最悪 アベ三選
15日、この国は73回目の「敗戦」記念日を迎えるが、今こそ「この国は本当に民主主義国なのか」を国民全体で問い直す必要がある。 先の大戦における比類なき犠牲を経て、日本は民主主義国に生まれ変わったはずだ。その苦渋に満ちた歴史の成果を顧みず、ひたすら破壊してきたのが、5年半を越えたアベ政治である。 ところが、メディアは連日、ボクシング連盟のドンの異様なパーソナリティーをあげつらうことに明け暮れ、大新聞はここ数日、自民党総裁選の話題にほぼ触れようとしない。もう消化試合とばかりに紙面すら割こうとしないのだが、このまま下馬評通り、安倍首相が圧勝で3選を果たせば、日本の民主主義はどうなるのか。 「来るべき未来」を雄弁に物語るのが、沖縄の現状である。過去の市長選、市議選、県議選、知事選、国政選挙で再三示されてきた「辺野古移設ノー」の沖縄の民意。日本が本当に民主主義国であるならば、民意の表れである投票結果を尊重し、状況改善につなげるべきだが、ことごとく軽んじ、踏みにじってきたのが、安倍政権だ。
この政権は民意を無視するどころか、新基地建設に異議を唱える弱者の叫びを警察や海上保安庁、自衛隊の権力と暴力で弾圧してきた。多数に任せた横暴は、もはや民主主義国の姿ではない。安倍政権の問答無用の振る舞いは、73年前に断ち切った戦前と同じ強権的ファシズムの悪臭を漂わせる。 この国の民主主義の危機の全てが、いま沖縄で起きているのだ。 ■「普天間基地の危険性」もデッチ上げ 沖縄の基地問題を巡る安倍政権の対応は、とにかく欺瞞に満ちあふれている。辺野古移設について、安倍は「沖縄県民の皆さんに丁寧に説明し、理解を得たい」と繰り返すが、自ら県民に丁寧に説明したことや理解を得ようと努力したことは一度たりともない。 安倍政権は「普天間は世界一危険な基地」との建前で、辺野古移設をガムシャラに進めてきたが、実はこの表現も根拠ナシ。その「真実」がよく分かるのが、月刊誌「世界」(岩波書店)9月号掲載の論文「沖縄が問う民主主義」だ。琉球新報元論説委員長で沖縄国際大大学院教授の前泊博盛氏が、客観的データに基づき、政権の嘘を暴いている。
1972年の本土復帰以降、昨年までの45年間で沖縄で起きた米軍機事故は738件。うち基地別の事故発生件数で圧倒的なのは「嘉手納飛行場」の508件で、「普天間」は17件に過ぎない。ところが、安倍政権が30倍も事故が起きている嘉手納の危険性除去や移設問題に言及したためしはない。 なぜなら、嘉手納はアンタッチャブル。前泊氏は〈問題の解決は、困難な対米交渉という壁の向こうにある。この問題に触れれば、安倍政権は間違いなく崩壊する〉と喝破した。 さらに固定翼の戦闘機は事故後も基地までたどりつくが、回転翼の軍用ヘリはたどりつかず基地外での死傷事故が多発。復帰後45年間のヘリ事故131件のうち、98件が基地外で起きている。 つまり普天間基地の危険性より、県民は沖縄上空のいたるところを自由に飛び回り、頻繁に墜落する米軍ヘリそのものの危険性に怯えているのだ。それなのに、政権側は「普天間の危険性」に問題をすり替え、「危険性除去には、辺野古移設が唯一の方法」と印象操作。北朝鮮危機を煽ったのと同様に危険性をデッチ上げ、いや応なしに莫大な公金を投じて新基地建設を強行してしまう。 つくづく国民を騙すのが平気な政権だ。本当の民主主義国なら、沖縄の民意をくんで「米軍ヘリの住宅地周辺での訓練禁止」や「米軍機の飛行停止」を求めるべきなのに、この国の政治は米軍に意見することはご法度。辺野古新基地は、何から何を守るために必要なのか、そもそも米軍は本当に欲しがっているのか――。安倍政権は誰ひとり、何ひとつ説明責任を果たさないまま、辺野古海域の埋め立てを強引に推し進める。 これが本当に民主主義国と言えるのか。前泊氏の論文は、他にも安倍政権の非民主性を次々と糾弾している。
▼辺野古に海上自衛隊の掃海母艦の派遣を検討し、丸腰の市民に大砲を向けてまで、反対運動への威嚇攻撃を仕掛ける強硬姿勢
▼「オール沖縄」の翁長県政の誕生以来、これ見よがしに沖縄関係政府予算を削減する兵糧攻め
▼「脱基地経済」を掲げる沖縄に対し、公共工事費など一般予算を半減し、防衛予算を急増させ基地依存度を高める政策を躊躇なく断行……。
こうして再三再四、選挙で示した民意が政権側に蹂躙されれば、政治への諦念も生じてくる。それこそ国民を騙す、痛めつけ、ひたすら軍国化と米国隷従に突き進む亡国政権の思うツボ。願ったりかなったりの展開なのである。改めて前泊氏に聞いてみた。 「なぜ辺野古新基地が必要なのかという問いかけに、安倍政権は一切、説明責任を果たさず、ただ決められたことを強行するのみ。新基地の賛否を巡り、守るべき国民とそうでない国民に分け、弱い人たちに全てを押しつける。基地問題について、亡くなった翁長知事は『民主主義の品格が問われている』とよく語っていましたが、棄民政策さながらの安倍政権の政治手法は、もはや『人格』が欠落しているとしか思えません。このような政権を多くの人が、いまだ支持し、総裁3選ムードが強まっていますが、もっと現実に目を向けるべきです」 この政権が沖縄に仕掛けた分断政策を知れば知るほど、多くの国民は「この国は民主主義国だ」と胸を張って言えなくなるはずだ。
この国の民主主義を守る最後の分水嶺 安倍が総裁3選を果たせば、ますます米国隷従の固定化に拍車がかかるのは歴然だから、絶望的な気分になる。 「安倍3選は9条改憲を意味し、それは同時に戦争のできる国づくりを意味します。集団的自衛権の行使容認などで平和憲法をないがしろにしてきた安倍首相にとって、9条改憲は総仕上げ。ついに憲法の縛りを取り払い、国防軍創設で軍拡路線をひた走り、今以上の日米軍事一体化に邁進するのは間違いありません。在日米軍と一緒になってアジア太平洋の橋頭堡となり、トランプ米政権から最先端の武器を大量購入することにもなる。さぞかし米国は安倍圧勝報道にほくそ笑んでいることでしょう」(軍事評論家・前田哲男氏) 総裁3選で亡国首相があと3年ものさばれば、自称「対等な日米関係」に基づく、民意無視の異常な状態は延々と続く。そして沖縄でムキ出しにしてきた分断の牙が、今度は全国民レベルで襲い掛かってきてもおかしくないのだ。
「今や沖縄はこの国の『民主主義のカナリア』です。沖縄が政権に抵抗の声を上げなくなった時、あるいは、上げられなくなった時、この国の民主主義も終わりを告げることになる。残念ながら、その時は刻一刻と近づきつつあるように感じますが、本当に国民はそれを望んでいるのでしょうか。ジャーナリストのむのたけじ氏は、戦前の反省から『始めに終わりがある。抵抗するなら最初に抵抗せよ』という言葉を残しました。全体主義の流れが一度、渦を巻き始めると、気づいた時には誰も抵抗できなくなることへの戒めの言葉です。沖縄以外に住む人々も声を上げ続けなければ、あすは我が身です。安倍3選を許すか否かが、この国の民主主義を守る最後の分水嶺だと思います」(前泊博盛氏=前出) 民意無視の沖縄の現状を決して「対岸の火事だ」などと侮ってはいけない。国民は今こそ安倍3選の本当の恐ろしさを思い知るべきだ。
ーー日刊ゲンダイ8/14日より転載
橋ーーまさしく同感です!