第二の「加計」問題
経産省所管法人からの助成金4億円超を詐取した容疑で、ペジーコンピューティング社長の齊藤元章氏が逮捕された事件。本サイトでも報じてきたとおり、このスパコンベンチャー社長は、官邸御用ジャーナリスト・山口敬之氏と昵懇の仲。すでに山口氏が生活の拠点にしていた永田町ザ・キャピトルホテル東急内の高級事務所を齊藤社長が提供していたことや、二人が一緒に設立した財団法人の所在地が実は山口氏の実家であったことなどが報じられている。
この間、両者の蜜月関係をめぐってはずっと、齊藤社長の会社への助成金に、山口氏と官邸による何らかの関与があったのではという疑惑がささやかれてきたが、最近、経産省とは別に、文科省関連法人からも約52億円という莫大な金を受け取っていたことが明らかになった。
これは、文科省の文部科学省所管の国立研究開発法人「科学技術振興機構」(JST)が、齊藤社長が創設したペジー社の兄弟会社「ExaScaler」(以下、エクサ社)が実施するスパコン開発事業に融資したものだ。これについて、今月12日の記者会見で質問された林芳正文科相は、「ペジー社の関連企業のExaScaler社への支援は、スーパーコンピューター『暁光』の開発に対して、開発委託という形で総額60億円を限度として融資」し、「JSTからExaScaler社へはその内訳約52億円が支出された」と認めた。
52億とは目も眩むような莫大な額だが、実際、JSTがホームページで公開している資料を見ると、エクサ社は2016年10月に「緊急募集」された「産学共同実用化開発事業(NexTEP)未来創造ベンチャータイプ」に応募、翌年1月に「新規課題」として決定されている。NexTEPは〈開発リスクを国(JST)が負担し、企業単独では困難な開発を後押し〉するもので、利子はなく、もし開発が失敗しても融資額の10%の返済でOKという事業者にとって喉から手が出るほど欲しいであろう代物。言うまでもなく、その原資は国民の血税を元にした公的資金である。
だが、この文科省外郭団体による齊藤社長の会社への巨大融資には、あの加計学園問題を彷彿とさせるような、極めて不可解な事実があった。前述したとおり、この助成制度は「緊急募集」という名目で行われた。公募要項は100ページを超え、応募に必要な書類等も細かい書式の指定などがあり煩雑だが、その募集期間は2016年10月12日から同月の25日。つまり、発表から締切までたったの2週間しかなかったのである。
そんな異様な短期間にもかかわらず、齊藤社長のエクサ社は、まるで事前に「緊急募集」を知っていたかのように応募を済ませ、結果、52億円という巨額融資を手に入れることができた。これはいったい、どういうことなのか。
第二の加計問題!52億円もの公的資金投入をわずか2週間の緊急募集で決定
実際、NexTEPの2016年度緊急募集に応募できたのは、エクサ社の他は長崎県のエネルギー系開発会社のみ。両者とも新規採択されたが、長崎県の会社の融資上限はたったの2億円だった。何度でも言うが、対する齊藤社長の会社は52億円。ひょっとして、この極めて合理性にかける短期間の緊急募集は“エクサ社ありき”だったのではないか。そういう疑念が頭をもたげてくるのが自然だろう。
思えば、加計学園問題では、今年1月4日、国が今治市と広島県の国家戦略特区で獣医師養成学部の新設を認める特例措置を告示し、公募を開始。募集期間はたったの1週間で、応募したのは加計学園だけだった。さらに、特区による獣医学部新設については、加計学園の岡山理科大学の他に京都産業大学も提案していたにもかかわらず、“京産大外し”としか思えない数々の事実が明らかになった。
たとえば、政府がつけた「2018年4月設置」という条件だ。内閣府は昨年11月から今年1月にかけて「広域的に獣医学部のない地域に限る」「2018年度開学」「一校に限る」という条件を加えた。京産大は会見で応募を断念した理由について「『平成30年4月開設』との条件を今年1月4日に告示され、準備期間が足りないと判断したため」「タイトなスケジュールで、本学にとっては予期していない期日で難しかった」と説明している。ようするに、2018年4月の開学は、京産大にとっては絶対に不可能なスケジュールだったのだ。
ところが、加計学園は行政と連携して、京産大がこの条件を知るはるか以前から「平成30年4月設置」を念頭に置いていたとしか思えないのだ。毎日新聞が入手した資料によれば、2016年4月1日の今治市議会の非公式会合で、市の担当課長が「最速18年の4月開学というものを想定している。ただあくまでも内閣府主導という想定で(スケジュールを)作らせていただいている」と説明していたという(6月9日付)。
また、本サイトでもジャーナリストの横田一氏が指摘していたが、2016年8月3日には内閣府から今治市職員に対し、〈各者でスケジュールの共有を図り、当事務局からも、そのスケジュールに合わせ、進捗を確認できる体制をつくるべく(中略)今治市のスケジュール表を作成願います〉と書かれたメールが送られていた。さらに翌4日に今治市が作成したスケジュール表には「H30.4月開学予定」「(2016年12月に私有地の)無償譲渡案」と書き込まれていた。これらは行政が加計学園を想定して「平成30年4月設置」を設定したと考えるしかない証拠だ。
ひるがえって今回、齊藤社長のエクサ社が、極めてタイトな「緊急募集」に応募することができ、結果的に国から52億円の融資を獲得したのも、加計学園をめぐる問題のような“エクサありき”の動きがあったのではないか。繰り返すが、齊藤社長と昵懇の山口氏は官邸に深く食い込むジャーナリストで、安倍首相の“お友だち”。そもそも、こんな巨額の公的資金投入を、たった2週間の募集期間で決めてしまえるのは極めて不自然だろう。事実、JSTはエクサ社が募集した「緊急募集」を締め切った後、通常募集の枠に切り替えて同じ公募を継続している。なぜ、そんな不可解なことをしたのか。疑問は次から次に湧いてくる。
齊藤社長が山口敬之を「官邸に近い人物」と紹介、山口は『総理』を印籠のように…
実は、この疑惑に関しては、今週発売の「週刊新潮」(新潮社)12月28日号も「「安倍・麻生」ベッタリ記者の「欠陥スパコン」に公金100億円!!」という特集記事で追及した。タイトルの「公金100億円!!」とは、前掲の文科省管轄法人JSTからエクサ社への52億円融資と、これまでペジー社が経産省系の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から受給してきた助成金の合計のことである。
「週刊新潮」によれば、JSTはエクサ社への融資の経緯について、2016年度第二次補正予算で国から120億円が割り当てられたことで「緊急募集」したと説明。また、直撃されたJST理事長の濱口道成氏は「(補正予算が)出たらほら、(募集を)やらなイカンでしょ」「中途半端にほったらかしにしておくほうがイカンのよね」などと答えている。あからさまに“国から予算がきたから使ってみました(私のお金じゃないし)”というような、政府系ファンドなどにありがちな杜撰な実態が透けて見える。
はたして、齊藤社長にわたったこの文科省系の巨額助成金に、山口氏や官邸は何らかの関与をしていたのか。その本丸についてはまだ明らかになっていない。しかし興味深いのは、新潮の同じ記事のなかで、山口氏が齊藤社長のカネ集めに同行し、官邸との近さを“印籠”のように使っていたとのコメントが掲載されていることだ。永田町関係が「齊藤社長は山口さんと基本的には一緒に行動していました」としたうえで、このように打ち明けている。
「齊藤社長が一所懸命にスパコンの性能を訴えて、山口さんは関心がなさそうな態度で。齊藤社長よりも偉そうな感じで黙って、よく言えば重鎮のような振る舞いをしているように見えたそうですね。ひとしきり話が進んだところで、齊藤社長が、“こちらの方は、総理、官邸と近い人物です。信頼していただいて大丈夫です”と言うと、山口さんが例の……ヨイショ本の『総理』を差し出してくる」
念のため言っておくが、『総理』とは、山口氏が2016年参院選直前に幻冬舎から出版した政権PR本。その表紙には、執務室で電話をする安倍首相の写真が大きく使われている。まさしく「この紋所が目に入らぬか!」と言わんばかりだが、これでは加計問題どころか、安倍夫妻の名前を使って交渉していた森友問題まで思い起こさせるではないか。
スパコンベンチャー・齊藤社長の補助金詐取事件は、官邸御用ジャーナリストの山口氏が、安倍首相の存在を見せびらかすことでカネを集めていたことが濃厚になり、公的資金をめぐる行政との癒着の可能性も高まった。メディアは徹底追及するべきだ。 りてら12/25より転載