森友の鍵・谷という女
橋ーー文中の佐藤は佐藤優氏です。
朝日デジタル4/5より転載
そうですね。今のような政治状況だと、もう諦めムードじゃないですか。佐川(宣寿・前国税庁長官)さんが国会の証人喚問に出たわけですが、「佐川さん、よくぞ言ってくれた! これでもう、全部わかりました。スッキリしました」と思った人、どれくらいいますかね?
鈴木:ほとんどいないでしょうね。
佐藤:でも、安倍首相はそう言っているわけです。「あとは国民が判断する」と。ということは、これから支持率は上がると見ているんでしょうね。
小谷:森友学園の問題は、次はどなたがキーパーソンとして出てくると思いますか?
佐藤:安倍昭恵夫人付きだった、経産官僚の谷査恵子さんだと思います。今はイタリアに赴任していますが、この谷さんが国会に出てくる局面になれば、政権に大激震が走るでしょう。これからは、彼女がいちばんの台風の目になると思います。
谷さんの言動を見ていると、ちょっと不思議なんですよ。報道を見て驚いたのですが、彼女は今、イタリアの日本大使館で一等書記官として働いていて、3月27日に在イタリア大使館が管轄を兼ねているマルタ島で、朝日新聞の記者と会っています。
谷氏の「奇妙な発言」
佐藤:28日の朝日新聞デジタルを見てみましょう。
〈谷氏は2015年秋、取引について財務省に問い合わせ、学園前理事長の籠池泰典被告=詐欺罪などで起訴=にファクスで回答していた。回答には「本件は昭恵夫人にもすでに報告させていただいております」と記されていた。
この表現について、谷氏は「(籠池前理事長が)夫人と直接やりとりされているような方だったのでそのように書いたのであり、意味はない」と説明。問い合わせが昭恵氏の指示によるかについて「いろいろ言われているが、そういうことはない」と述べた。
こうした問い合わせが取引に影響したかについて、谷氏は「なかった」と否定。野党側が谷氏の証人喚問を求めていることに対しては「(国会に)出るかどうかは自分で決められることではない」と語った〉
この谷さんの発言、すごく奇妙なんです。
籠池さんに送ったファックスに「意味はない」と言っている一方で、「昭恵夫人と籠池さんは直接やりとりをしていた」とも言っているんですね。こういうことを言えば、「その時の二人のやりとりについて、きちんと説明するべきだ」という声が当然出てくることは、谷さんもわかっているわけです。
証人喚問についても、「自分で決められることではない」ということは、裏を返せば「組織が決めれば行きます」とも読める。
小谷:確かに。
佐藤:彼女の発言の裏には、「私を佐川さんみたいな吊るしものにするのなら、こちらにも考えがあるからね。きちんと私を守るんでしょうね? 国会に呼ばれたら、話さないといけないことが出てくるかもしれない。夫人と籠池さんが直接連絡を取っていたことも含めて、いろいろ知っているからね」──私は、こういうメッセージがあると読みました。
そもそも、朝日新聞と首相官邸は今、大ゲンカをしているわけです。そうした状況下で「朝日新聞の取材に応じる」こと自体に、政治的な意味がある。昭恵さんに長期間仕えてきた官僚である谷さんに、それがわからないはずがない。この小さい記事を通じて、彼女は首相官邸にメッセージを送っているんです。
小谷:はあ~~。
佐藤:ですから、すごく頭のいい方です。
自分と昭恵夫人、どちらを選ぶか…
小谷:でも、いろいろご存じであっても、一方で谷さんは昭恵さんと寝食を共にしたり、苦労を一緒に味わったりしているわけですから、自分が喋れば昭恵さんが大変なことになるかもしれない、私は墓場まで持っていくわ、という気持ちにはならないんでしょうか。
佐藤:「墓場まで持っていく」というのは、結局、自分だけが墓に行くということになりますからね。
小谷:うわあ。
佐藤:相手は生き残りますが。
私の場合、鈴木宗男疑惑の時は3ヵ月メディアバッシングが続きました。家にも帰れず、ホテルやウィークリーマンションを泊まり歩いて、それから逮捕されて512日間も檻に入ったでしょ。そのあと7年間裁判が続いて執行猶予がつきましたが、4年間不自由な生活をして、役所も辞めることになって、なおかつ訴訟の費用が2000万円以上。税金の控除もないから、4500万円くらいは稼がなければならなくなったんです。
小谷: ええ~~っ。
佐藤: だいたい、そういう目に遭うハメになります。そうなりたいか? ということですよね。自分の人生と、単に一時期仕事で付き合っていた人のことを天秤にかけるなら、どちらを選ぶか。私は目に見えていると思います。
だから谷さんは、このようなメッセージを発することで、自分が追い詰められないようにしている。世の中にはこういう頭のいい人がいるということです。
鈴木: ……いやあ、小谷さんと二人で絶句しちゃいましたね。
小谷: はい……。