トランプ訪日・批判
アメリカのトランプ大統領が来日。到着するや否や、ヘリで埼玉県川越市にある霞ケ関カンツリー倶楽部に直行。プロゴルファーの松山英樹選手を同伴させてのゴルフに興じるといい、明日は天皇皇后や拉致被害者家族の横田早紀江さんらとの面談、ピコ太郎を迎えた晩餐会などが開かれる予定だ。
選挙戦であれだけ北朝鮮危機を煽っていたくせに、ゴルフにタレント頼みの宴会という接待外交……。「国難」という言葉からはあまりにかけ離れた、ただのバカンスにしか見えない。
しかし、テレビの報道にはそうした当然のツッコミは皆無。先に来日した長女のイヴァンカ氏を含め、諸手を挙げての大歓迎ムードでトランプ来日を報じている。これぞまさに「平和ボケ」と呼ぶべきだ。
事実、世界の反応はまったく違う。たとえば、トランプが今年2月に大統領就任後はじめて訪問を決めたイギリスでは、下院ではトランプの人種差別は許されないと批判が巻き起こり、「貿易協定ほしさにトランプ氏のような人物を厚遇するのは英国の恥だ」という反対意見が出た。トランプ招待の反対署名は約185万件も集まり、議会の前では市民約7000人が集結し、「女王に会わせるな」とデモも繰り広げられた。
また、7月にドイツ・ハンブルグでおこなわれたG20サミットでは、サミット開催への反対だけではなくトランプ大統領への抗議も起こり、約1万人のデモ隊と武装警察が衝突。5月にベルギー・ブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した際も「トランプは出て行け」「差別を許さない」と抗議する反トランプデモがおこなわれ、同じく約1万人が参加した。
あらためて指摘するまでもなく、トランプ大統領の差別的言動には枚挙に暇がない。とくに象徴的だったのが、今年8月にバージニア州で白人至上主義者グループとそれに抗議する人々が衝突、30人以上の死傷者が出た事件についてのトランプ大統領の発言だ。
トランプ批判がまったく見られない日本のマスコミ報道
トランプは会見で白人至上主義グループを明確に批判せず、世論は大反発。しかし、その後の会見でも「両者に非がある」と発言し、さらには「オルト・レフト」なる造語まで用い、“極左思想主義者たちが白人至上主義者たちに突撃した”などと主張。差別主義者と差別を許さない人々を同列に置いたこの発言には、アメリカ国内のみならず世界から非難の声があがった。
たとえば、イギリスのメイ首相は「ファシズムの考えを表明する者とそれに反対する者とを同列には置けない」と明確にトランプを否定。同じくイギリスのガーディアン紙は「多人種社会で選挙によって選ばれた指導者として、受け入れられる行動と受け入れられない行動を分ける線を意図的かつ衝撃的に越えた」、フランスのル・モンド紙も「反人種差別運動と極右を同列視することで、前例のない侵害を行った」と社説でトランプ大統領の発言を批判した。
トランプ大統領への危険性を指摘する声は、差別的言辞だけではなく、対北朝鮮政策でも同様だ。国連総会の演説で「北朝鮮を完全に破壊する」とトランプ大統領は述べたが、これにはドイツのメルケル首相が「こうした警告には賛同できない」「いかなる軍事行動も完全に不適切であると考えており、ドイツは外交的な解決を主張する」と批判。フランスのマクロン首相は「対話の道を閉ざすことはしない」として外交的解決を強調した。
こうしたトランプ大統領に対する世界の首脳やメディア、市民の反応はいたって当然のものだ。しかし、かたやこの国はどうだろうか。トランプ大統領の差別を容認する発言を問題視することもなく、トランプ大統領のゴルフの腕前だの、鉄板焼きの和牛ステーキを食べるらしいだの、取り上げるのは「おもてなし」の話題ばかり。トランプ大統領の北朝鮮に対する強硬姿勢こそが緊張を高めている最大の要因であって、アメリカ国内では上院議員が先制攻撃を阻止する法案を提示するなどの動きが出ているが、今回の来日で安倍首相はトランプの先制攻撃をとどまらせるべきという当たり前の主張はほとんど見られない。
いや、トランプ批判など、国内メディアにはできないのだろう。それはイコール、安倍首相への批判となるからだ。
安倍とトランプ、そっくりな分断の手法とネトウヨ的センス
そもそも、安倍首相はトランプ大統領の尻馬に乗り北朝鮮危機を煽ることで解散を正当化。挙げ句、今回の来日日程やトランプ大統領の横田早紀江さんとの面談を選挙中に発表するという姑息な手段を繰り出した。だが、テレビの報道で、選挙中のこうしたやり方を批判する意見があがることはなかった。
また、安倍首相は都議選の街頭演説で、自分を批判する市民を「こんな人たちに負けるわけにいかない」と指差したが、こうして市民を分断し、敵意を煽るのはトランプ大統領の常套手段でもある。さらに、安倍首相は森友・加計問題でも、疑惑を追及する質問には答えず「加戸発言が取り上げられていない」などとメディア批判を展開。一方、差別投稿にまみれた「保守速報」の記事をFacebookでシェアするなどという言動もトランプ大統領にそっくりだ。
大前提として、この差別主義者のトランプ大統領と馬が合うということ自体が、世界的にみれば「どうかしている」と非難されるような問題であるにもかかわらず、そのふたりの「友情」を美談にしてしまうメディア。テレビのトランプ来日の熱狂ぶりは、この腐りきったメディア状況を浮かび上がらせているだけにすぎないのだ。