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文書改ざん・外国特派員の見方


ショッキングなほどの悪」「日本特殊論がぶり返しそう」--。日本の政治、社会を長年見つめてきた外国人特派員や大学教授は、森友学園を巡る財務省の決裁文書改ざん問題をどう見ているのか。【藤原章生、小林祥晃】ーー毎日新聞3/19より転載

「書き換え」のはずない

英タイムズ紙ロイド・パリーさん=2018年3月14日、藤原章生撮影

 「改ざん」は英語の動詞では「falsify」などと訳される。英タイムズ紙の東京支局長、リチャード・ロイド・パリーさんは「これは単なる書き換え(alter)ではない。改ざん以外の言葉では語れない」と判断し、財務省が調査結果を国会に報告した12日の第一報からこの言葉を使った。

英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙の東京支局長、ロビン・ハーディングさんも「動詞のdoctor(不正に変える)を使った特派員もいたが、それだと、ちょこちょこいじったという感じ。公文書をあれほど大きく変えるのは『改ざん』以外の言葉では語れない」と言う。

 改ざんは犯罪用語ではないし、今回の件も訴追される可能性は不明だが、その言葉から犯罪を連想した人もいる。明治学院大教授でニューズウィーク誌日本語版などに寄稿してきたマイケル・プロンコさんは「官僚の改ざんと聞いて、ショッキングなほど悪い印象を受けた。普段は真面目な人が、実は盗みを働いていたような、裁判で偽証したような重さがある」と言う。

 一方、政治家と新聞・テレビ、またメディア同士でも「『改ざん』か『書き換え』かで闘っているところがいかにも日本的」と話すのは、仏フィガロ紙の東京特派員、レジス・アルノーさんだ。「別の話だけど、パリの同時多発テロで、メディアがテロリストを『カミカゼ』と表現したら、外務省から『カミカゼは使わないで』と電話がかかってきた。そんなに暇なのかと思った」。事の真相より用語、実よりも映りにこだわるのが日本的というのだ。

「日本特殊論」復活の恐れ

英フィナンシャル・タイムズ紙ハーディングさん=2018年3月14日午前11時47分、藤原章生撮影

 事件から受けた印象はいろいろだ。FTのハーディングさんは「投資家や企業の幹部を主な読者と想定しているので、事件を機に、かつての良くない日本観がぶり返す不安を感じた」と言う。「役所の規制も企業の系列も日本には独特のルールがあり、外国のビジネスマンは入り込みにくいと長く思われてきた。日本人同士、政財官が裏でつながっているという一種の陰謀論です。でも、1990年代からのルール改正などでじわじわと環境は良くなり、日本特殊論はなくなりつつあった。それなのに、公文書改ざんを財務省がやったとなると、やっぱりまだ日本と付き合うのは難しい、独特のルールがあると思わざるを得ないと思う」

 プロンコさんも「他の省庁でなく財務省が改ざんしたという衝撃が大きい。効率や管理、規律の高さ、良きロボットのような正確さが日本政府のイメージだったが、その中心とも言える財務省があれほど恥ずかしいことをしたとなると、『あれ、大丈夫?』となる。この先、信用できるのかと」。

明治学院大学のプロンコさん=2017年12月19日午後5時10分、藤原章生撮影

 フィガロ紙のアルノーさんも官僚の信用失墜がじわじわ響いてくるとみる。「僕が確定申告で新宿の税務署に行った時のことだけど、職員の人たちを見て『本当にきちんと手続きをしてくれるのか』と思ってしまった。僕は日本の公務員をずっと尊敬してきた。フランスより礼儀正しく、遅くまで真面目によく働く。僕の下手な日本語をちゃんと聞いてくれる。そういう人たちが、森友問題に絡んで自殺するというのは本当にひどい。悲劇的で理不尽、不条理だ

 自殺者まで出たことについて、それぞれの国で同様の事例がないか聞くと「ちょっと思い浮かばない」と口をそろえた。強いて言えば、2003年、ブレア英政権がイラクの大量破壊兵器の能力を誇張する文書を作成した疑いがもたれた時、その疑いを指摘した国防省顧問が自殺したケースがある。

 「その文書で英国の議会はミスリードされ、ブレア政権は米国が起こしたイラク戦争に参戦した。日本の場合、国会がミスリードされた点は同じだけど、テーマは戦争ではなく、首相の妻に絡んだ政治的体面の問題だから、比較すると小さいと言えば小さいですけど」とタイムズ紙のロイド・パリーさん。

 ただそんな「比較的小さな問題」のために財務官僚がこれほど必死に改ざんに手を染めたとなれば、昨年発覚した南スーダン派遣の自衛隊の日報隠蔽(いんぺい)問題に見られるように、安全保障問題などでより深刻な情報を隠すだけでなく、都合のいいように変える可能性がゼロとは言えないだろう。

「官僚がウソ」の方が衝撃

 そんな官僚の「劣化」についてフィガロ紙のアルノーさんはこう説く。「22年間、日本政治を見てきたけど、安倍政権になって官邸の力が強くなったのが大きい。でもそれだけじゃない。官僚が国会でウソを語るのは、今の日本では個の独立が確立されていないからではないのかな。日本人は法より人間関係や仲間内のモラルで動く。対してフランスではルールが最も強い。仮に不当な圧力があったとしても公務員は『法律にこう書いてあるから』と拒否できる」

 改ざん当時の財務省理財局長、佐川宣寿前国税庁長官ら官僚の自主的な改ざんなのか、政治的な圧力があったのか。調査が待たれるが、前者の方が「日本の信用失墜」は大きいという見方もある。

 「政治家がウソをつくというのは世界共通の『常識』で、誰も驚かないが、官僚が自主的にウソをついたとなると、理解されにくい。日本はやはり奇妙な国だと見られ、ダメージは大きい」とFTのハーディングさん。

タイムズ紙のロイド・パリーさんは英国と日本の官僚の共通性を挙げ、こう語る。「両国とも官僚の給与は、金融・ビジネス界に比べさほど良くはない。ではなぜ人は官僚になるのか。汚職国家では賄賂や権力を得るために官僚になる。でも日英の場合、官僚にはお金より大事な価値、つまり自尊心というものがある。だから両国の官僚は足元のしっかりしたプロ集団になり得た。戦後復興の担い手だった日本の官僚は、世界的に見てもユニークで非常に高い名声を得ていた。でも90年ごろから、目標もたどるべきコースもはっきりしなくなり、誇りと倫理観を失っていったのかなとも思う」

 アルノーさんは「官僚の劣化ではあるけど、日本の国民性の問題だとは思っていない」と言う。滞日歴が長い分、日本はさほど特殊ではないと皆わかっている。問題は日本を知らない海外の人がどう見るかだ。

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