サイコロジー❼期⑮―我ん張らない⑦
新しい心の病ーー非定型うつ病
新しい心の病「非定型うつ病」って何?
新しい心の病気は圧倒的に女性に起こることが多いと言われています。それも20代後半から30代に多く発症する傾向が。ここでは、近年増加する「非定型うつ病」についてまず解説します。
楽しいことがあると一転して明るくなる傾向がある
ひとくちに「うつ病」といっても、さまざまなタイプがあります。 「非定型うつ病はその中のひとつで、これまで日本では、『神経症性うつ病』と呼ばれてきたタイプ。『お天気屋うつ病』とも言われ、どんより沈み込んだ状態が続くものの、よいことや楽しい出来事があると、それまでの不調がウソのように、たちまち元気になります。しかし、長続きはせず、また憂うつな気分に戻っていく、これが大きな特徴です。さらには、上記のように、過食に走って体重が増えたり、いくらでも眠れるなど、私たちが知る従来の『うつ病』とは正反対の特徴を示すため、見逃されやすく、症状を長引かせる傾向があります」 非定型うつ病は圧倒的に女性に多く見られ、10~30代女性のうつ病の多くが、このタイプではないかと言われているそう。 「原因をたどると、不安定になりがちな体質を親から受け継いでいたり、育った環境が影響していると推測され、10代後半の多感な時期をうまく過ごすことができずに芽吹き、時間をかけて進んで、20代半ばになって症状が現れると考えられています
他人の一言が気になるタイプがなりやすい
非定型うつ病になりやすい人は、他人からよく見てもらいたいという意識が強く、自分に対する評価が気になるタイプだとか。
「非定型うつ病の人は、みっともない姿をさらしたくない気持ちが強いため、人前に立つとかえって緊張して手や声が震える対人恐怖の傾向が。また、周囲に気づかい過ぎ、自分の気持ちを抑え込んでも他人に合わせようとする特徴もあります。これは、子どものころからのもので、親のいうことをよく聞く“いい子”と言われて育った人が多い ☆ 非定型うつになる人にみられる特徴
●いわゆる「よい子」 「手のかからない子だった
●責任感が強い
●自己主張、要求ができない
●甘えられない、甘えない
●他人に助けを求めない
●弱みを見せない
●プライドが高い
●やさしい
「うつ病」と「非定型うつ病」の違い
従来のうつ病と非定型のうつ病は、気分の落ち込みという点では一致します。しかし、非定型うつ病では、過食や過眠といった、通常のうつ病と正反対の症状を見せます。
食欲、睡眠、落ち込む時間帯などに違いが
従来のうつ病は、「定型うつ病」または「メランコリー型うつ病」ともいい、数週間から月単位で気分が落ち込んだまま、食欲もなく不眠状態が続きます。 「これに対し、『非定型うつ病』は気分の変動が激しく、同じように落ち込みはあるものの、うれしいことや楽しいことが身の回りで起こると、一転して気分がよくなり、快活になります」 さらに、定型と非定型では、落ち込む時間帯にも違いがあるとか。 「定型うつ病では、朝方がつらいものですが、非定型うつ病では、夕方からが要注意。食欲は落ちるどころか増し、好んで甘いものを食べるために太ることも。眠い状態が続く、ささいなことに『けなされた』と過剰に反応する、なども従来のうつ病とは大きく異なる点です。また、パニック発作を起こす人も目立ちます」
病気になったときの治療法と対策
自分は非定型うつ病かも、と思っても心配はご無用!ちゃんとした診療を行えば治らない病気ではありません。悩む前に、非定型うつ病の治療法と日常的な対策を確認して。
心療内科か精神科で投薬やカウンセリングの治療を受ける
非定型うつ病かもと感じたら、まずどうすればよいのでしょう。 「気持ちが落ち込むとともに、これまで関心を寄せていたものに興味が持てず、気力や集中力の低下、疲労感、睡眠障害などが2週間以上続いているなら、まずは『うつ病』を疑い、心療内科か精神科を受診しましょう。そして、このほかに過食や過眠など特有の症状が見られる場合、非定型うつ病と診断されます」(貝谷先生) 非定型うつ病の治療の中心になるのは、投薬とカウンセリング。 「薬は、定型うつ病と同様にSSRIなどの抗うつ薬、安定剤、抗不安薬などが症状に合わせて処方されます。ただ残念なことに、定型うつ病では高い効力を発揮するこれらの薬が、非定型うつ病では、あまりよい結果が得られていません。そこで、並行してカウンセリングが試されます」(貝谷先生)
トレーニングによって70%の人が改善するという報告も
カウンセリングのひとつが、認知行動療法と呼ばれるもの。 「非定型うつ病にかかる人は、やさしく穏やかで、自分の気持ちに反しても他者を尊重する傾向があります。それがほころんだときに苦しくなるので、自己主張するトレーニングを行い、自我の確立を目指そうというものです。方法としては、日常生活の中で落ち込んだときの出来事を書きとめ、自分の心のクセを把握していきます。この認知行動療法は、70%の人に改善がみられたとの報告もあり、早ければ3か月ほどで効果が現れはじめます」(貝谷先生) また、治療には周囲のサポートも不可欠だといいます。 「励ましは定型うつ病ではタブーとされていますが、非定型うつ病では、やんわりと励ますほうが奮起のきっかけになります。また、自分が受け入れられているという安心感を持たせるために、スキンシップも重要です」(貝谷先生)
非定型うつ病になったときの対策
改善するには、医療的アプローチだけでなく、日常生活の見直しも重要。落ち込みがちな人は試してみて。
その1 家事や仕事もいつもどおりこなそう
乱れた体内リズムを立て直すには毎日、目標を持った生活を送ることが大切です。掃除や洗濯などの家事は、すぐに成果が見えるだけでなく、生活環境が整うので、その日の目標にするには最適。仕事を持つ人は、できるだけ普段どおりに出勤し、仕事に取り組んでみましょう。
その2 ダラダラ食いや欠食はやめよう
食事は、1日の生活にアクセントをつける重要なポイントです。3度の食事を規則正しくとることで、脳に定期的に血糖が送られます。すると脳が目覚めて、本来の機能を果たすのです。ダラダラ食いや欠食が続くと、脳が混乱し、生活リズムが崩れてしまうので気をつけて。
その3 お日様の光を浴びよう
私たちの体の中に組み込まれた生体時計は、朝の光を浴びることでリセットされ、24時間サイクルを刻みます。そのため、日の光はしっかり浴びて。さらに、外に出てウォーキングなどの有酸素運動を加えれば、心を安定させる脳内物質、セロトニンの分泌が促され、晴れやかな気分に。
まだまだある女性に増加中の新しい心の病!
境界性人格障害 非定型うつ病が高じて発症することも 感情の起伏が激しく、エキセントリックな態度や行動をとるために、極端に対人関係などが不安定になる人格障害のひとつ。依存心が強い、キレやすい、空虚感がある、批判に過敏などの症状が現れます。発症には、成長期における親のかかわり方が深く関与していると思われ、愛情に対する飢餓感から、見捨てられるのではないかという不安や恐怖感が常に頭を離れません。そのため、自分に注意を向けさせようとりストカットや服薬など自傷行為をくり返したり、裏切られたと感じて激しい怒りをあらわにしたりします。非定型うつ病が改善を見ないまま、併発することが少なくありません。
社会不安障害 あがりやすい人に多い対人恐怖症のこと 人前で話したり、字を書くことに対して、苦手を通り越し、強い不安を感じる病気。一般には、「対人恐怖症」と言われます。他者が自分のことをどう思うか過度に気になり、失敗しないように、恥をかかないようにと心配するあまり、かえって赤面する、手が震える、ドキドキする、大汗をかくなどの身体症状が現れて、社会生活に支障をきたすようになります。これは、単に性格の問題ではなく、脳内の神経伝達物質の乱れが原因と思われる病気で、治療には薬物療法と心理療法が有効。特に抗うつ薬SSRIは効果が高く、引っ込み思案な態度を前向きで積極的なものに変えてくれます。
パニック障害 突然、動機と激しい不安感に襲われる パニック障害は、ある日突然、動悸、呼吸困難、めまい、震えなどの激しい「パニック発作」が起こり、このまま死んでしまうのではないかという恐怖感に襲われることもあります。発作は激烈ですが、長引くことはなく、10分ほどでピークに達したかと思うと沈静化し、30分もすれば、何ごともなかったように治まります。これらの身体症状は、必ず同時に複数現れます。発作時に右の表にあげた症状のうち4つ以上が現れ、病院で検査を受けても身体に何ら異常がなければ、「パニック障割と診噺されます。そして、パニック発作は、くり返されるのが特徴。そのため、いつまた、あの恐ろしい発作に見舞われるかとビクビクし、不安感から解放されなくなります。これを「予期不安」といい、募ると、発作が起きそうだと感じる場所、例えば、電車や駅、人込みの中などに出かけられなくなります(広場恐怖)。行動が制約されるうちに、うつ状態に陥る人も多く、そのほとんどが「非定型うつ病」と見られています。
発作は薬でコントロールできます パニック発作は薬で確実に抑えられます。用いられるのは、抗うつ薬(SSRI)とベンゾジアゼピン系の抗不安薬。SSRIは広場恐怖やうつ症状に、抗不安薬はパニック発作に高い効果があります。これらを症状が出ないよう、前もって服薬しておくことで発作は抑え込まれます。薬による対処療法と平行して行われるのは認知行動療法。治療に時間はかかりますが、薬と比べて効果が持続するとも言われ、副作用の心配もないので、妊娠中の女性でも安心して取り組めます。