにするな! 政治のせいにするな!!〉と説教するなど、成功したトップアスリートにありがちな「強者の論理」を無自覚に発信してしまう「自己責任論者」のイメージを抱いていた。しかし、W杯直前にオキュパイ運動の理論的支柱であるデヴィッド・グレーバーによる“反資本主義”の書『負債論』を紹介するなど、最近、社会的弱者やマイノリティに対する意識が変わってきたのか、と感じていたところに、朝鮮学校訪問とインタビューでの発言。本田の思想的深化に素直に賛辞を送りたい
★4位 SKY-HI−−−“音楽に政治を持ち込むな”論に「この国の問題に目を塞いでいてはいけない」と真っ向反論
共謀罪法案をめぐるプロセスを直接的に批判した「キョウボウザイ」など、これまでも積極的に社会的トピックについて言及してきたSKY-HIだが、2018年は、ミュージシャンと政治、社会の関係について、想像以上に深い思索をめぐらしていることを証明した。白眉は雑誌『ユリイカ』(青土社)に掲載されたインタビュー。SKY-HIはケンドリック・ラマーのようなアーティストが大きな力を持つアメリカの状況と比較しながら、日本の状況をこう憂える。
「日本だとそういうムーブメントは起こらないですよね。あゆ(浜崎あゆみ)が流行ったから、ヒョウ柄のギャルが増える、とか、アーティストの本質にかかわらず、表層的に人々の消費欲求を刺激するに留まるものがほとんど。意識とか、生き方に影響を与えることにまで至らないと思われているし、作る側もそう考えているようなフシも感じて」
さらに、「音楽に責任はありません」という宇多田ヒカルの言葉が入ったタワーレコードのポスター問題について訊かれ、こう語った。
「『音楽で世界を変える』って言葉の方が、いまは欺瞞として捉えられがちじゃないですか。謙虚とか謙遜もすごく美しいとは思う。でも、「僕にできることなんて歌うことくらいだから」とか、「音楽をやることにしか能がない」とか、そう発言することが美徳とされていたり、逆に社会に対してコンシャスな人を「意識高い系」と冷笑する状況は、決して理想的な状態ではないと思う。日本にはいいところもめっちゃあるから、それは大事にしたいとは思うものの、この国の問題に目を塞いでいてはいけない。とくにいまって、若い子にとってマイナスとなるような問題が多いですよね。どうして日本がこういうことになってしまったのかを考えるのは、ミュージシャンだけではなくすべての大人の責務なんだけど、とりわけ俺たちミュージシャンは若い世代と触れ合う機会が多いから、その責任が重大になってくる。だから、くだらねえ歌を流しているような場合じゃないんですよ」
また、このインタビューのなかで、SKY−HIは政治的、社会的発言が排除されがちな状況の大元に、日本社会の構造的な問題があることまで言及していた。
「それはGHQの陰謀だ!ってのは冗談なんだけど(笑)、日本の戦後教育のやり方を問い直すことにも繋がるような気がして。制服の問題に代表されるように、同じ格好、同じ行動、規律を乱すな、ということを是とするスタンスは、明治初期ならまだしも、現代でいまだにそれをやっているのかと呆れてしまうし……」
「GHQの陰謀」と歴史修正主義者の用語にツッコミつつ、そうした陰謀論に基づいたよくある右派の戦後民主主義批判とは真逆で、むしろ現在もいまだ残る戦前の価値観の問題を批判してみせたのは、SKY-HIがいかに本質を見抜く目を持っているかの証明だろう。
SKY-HIがいてくれることは日本の音楽界にとって救いだ。オーバーでなく、そう思う。
★3位 りゅうちぇる−−−叩かれてもブレない“多様性の伝道師”! 故郷・沖縄基地問題についても貴重な発言
反動的説教オヤジばかりが重宝されるワイドショーや情報番組にあって、多様性とリベラルなスタンスを崩さず高い評価を集めてきたりゅうちぇる。2018年も感心させられる発言を連発した。自分の私生活にも関わる子どものキラキラネーム問題や家事分担の話題、同性婚の問題で一貫して多様性や個性の重要性を主張。また、2018年は沖縄をめぐる問題に関してもメッセージを発信した。
6月23日の沖縄「慰霊の日」を前に、複数のメディアでインタビューに登場。おばあから聞いた沖縄戦のむごさ、「戦争は人を変えてしまう。皆が皆悪い人じゃないし、皆が皆いい人でもない」という言葉を紹介したうえ、米軍基地問題についても言及した。
「今も米軍基地があるから、戦争を身近に感じます。宜野湾市にあった自宅前には普天間飛行場があり、ヘリコプターや飛行機が爆音を響かせて飛行するのは当たり前の光景でした」 「危険と隣り合わせだと感じたのは、2004年に米軍ヘリが沖縄国際大(同市)に墜落した時です。(略)ヘリが上空で旋回するのを眺めていたら、急に止まって、垂直に落ちたのです。その光景は忘れられません」
さらには、辺野古の新基地建設作業の停止を求めるホワイトハウスへの署名に関する情報共有をツイッターやインスタグラムを通じて行った。
りゅうちぇるが素晴らしいのは、こういった社会的トピックに対する言及を、りゅうちぇるらしい、自分自身の言葉で行えているところだ。しかも、炎上したり、批判されたときに、沈黙したりごまかしたりするのでなく、きちんと正面から反論する。そして、議論の本質を外さない。
たとえば、子どもの名前がキラキラネームだと批判を受けたとき、りゅうちぇるは反差別の思いを込めたという名前の由来を説明したが、それで「ぼくはちゃんと考えました」と弁明するのではなく、名前や外見でいじめることのおかしさのほうを訴えた。
『news zero』同性婚特集に出演した際も、現行の法制度内での代替策を番組が紹介したことに対し、「こういう取り組みを紹介するということは、やさしさだなと思うんですけど。お金がかかっちゃうのかって。やっぱり、愛を証明するためにお金がかかるっていうのは、ふつうじゃあり得ない話」と、本質を指摘した。
伝統を大切にすべきという同性婚への反対意見に、「多様性が大事だからそういう意見もあっていい」としつつも、“「多様性を認めない」というのも一つの意見”“差別も一つの意見”みたいな、頭がいいつもりの冷笑系や中立厨が陥りがちな陥穽にハマることなく、「でもそれ(伝統)にとらわれてしまって、自分の生きていく人生、自分の個性や、自分の色に、自分のなかで制限をかけてしまうというのは、この世界、やっぱり、いまから生きていく世界のなかではとっても悲しいこと」と、伝統と多様性・個性がぶつかる場面では、多様性・個性のほうが尊重されるべきとキッパリ断言した。
文句のつけようがない、りゅうちぇるの誠実で冷静な姿勢。今年もぜひこの調子で自分の思いを伝え続けてほしい。
★2位 村本大輔(ウーマンラッシュアワー)−−−ネトウヨ言論人のデマにも怯まず、知識も芸も更新し続けるリベラルの新しいかたち
前回の大賞受賞者である村本大輔だが、2018年も変わらず素晴らしかった。なかでも、特に評価したいのは、ネトウヨ言論人からの攻撃に、沈黙せず倍返しする姿勢を見せたことだ。
たとえば、百田尚樹氏が、石破茂の「日米両政府が本土の反対運動を懸念し、当時、米国の統治下にあった沖縄に海兵隊の基地を移転させた」という趣旨の発言について「そんな事実はどこにもない」と否定した際は、〈あ、百田さんからのコメントでしたか、すいません。アホのネトウヨのコメントと間違えました〉〈極右ハゲの作り話作家が沖縄の歴史のデマを流していたらしい。探偵ナイトスクープに依頼してちゃんと調べろよ〉と喝破。ぐうの音も出ないくらいに論破された百田氏は名誉毀損をちらつかせて恫喝するしかなかった。
また、ローラが辺野古新基地工事中止を求める署名を呼び掛けたことを問題視し、高須克弥氏が「僕なら(CMから)降ろす」といった発言をしたことに対しても、村本は〈リベラルな発言をした芸能人に『僕ならCMを降ろす』発言は芸能人だけじゃなくリベラルな発言を黙らせ、この国の声を『右だけのように』見せる。言論の自由は権力に対してある、スポンサーは芸能人には権力。言論には言論なのに『おれなら降ろす』は権力が言論の自由を脅迫してるようにみえる〉と言い切った。
ネトウヨファンがバックについている百田氏や高須氏に絡まれたら、普通は無視したり、はぐらかしてなあなあにしてしまうものだが、村本はこのようにひとつひとつ向き合い、戦い続けた。しかも、その切り返しは鮮やかで、相手の本質をえぐる鋭いものばかりだった。これは、村本がお笑い芸人ならではの反射神経の持ち主であることにくわえて、社会問題をより深く勉強し、知識どんどん更新させているからだろう。しかも、村本はただ知識を増やしているだけでなく、どうやったら伝わるかとか、どうエンタテインメントにするか、その方法論も更新させている。
そのことを証明したのが年末に放送された『THE MANZAI』のネタ。性的マイノリティ、沖縄米軍基地、原発、水道民営化、芸能人が政治的発言を行うことへの批判、さらには、朝鮮学校無償化問題といったトピックにまで踏み込んだことがすごかったのはもちろんだが、村本は、途中から相方の中川を置いてひとりでしゃべり続けるという漫才のスタイルじたいを強調することによって、新自由主義的価値観を批判し「平等とは何か」を問いかけた。
ツイッターの切り返しも含めて、反権力の主張をエンタテインメントに昇華させるこうしたスタイルは普通のリベラルメディアや言論人にはできないものだ。
今年の元旦のツイートによると、ウーマンラッシュアワーは政治的発言を始めてから、「THE MANZAI」以外のネタ番組呼ばれなくなっているらしいが、今年は流れが変わって、少しでも多くのメディアに露出することを願ってやまない。
★大賞 ローラ−−−「リスクがあっても人と地球のために」発信し続けた勇気が大きなうねりに
今年の大賞はやっぱりローラしかいないだろう。発言の内容だけでなく、芸能人が政治的発言をすることの重要性を改めて実感させてくれたからだ。
昨年12月18日朝にインスタグラムに投稿した〈We the people Okinawa で検索してみて。美しい沖縄の埋め立てをみんなの声が集まれば止めることができるかもしれないの。名前とアドレスを登録するだけでできちゃうから、ホワイトハウスにこの声を届けよう〉との言葉は、これまでとは桁外れの反応を引き起こした。
520万人のフォロワーを抱えるローラの影響力は絶大で、18日15時ごろには署名はホワイトハウスが対応することになっている10万を突破。同日20時時点で12万8000を超えた。その後も止まることなく増え続け、1月4日現在では17万筆を超え、「We the people」のトップページに掲載されるまでになっている。
もちろん一方で、ネトウヨからは総攻撃を受けた。ローラのもとには「反日」「芸能人風情が口を出すな」という声が大量に寄せられ、百田尚樹は自身の小説の登場人物になぞらえ、ローラのことを「牝ガエル」呼ばわりするというゲスにもほどがある攻撃を加えた。いや、ネトウヨだけじゃない。ホリエモンなどの冷笑系新自由主義者や空気を読んで権力にすりよっているコメンテーターやタレントからも「勉強不足」「操られている」「セレブ気取り」「CMにでているのに無責任」など、批判を受けた。
だが、こんな卑劣な攻撃でローラの活動を止めることはできないだろう。そもそもローラの社会貢献に対する意識は、バラエティ番組でブレイクするよりはるかに前から、もち続けているものだ。デビュー当時から「貧しい子どもの役に立ちたい」という強い意志を抱き、災害時に被災地に炊き出しボランティアに行ったり、日本ではまだ意識の低いプラスチックゴミ問題についても早くから声をあげたりしている。ローラが、社会問題に広くアンテナを張り勉強していることは明らかだ。
今年8月にユニセフのイベント参加し1000万円に寄付したことを報告した際、ローラはこう締めている。
〈何をするために生きているか何をしないといけないか冷静に考えて自分の感情を信じて生きて行こうと思います。リスクがあっても嘘のない、人にとっても地球にとっても幸せが続くことに精一杯力を注いで頑張っていきたいです〉
こんな覚悟を持ったローラが、身過ぎ世過ぎで権力にしっぽを振るコメンテーターや頭の悪いネトウヨの卑劣な言葉に屈するわけがない。実際、今回の辺野古問題について、世論は圧倒的にローラの味方だった。そして、ローラに対する攻撃も含めて、メディアがニュースとして大々的に取り上げたことで、辺野古への土砂投入強行という安倍政権の蛮行が、普段は政治のニュースに興味のない人たちにも届くことになった。
この波及力は、やはりローラという存在があってこそのものである。芸能人が積極的に政治的発言を行っていくことの重要性、そして、芸能人の政治的発言に対して圧力を加えたり、揶揄して貶める動きに抗っていく必要性を改めて再確認させてくれたその功績を讃え、ローラに「芸能人よく言った大賞」を贈りたい。
いかがだったろうか。「芸能人よく言った大賞」。このランキングに名前を連ねた芸能人や文化人たちがいかに真摯に社会問題に向き合い、知識を吸収し、考えを深化させているかがわかってもらえたと思う。
ただ、付け加えておかなければいけないのは、だからといって、「深い考えをもつ芸能人」だけが発言していいというわけではないということだ。社会問題にコミットする芸能人の多くは、「戦争はよくない」「困った人を助けたい」「虐げられる人の声を届けたい」といった素朴な思いから出発している。それに対して、ネトウヨや安倍応援団だけでなくリベラル派も、勉強不足を指摘したり「わかっていない」とか「甘い」と批判するケースがある。
もちろん相互批判は重要だが、社会問題にはさまざまなアプローチがある。辺野古の問題ひとつとっても、沖縄の負担軽減からアプローチする人、対米従属に異を唱える立場からの批判、沖縄の人たちの思いを代弁するアプローチ、環境問題からのアプローチなど、さまざまだ。どのアプローチが正しいかといった主張が交わされることもあるが、それぞれの持てる知識レベルで、いろんな角度から、できるだけ多くの声をあげることが重要だろう。
そのなかには、知識はないけれど、素朴な良心から出てきた疑問や発言、行動があっていい。専門的な知識はなくても、肌感覚で本質を見抜いている人たちの思いは、市民に広く届く。たいして勉強もしていないのに自分が頭がいいということを誇示したいために「現実を知れば、簡単には言えない」などと言っている連中より、はるかに現実を変える力がある。だから、差別や戦争、人権抑圧に反対を叫んでいる芸能人のことは、知識がなくても多少の間違いがあっても、頭ごなしに否定しないで、きちんと応援していきたいと本サイトは考えている。
リテラ1/5より転載
橋ーー順位はさておき、ラストの論に全く賛同です
政治や社会の問題にコミットし、権力の横暴に「NO」の声をあげる芸能人が一人でも多く登場することを願っている。