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朝鮮戦争の先。〈日本の防衛外交〉問題


 60年以上も休戦状態にある朝鮮戦争の終結も、米朝会談のテーマだ。トランプは会談前、終戦宣言について「何らかの合意に署名できるかもしれない」と明言している。朝鮮戦争の終結は日本の安全保障を百八十度転換する好機にもなる。 「在日米軍には、朝鮮戦争を戦っている『朝鮮国連軍』として 駐留中との存在理由もある。終結すれば、国連軍は解散され、在日米軍の駐留の意義は薄れます。半ば米軍の治外法権を認めた日米地位協定や、日米安保のあり方などを根底から見直す絶好のチャンス。それこそ、安倍首相が訴える『戦後レジームからの脱却』につながっていきます」(軍事評論家の前田哲男氏) 朝鮮戦争の終戦宣言は、北の非核化の前進が大前提だ。北の脅威が消えれば、役立たずのイージス・アショア2基を2000億円もかけてアメリカから購入する必要もなくなるが、それを許さないのが安倍政権と自民の国防族だ。安倍政権が年末に策定する新防衛計画大綱への提言として、自民党は防衛費の対GDP比1%枠の突破を求め、2%への倍増をにおわせた。過去最大5兆円台の防衛費を、さらに10兆円規模まで膨らませたいようだ。

「集団的自衛権を容認し、トランプ大統領と兵器の大量購入を約束した手前、日本の安保環境を『戦後最大の危機的情勢』と位置づけなければ、安倍政権は存在意義を失う。北の脅威が消えれば、中国の脅威は去っていないと脅威をスリ替えるのは明白です。と同時に朝鮮戦争の終結で在日米軍が縮小すれば、それを口実に自主防衛の必要性を国民に説き、9条改憲まで一気に突き進みかねません」(前田哲男氏=前出)  何でもかんでも政治利用するのが、ご都合主義首相の恐ろしさだ。

米朝会談の実現によって全世界が注目しているのが北朝鮮の「復興ビジネス」だ。  ポンペオ米国務長官は「北朝鮮が早期に非核化措置を取れば、韓国と同じレベルの繁栄を達成できるように協力する」と働きかけてきた。南北の1人当たりのGDP(国内総生産)が同水準になったと仮定した場合、北の復興需要は10年間で約440兆円が見込まれるという。未開の地・北の市場は全世界にとって垂涎の的なのだ。  その利権を狙って、米国は「インフラ」「エネルギー」「農業」の3分野を中心とする経済支援、いわゆる「北朝鮮版マーシャル・プラン」を検討しているという。  とりわけ注目されているのが、約300兆円規模といわれる天然資源だ。北に眠る希少鉱物は中国大陸より豊富とみられている。経済評論家の斎藤満氏がこう言う。

「アメリカが関心を持っている利権は、北朝鮮のウランでしょう。原発を推進したいアメリカ国内の利権グループにとっては宝の山なのです。韓国経済に比べて北は、市場規模が数百分の1ともいわれており、経済発展の余地が極めて大きい。企業にとっては、安価で、よく“訓練”された労働力も投資のメリットでしょう」  鉄道やガス、電力についてはすでに、韓国、ロシア、北の3者間での共同プロジェクトの可能性が持ち上がっている。中国は中国で、平壌や南浦港など北の国内4カ所について、北側から開発を要請されている。世界各国がビッグビジネスを狙って動きだしているのに、ひとり置いてけぼりを食らっているのが日本だ。 「国交正常化ができなければ、ビジネスチャンスもない。『1億年経ってもわれわれの神聖な地に足を踏み入れることはできない』とヤユされている安倍首相に、手だてがあるのか疑問です」(斎藤満氏=前出)  このままでは経済支援という名目で、カネだけむしり取られてしまう。

このまま米朝融和が進んだら、いずれ日本は、北朝鮮への経済支援を迫られるのは間違いない。  すでにトランプは、「もし非核化の合意に達すれば北朝鮮を支援する」「われわれは遠い国だ。しかし、日本は支援をすると思う」「安倍首相は経済支援すると言ってくれた」と、日米会談の時、ハッキリと口にしている。横にいた安倍首相も否定しなかった。  驚くのは、北が核放棄の見返りに要求する経済支援の額だ。米経済誌フォーチュンと英ユーライゾン・キャピタル研究所の共同分析によると、なんとその金額は2兆ドル(約220兆円)と試算されている。実際、鉄道、道路、電力などのインフラを整備するとなったら、10兆円や20兆円じゃ済まないだろう。もちろん、日本が220兆円をすべて負担することはあり得ない。しかし、北朝鮮は、10年、20年かけて日本から巨額のカネを奪おうと考えているに違いない。元外交官の天木直人氏が言う。

「最悪なのは、どんなに支援しても日本だけは見返りがない恐れがあることです。経済支援するにしても、よその国は、自国の企業が儲かるように北朝鮮と話し合って“ひもつき”にするはずです。でも、日本はカネだけ取られる可能性が高い。シタタカな金正恩は、『中国、ロシア、韓国からの経済支援で十分だ』というポーズを取りかねない。実際、3カ国の支援で当面は十分でしょう。そうなると、日本は蚊帳の外にならないように、ますます巨額の経済支援をせざるを得なくなる恐れがあります」  北と国交を結ぶとなれば経済支援とは別に日本は数兆円の戦後補償も迫られる。安倍外交の失敗により、日本はとんでもないツケを払わされることになる。

 歴史的会談の直前、アメリカに押しかけた安倍は、トランプから米朝会談で拉致問題に言及する確約を取ったと胸を張ったが、トランプの頭の中は自分の名声を上げることでいっぱいだ。拉致は二の次、三の次だろう。しかも安倍との共同会見でトランプは、拉致問題について「安倍首相にとって個人的に重要な事柄」と発言。拉致解決を望むのは、あくまで安倍個人との認識で、日本全体の問題として重く受け止めていないのだ。トランプはこの程度の認識なのに、「米朝会談での拉致言及を確約」と強調する安倍は、さながらフェイクニュース製造マシンのようだ。  首相は拉致問題の早期解決のため、北と直接話し合いたいと日朝首脳会談に意欲を示していますが、何を今頃になって当然のことを言い出しているのか。なぜ就任5年間に同じことを言えなかったのか。今さら対話を求めても後の祭りです」と憤るのは、元家族会事務局長の蓮池透氏だ。こう続けた。「弟(拉致被害者の薫氏)は、昨年から『必ず対話局面に転換する』と予測していましたが、安倍政権はその備えを怠り、圧力一辺倒。だから、いざ対話局面を迎えると蚊帳の外に置かれ、拉致問題は常に米韓頼み。トランプ大統領には拉致を材料に取引され、首相は軍用機をはじめ米製品を数十億ドル規模で購入すると約束させられる始末です。仮に日朝会談が実現したところで、北の『拉致問題は解決済み』との主張を覆すには、日本側が拉致被害者の誰がどこに生存しているかの情報をつかんでいなければ無意味です。“外交のアベ”を標榜するなら『当然、そのくらいの情報は持っていますよね』と、最大限の皮肉を込めた言葉を贈ります」

外交の基本が全く通用しない圧力バカ首相の亡国外交。かくして拉致問題だけが永遠に先送りされかねないのだ。

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