サイコ⑮ーより深い心理学❸
「自己超越欲求」
マズローは「自己実現欲求」より高次の次元に
「自己超越欲求」というものを置きました。それを説明しますね。
マズローは晩年、5段階の欲求階層の上に、さらにもう一つの段階があると発表しました。それは「自己超越」という段階。
「目的の遂行・達成『だけ』を純粋に求める」という領域で、見返りも求めずエゴもなく、自我を忘れてただ目的のみに没頭するという領域のようです。
出典tami-jpn.com
人間心理学の祖、アブラハム・マズロー。晩年はトランスパーソナル心理学を創設し、自己超越の研究を行った。
マズローは自己超越欲求に関して、以下のような特徴を列挙しています。
「自己の超越、真、善、美の融合、他人への献身、叡智、正直、自然、利己的個人的動機の超克、『高次』の願望のため、『低次』の願望を断念する、増大する友情と親切、目標(安静、静謐、平和)と手段(金銭、権力、地位)とのやすやすたる区別、敵意、残忍、破壊性の減少」
出典A.H.マズロー「完全なる人間-魂の目指すもの」
つまりは、自己超越は、利己的に金銭や地位を追い求めることをせず、他者への献身や平和などを目標にして行動することで追求されるということでしょう。
自己超越を極めると、以下のような、悟りや神秘体験にも似た人生で最も幸福な瞬間を体験するそうです(至高体験)。
<内的、外的な統一性> 身体と心の日常的な分割や分裂を克服し、完全なる内的統一性や全体性に到達したという感覚を抱く。また、主観と客観を分ける通常の区別を超越し、人間性・自然・宇宙・神との忘我的合一状態を体験する。これには、至福・静穏・平和といった強烈な感情を伴う。 <強い肯定的感情> 自分自身に対するだけではなく、全存在に対する肯定的感情を持つ。 <時間と空間の超越> わずか数秒のうちに永遠性と無限性が体験される。自我が完全に喪失し、アイデンティティが無限に広がるような感覚を持つ。
ヴィクトール・フランクル
「夜と霧」で知られ、ロゴセラピーなどの心理療法を開発した精神科医、。マズローと共に、トランスパーソナル心理学を創始した。
他者への奉仕・献身などを通じて「自分自身を超えた存在」つまり神的存在を志向する欲求が自己超越欲求であり、フランクルは、これが人間にはもともと内在している欲求であるとしています。
自己超越という言葉で私が理解しているのは、人間存在はつねに自分自身を超えて、もはや自分自身ではない何かへ、つまり、ある事またはある者へ、人間が充たすべき意味あるいは出会うべき他の人間存在へ、差し向けられているという事態である。
出典V.E.フランクル 「人間とは何か 実存的精神療法」
神が我々によって無意識のうちにつねにすでに志向されている。
出典V.E.フランクル 「識られざる神」
自己実現は自己超越の「結果」にすぎない?!
人間存在の本質は、自己実現ではなく、自己超越性にあります。自己実現は、もしそれが目的そのものになると達成されえず、ただ自己超越の副次的結果としてのみ達成されるものなのです。
出典V.E.フランクル 「意味による癒し ロゴセラピー入門」
そして、そのように自己自身を超越する程度に応じてのみ、人間は自分自身を実現するのである。すなわち、人間はある事柄への従事またはある他の人格への愛によってのみ自己自身を実現するのである。言い換えれば、人間は、本来、ある事柄にまったく専心し、他の人格にまったく献身する場合にのみ全き人間なのである。
出典V.E.フランクル 「人間とは何か 実存的精神療法」
つまり、自己実現とは、「利他」「愛」「献身」「奉仕」というような自己超越を目的とした行動の「結果」にすぎないのかもしれません。
自己超越欲求のまとめ
以下の引用が「自己超越欲求」を端的にまとめているかもしれません。
「他者への奉仕のために自らを忘れること・神の認識を高めること・地球全体のためになる生き方にむけて自分の意識を高めることなどを通して、物質的生活に固執し、腐敗してしまいがちな自らの内在性を超えようとする働き」