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「夢は世界平和」と語ったはるかは立派


今月10日に封切られた綾瀬はるか主演映画『今夜、ロマンス劇場で』。その初日舞台挨拶に関するレポート記事に疑問の声が相次いでいる。

 それは、「ORICON NEWS」が10日に配信した記事「綾瀬はるか、夢は「世界平和」 壮大過ぎる願いに周囲があ然」。

この初日舞台挨拶では、綾瀬が平昌オリンピックに触れながら「世界平和」について語ったのだが、記事ではその「世界平和」発言をバカにし、まるで彼女の天然キャラ発言であるかのように貶めたのだ。

『今夜、ロマンス劇場で』は、映画監督を目指す青年(坂口健太郎)の憧れである古い白黒映画の銀幕スター(綾瀬)が、ある日突然スクリーンから飛び出し、二人が恋に落ちるファンタジーラブロマンス。

舞台挨拶ではその映画にかけて「実現させたい夢」をテーマにトークがなされた。そこで綾瀬は「オリンピックも開催中ですし」としたうえで「世界平和です」と語り、「みなさんがいつも笑顔で健やかに過ごせる、そんな世の中がいいです」とあいさつした。

 記事ではこの発言について〈通常のイベントでは出演陣が無難に答えることが多いが、やはり綾瀬は綾瀬だった〉とバカにし、「世界平和です」が彼女の不思議キャラから出ているものだとイジるように書いたのだ。

 これだけではない。この後、坂口健太郎は「世界平和の後ですもんね…」と語り、少し悩みながら「やっぱり、この作品の大ヒット」と締めるのだが、それについては〈あ然としたのは共演陣だ。壮大過ぎる願いの後を受けた坂口は「世界平和の後ですもんね…」と閉口〉と書き、まるで「世界平和」と言ったのが空気の読めない発言であるかのようにし、さらに〈「やっぱり、この作品の大ヒット」と“お約束”で無難に回避し、綾瀬は「ごめんなさい…」と苦笑いを浮かべた〉と書いて、坂口のほうがマトモで大人の対応だったかのように結論づけていた。

 ちなみに、「ORICON NEWS」は記事の冒頭でも、〈女優の綾瀬はるかが10日、都内で行われた映画『今夜、ロマンス劇場で』の公開初日舞台あいさつに登壇。映画にかけてかなえたい夢を問われると「世界平和です」ときっぱり。突拍子もない夢に周囲はあ然としていた〉と書き、綾瀬の「世界平和」発言をバカにする流れを強調させている。

 このニュースの書き方には疑問の声が相次ぎ、さらに、「ORICON NEWS」の記事を自身のサイトで配信した毎日新聞社にも抗議の声が殺到している。それはそうだ。「世界平和」を主張することは、「あ然」とすることでもないし、ましてや「閉口」するものではないからだ。

長きにわたり戦争に関するドキュメンタリーに出演し続ける綾瀬はるか

 ジャーナリストの岩上安身氏は〈綾瀬はるかさんが、五輪開催のこのタイミングで世界平和を望むと発言して、「周囲があ然」とか、平気でタイトルつけられるメディアにあ然。どこが壮大なんだ。当たり前の願いだろうが〉とツイート。小説家の松井計氏も〈え?どうして? 『その通りだ』とみんなが首肯するならまだしも、なにゆえ唖然?。壮大すぎるというが、海外の俳優、ミュージシャンは普通にこういう発言をするぞ。日本の俳優だけ、せせこましくしてなきゃいけないのかね? そういうのをこそ、自虐と言うんだぜ。たまらんね〉とつぶやいてこのニュースの報じられ方に疑問を呈し、落語家の立川談四楼‏氏も〈綾瀬はるかが映画公開の舞台挨拶で、願いはと問われ「世界平和です」と答えたが、彼女に天然とのレッテル貼りはズレている。その前に「オリンピックも開催中ですし」と言い「皆さんがいつも笑顔で健やかに過ごせる世の中がいいです」とも付け加えている。彼女が広島出身というのを忘れちゃいけないぜ〉とつぶやいた。

 ちなみに、同じ舞台挨拶を扱ったウェブサイト版デイリースポーツの記事では「綾瀬はるか 夢は「世界平和」 賛辞の大歓声」と肯定的なタイトルがつけられたうえで、〈綾瀬は映画の内容にちなみ、司会者から「現在、実現させたい夢は?」と質問されると、ためらうことなく「(平昌)オリンピックも開催中ですし、『世界平和』ですね。みんながいつも笑顔で過ごせる世の中がいいです」と答え、客席から「オオ~!」と賛辞の大歓声が湧いた〉と書かれており、「ORICON NEWS」の記事が強調しているような、「世界平和」発言で場の空気が乱れ、他の出演陣が当惑したといった感じは読みとれない。

 書き方から見る限り、「ORICON NEWS」の記事を書いた記者が、「世界平和」発言に綾瀬はるかの「天然キャラ」を見出しにしたかったというのは明らかだろう。しかし、彼女が「世界平和」を語ることは〈やはり綾瀬は綾瀬だった〉などとバカにされるようなものではない。

よく知られている話だが、綾瀬は広島県広島市出身の女優として、戦争を見つめ直すドキュメンタリーに出演し続けてきた。

 始まりは2005年。『TBSテレビ放送50周年〜戦後60年特別企画〜「ヒロシマ」』(TBS)に出演した彼女は実家に帰省し、そこで祖母から大伯母(祖母の姉)についてインタビューしている。

綾瀬はるかの大伯母は原爆の被害を受け若くして亡くなっている

 彼女の大伯母は原爆投下の日、空襲で火事が広がらないようにあらかじめ建物を壊しておく「建物疎開」の当番で広島市内におり、そこで亡くなっている。当時31歳。夫は中国に出征中で、二人の子どもを女手一つで育てていた。結局彼女は遺体も見つからなかったが、当時のことを思いだして祖母は「身体は自由が効かんでしょ。焼けとるんやからね。主人にも会いたいじゃろうし、両親もじゃし、子どももじゃし。心中察したらね、なんとも言えんよね」と語った。そして、綾瀬に対し涙ながらにこのような言葉をかけ、綾瀬もまた涙を拭いながらその言葉を聞くのであった。

「私も長く生きとらんから。あんた、忘れんようにね。戦争なんか起こさんように、女性がしっかりせなダメなんよ、女性の力で戦争を起こさんいうことをせなダメよ」

 それ以降も綾瀬は定期的に戦争を題材にしたドキュメンタリー番組に出演。2010年から『NEWS23』(TBS)内で始まったコーナー「綾瀬はるか「戦争」を聞く」では、実際に戦争を体験した人々に話を聞きに行き、その証言を残そうという活動を行っている。その番組内でのインタビューは『綾瀬はるか「戦争」を聞く』『綾瀬はるか「戦争」を聞くⅡ』(ともに岩波ジュニア新書)として書籍にもまとめられている。

 このような戦争体験者の証言を聞くドキュメンタリー番組に出演する芸能人は少なくないが、綾瀬の場合は戦争の被害にあった市井の人々のみならず、日本の「加害責任」にも踏み込んだ番組に出演している点が特殊だ。

 それは、昨年8月に放送された『NEWS23 綾瀬はるか「戦争」を聞く 地図から消された秘密の島』(TBS)。この番組では、戦時中、毒ガスの製造所があった島・広島県大久野島で、毒ガスの製造にたずさわったという男性・藤本安馬さんの証言を紹介している。

 うさぎの放し飼いが有名で、現在は「うさぎ島」とも呼ばれる観光地として国内はもとより海外からも多くの人々が訪れる大久野島だが、戦時中は「死の露」と呼ばれるびらん性の猛毒・ルイサイトを製造していた。しかも、その製造過程は杜撰なもので、製造中に毒ガスを吸ったり、猛毒を製造していることを知らずに動員された女学生が漏れ出した原料に触れるなどしたという。結果、この島で毒ガス製造にかかわり亡くなった人の数は3700人以上にものぼる。

綾瀬はるかの言う「世界平和」は「壮大過ぎる願い」などではない!

 毒ガスの使用は国際条約で禁止されていたため、島の存在は地図からも消された。海沿いを走る列車も大久野島が見える側の窓は外を見ることができないように細工がなされ、もしも乗客が強引に外を覗こうとすれば憲兵によって逮捕された。藤本さんも島でのことを口外しないという誓約書を書かされたという。

 番組放送当時91歳だった藤本さんは、15歳のときに「お金をもらいながら勉強ができる」と聞き、「東京第二陸軍造兵廠忠海製造所」に入所。先に述べた通り、そこで毒ガス製作に関わるわけだが、その当時の意識を藤本さんはこう語る。

「中国侵略戦争に勝利するために毒ガスを造るわけですから、たいへん名誉なことである、英雄である、という気持ちで毒ガスを造りました」

 藤本さんは毒ガス製造にたずさわったことによって健康被害を受けた。慢性気管支炎と胃がんに犯され、胃を切除している。藤本さんも戦争の被害者なわけだが、しかし、そんな藤本さんが口にするのは、「加害者」としての責任であった。

 彼は現在でも毒ガスをつくる方程式を暗記しているが、もはや不要となったその知識をいまでも覚えているのには理由がある。藤本さんはテレビカメラと番組ナビゲーターである綾瀬はるかの前でこのように語る。

「この方程式は絶対に忘れてはならない。忘れることができない。それはなぜ──本来、勉強というのは、人間が生きるために勉強する。私は、生きるために勉強したのではなくて、中国人を殺すために毒ガスをつくった。いわゆる、犯罪者」 「方程式を忘れるというのは、犯罪の根拠を忘れる、犯罪の根拠をないことにするということになるわけですから、絶対忘れてはならない」

このような仕事をしてきた綾瀬が「実現させたい夢」として「世界平和」をあげることは、決してバカにされるようなことではない。

 もしもそれを「壮大過ぎる願い」であったり、「あ然」とするような答えであると認識しているとしたら、その記者や読者の感覚こそがズレていると言わざるを得ない。  リテラ2/16より転載ーー全く同感。橋

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