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ショッカーは二十五米だと ー実存ヒプノ十四   

                                           橋 てつと

「音響栽培をやってんのかね、ブン」。

畑で草ぬきをしていた俺に声をかけてきたモモジローだ。

「音響栽培だと?」「おお、野菜栽培に音楽を流してやると成長がいいと、ラジオで今やっていた」「いつも畑で聞いてんのは人生相談と歌謡曲番組だ」「なら、効果無しだな。モーツアルトやシューベルツなどの高周波の曲がいいらしいわ」「どういいんだ?」「カルシウムに鉄分やビタミンCなどが豊潤になり、美味い野菜になるらしい」「根拠は?」「聞き逃した」「そうか、それで何の用だ」「今晩やらないか」「釣れたのか」「アタボーよ。メジナ(クロ)が入れ食いだった」「そうか、飲むか。お前が家で魚はおろしてくるだろ」「おお」「頼んだぞ。アラも持ってきてくれ。お、待て、モモ」。

家から一房の葡萄を取ってくると、渡しながら言った「嫁さんへ土産だ。アイネクライネナハトマジークで育った葡萄だ。通称クラシック葡萄、濃い味で美味い。食った事なかったろ。佐多は俺のヒーリングハウス近くの農園で音響栽培してるヤツだ。そこではクラシックマンゴーもやっているぞ」

自分が育てた葡萄でもなんでもないのだが、眼を丸くしたモモに勝ち誇った気分になって見送っている。

 

その夜。メジナの刺身には定番の辺(へ)塚(づか)ダイダイの果汁を垂らして飲み始めた。アラは大根と生姜でコンロの上で煮つける。刺身のツマの大根は自家産で、他にヤーコンのきんぴらに菊芋の味噌漬け、いずれも自家産野菜の調理である。

「流石に美味いな、ブン。安心安全の無農薬野菜は」「だろ。有機野菜は草取りが難儀だが、安全で美味いのは確かだ。それでも草だけでなく病気や害虫との戦いも大変なんだ」「なんかあったかね」「一昨年あたりから芋が新種のウイルスにやられ始めた」「基腐(もとくされ)病だな」「知ってたか。沖縄、宮崎、鹿児島で発生している」「農薬での対策しかないのか」「いや、ウイルスにやられてないウイルスフリー、つまり無菌の苗を植える法もある。だが自家産苗から替えると高くつく。それで来期迄は今の自家産でやってみるつもりだ」。「大変だな、無農薬農業とやらも」「商売でやってる訳じゃない。安全野菜を送って喜ばれたら嬉しい、それだけの道楽だからたいした事はないさ」「そうかね。ところで、どう思う、モモ。ガース新政権を」「総括には早いんじゃないか。始まって間もないぜ」「ノン。前政権を継承すると宣言しただけあって、立憲主義破壊が早や始まってるじゃないか」「学術会議か」「そう。お前の見解はどうだ」「どうもこうもない、既に百を超える団体が任命拒否は学問の自由の侵害だと批判をしている。会議からの推薦に基づいて会員を任命するとの推薦とは、形式的なものだと政府は過去に答弁しているし、〈基づく〉に法的拘束力があるのは疑いない。天皇が国会の指名に〈基づいて〉総理大臣を任命するのと同様だ」「任命拒否はありえない、という訳だな」「自明だね」「なら、なぜ政権は違法な暴挙にでた」「目の上のたん瘤になったから潰そうとの魂胆だろう」「たん瘤とは何だ」「先の戦争で学者達は協力に邁進(まいしん)したろ。その反省の上で発足した学術会議は我が国の平和的復興に寄与するを目的とした」「で?」「過去に三度だ、戦争目的や軍事目的の研究は行わない、の声明を出している」「それで?」「戦争準備をしたがる勢力からは目障りになってきたという訳さ。任命拒否された六人は、戦争法や共謀罪法、辺野新基地に反対した学者ばかりだ」「見せしめという訳か」「そうだ。学術会議の機能がストップしたら、コロナ対策にせよ専門家会議だけの機能となっちまう。国民にとって大きな損失、ゆゆしき事態だと思うね。で、ブン、お前はその件で何か書いたか」「新聞に世論投稿したがボツとされた。連続三振だ。だがそれは別紙でコラムに改めて書いたからいいさ。あ、日本ペンが抗議声明を出したので、評価するが表明が遅い、とテレした」「まぁまあやってるじゃないか。たとい些細でも動く事が大切だな、我々の運動は。ところで、女の方はどうなってる、ブン? ニューディールは進んでいるのか」「ニューディール?」「ホラ、新規蒔き直しさ。以前の女は全滅したんだろ。新しい開拓しかないじゃないか。それにだ、戦いは不利とばかりは言えん。救いは無きにしもあらず、だぞ」「何だ」「お前の時代が来つつあるやも知れん」「どういう事だ」「まぁ、あまり期待せずに聞けよ。すこし前に三高とか言われた時があったろ。高身長、高収入とかの」「おう。俺は遙かに勝る四高だったぜ」「初耳だ」「高血圧、高血糖、高脂血に高尿酸」「高齢まで入れると五高のぶっちぎりじゃないか、凄いねと言いたいが今や時代は逆、四低なのさ。知ってたか」「四低だと、ノン」「教えてやろう。四低の一は、女性への低姿勢だ」「低姿勢ね。前妻への亭主関白を猛省したオレだ。次は低姿勢間違い無し」「よろし。二は妻への低依存。家事分担できるだろ?」「おう。六年間のやもめ暮らしで家事ならバッチリよ」「三の低リスクとはリストラの心配無し」「年金暮らしだ。リストラ無しの保証付き」「四は低燃費。つまり金のかかる趣味が無い」「まかせてもらおう。山と海の遊びもとっくに卒業した。今は原稿に向かうだけの金不要の趣味だ」「よろし。とりあえず合格ラインだ、ブン。後は高望みをしない事だ。解ったな」「ブラジャー間違いラジャー、完璧に理解してるって。美人でなくとも可愛くて、優しくて若くて働き者で、それに健康的で正直者がいいな、社会的正義感も欲しいし、子供好きならなおいい」「子ども? もはやありえないだろ。どだい、そんなのを高望みというのだ。身の程を弁(わきま)えろ」「身の程を弁えろなんて友人に言う言葉か、モモ。アナクロも甚だしだぞ」「何とおっしゃるウサギさん。枯れ木に花を咲かせられそうにもないジイサン、もっと言えば、女にしがみついては〈放さんかジイサン〉と呼ばれてそうなブン、お前にはそれくらいの警句(アフォリズム)が必要って事さね」。

 

「いたかね、先生」。

気色満面の顔でクーラーボックスを担いでやって来たのは、およそ五年ぶりの客。別宅、佐多のゲストハウスに不意に男は訪ねて来た。

「予告(アポ)無しで会えるとはラッキーだった。シンクロニシティ、うん、以心伝心と言えるかもな」。

体中から魚の匂いを発する男に記憶があったのは、強い個性と催眠(ヒプノ)が異色だったからだ。最初の依頼は八年ほど前、予約無しの来訪だったので遠方福岡からにも拘わらず断った。催眠(ヒプノ)体験には事前学習が必要との当方のルールからだった。二度目の来訪が最初のヒプノになったのだが、「死なない法はないか」という真正の目的とは遠いものだった。結果、過去生で英国牧場主からのアドバイス〈食う寝るする、を控えよ〉に納得した様子は無かった。その次の、〈息子が事業の跡継ぎをしたがらない、どうしたものか〉という相談では、過去生は若い牡ライオンで、息子が群れ(プライド)のボスで自分はボスに命を狙われているとの緊張関係にいて、動物の転生は珍しかったので強い記憶としてあった。

吾がHP(ホームページ)の案内では『セラピストからのアドバイスは一切ありません。教訓は過去の自分が教えて呉れるのです』と謳(うた)っている。過去生からのアドバイスは自身のみが受け取る、それが基本である。そしてヒプノ前日の飲みながらのよもやま話、それを信頼(ラポ)関係(ール)形成の流儀(ルーティン)としている。

現在、彼の息子さんは自動車から農業機械まで解体業を拡げ、福岡から佐賀に移って大きな工場をやり始めて勢いがいいらしい。ところが結婚の話が一向に無いので心配しているとの事。自分が若い時は金にまかせて女を取っ替え引っ替えしてたのに、との男のため息に彼が以前、〈ゴルフなんて男が玉を追ったら共喰いじゃないか〉と笑い飛ばしたのを思い出しながら、話題を佐賀県に移して続けた。

「佐賀には盟友意識を持ってるんですよ」。

「何でかね」「今年の鹿児島国体がコロナで中止になったのは御存じか」「ああ」「来年再来年と開催県は既に決まっていて、鹿児島は先の見通しがつかなくなった。そしたら三年後に予定の佐賀が一年バックして鹿児島開催を割り込みさせてくれたんですよ」「感謝しかないわな。薩長土肥の縁かね」「どうでしようか。それは旧い話だから」「だが、佐賀の乱の時、江藤新平が来鹿して援軍要請をしたのに旧き盟友だった西郷さんはつれなかったかと」「釣れない、坊主だったという訳ですか?」「おや、釣り語で来ましたか。なら先生へ質問ね。イカス男とはどんな男? イカじゃないイカスですぞ」「活(いけじ)〆(め)から捻(ひね)って、生きのいいカッコイイ男」「残念だな。正真正銘、女をイカス事のできるヤツだってさ」

翌日。男にヒプノ施術をする事となった。飛び込みではあるが旨い魚へのお礼である。テーマは〈息子が婚活を何故しようとしないのか知りたい〉というもの。だが、最初にお断わりする、ご自身の問題ではないので、関係する過去生が出てくるとは限りませんよ、と。

「貴方は誰ですか。何をしていますか」。

「鍋島の殿様に仕える武士よ」「鍋島と言ったら化け猫の?」「それは昔の作り話じゃ。鍋島は存じか」「肥前藩だったかな」「そうじゃ」「何をしておられる?」「論語講義を終えたところよ」「そうですか。私も論語は習いましたよ」「左様か。されどお主の知っている論語とは異なるじゃろ。鍋島論語じゃからの」「それはどんな?」「武士の道を説いたものよ」「武士道ね。武士道とは死ぬ事とみつけたり、だな」「まさしくそれよ。いずれで習(なろ)われしか」「昔、読みましたよ。三島の〈葉隠(はがくれ)入門〉」「おお。門外不出の〈葉隠〉を知っておるとは、只者じゃないな、お主」「いえ、それほどでも」「三島氏(うじ)とは何者じゃ。武人か」「さにあらず。どちらかというと文人かも」「文人とは何じゃ」「物書きです」「それで生業(なりわい)を立てておられしか」「ええ、立ててましたが。腹切りして果てました」「切腹とは、の。仔細があったのであろうな。で、他に学ばれしは何かな?」「赤穂事件ですかね」「申してみられよ」「赤穂浪士の討入りは義士伝として幾つも映画化されたりして評判が高いものですが」「映画とは何じゃ」「あ。それは置いて。赤穂浪士の仇討ちはあざとい、と作者の山本定朝(じょうちょう)は言った」「つねともじゃ。あざとい、の真意とやらは」「計算高い、ずるい、武士の本分にあらず」「続けられよ。本分とは」「主君の無念を晴らすべしと思わば、即座に仇討ちを決行すべしだった。次に、幕府の裁定が喧嘩両成敗にあらずと異議あらば、幕府と一戦交えるべしだった。また、主君の仇討ちという大義を終えたら時を置かず一同割腹すべきだった」「その心とは」「動機の純粋性、それこそが成果より肝心」「動機の純粋性とは」「ひとえに、死に物狂いで事に当たるべし、結果はあずかり知らぬところなり。さても一所懸命なるところに犬死は無し」「死に狂い、とな。よろし。お主の見解は」「結果が全てという成果主義はよしと致しませぬ」「左様か。同志じゃな」「そうですかね。よくは解っちゃいないのですが。ところで、今日の貴殿の講義はいかなるものだったのでしょうか。お教えを乞いたい」「ならば教えてしんぜよう、同志じゃからの。一、想う相手は生涯一人のみ。二、相手を何度も取り換えるは言語道断。三、最低五年は付き合い、相手の人間性を見るべし。四、浮気者でいて、それでまとわりつくようなら斬り捨てるべし。以上じゃ」「ありがとうございます、意味深(いみしん)ですね。これは一体、何でござるか?」「ワカシュウドウじゃ」「和歌集、道と、な。最後にもう一つお願いがござる」「何じゃ」「現世のご自身へ教訓を乞いたい」「良かろう。己の心に真向かうべし。息子も同様、好きに生きさせろ」「しかと承り候」。

 

「そうやって一件落着したのよ。和歌集道は腑に落ちなかったのだがね」と、語っているのはモモに、だ。

「どうしてよ」「なんで、葉隠が女との交際術など講義するのか、って」。

「女の話なものか、男同士のつきあい作法さ。若衆道だったろ。」「ワカシュウドウって?」「剣道や武道と同じく武士道の作法として、若衆の道つまり若輩として年輩の〈念者〉への対応作法を習う。道義的結束が男色つまり同性愛に向かう場合も少なくなかったそうな。衆道ともいう」「性愛ってゲイの事か」「そう」「葉隠れが、そんな講義を含むとはな、信じられん」「戦場とは男の世界だ。ありうるだろ。どころか、男色は崇高な趣味と考えられていたらしい。よって性愛にも道義が含まれた」「詳しいな。葉隠れを読んだ事あるのか、モモ」「ああ。十、二一の獄中闘争中に三島の死は知ったのだが、出獄後にお前が貸してくれたろ、本を。紛失してしまったけどな」「そうだったか。無くしたと思ってた」「すまん。しかし、葉隠れの精神に共感するとはやっぱお前は昔から心情右翼だよな。三島も言ってたぞ、右翼とは思想にあらず心情なり、とな」「なら、モモ。マルキストのお前から見た葉隠はどうなる?」「そうだな。我らの運動の中に〈自己否定〉論があっただろ。〈家族帝国主義解体〉も発展課題としてあったのを覚えているか、ブン」「ああ、親からの期待は打破すべし、だ。家族の桎梏(しっこく)粉砕だな。大卒の肩書きでいい会社に入ってさ、物言わぬ歯車として被搾取労働に精出し、子には英才教育する家族など無用」「ウーマンリブはどうだ、憶えているか」「女性解放運動だったな」「どう思った」「抱かれる女から抱く女へ、だったか。よく解らなかった。いつしか消えてしまったろ」「そうだな。性の自己決定という主張が含まれてたなら、LGBTカミングアウトのスタートを作ったと言えるかもしれん」「だが、『女性は立場をわきまえろ』と元総理が公言するようじゃ、我が国は人権の発展途上国だろな」「同感だね」「そういえば、だ。同性婚合法の判決が近く出るかもしれんな」「どういう事だ、モモ」「同性婚は未だ非合法ゆえに事実婚として暮らしているカップルがいる事は知ってるだろ。ところが民法他で多くの不利益が生じている、そこで〈法の下の平等〉論から同性婚を認めよとの提訴が、多く進行中なんだ」「そうだったか。〈法の下の平等〉論は理解できるとしても、憲法上は〈婚姻は両性の合意のみ〉に基づいて成立とあるから、憲法改正をせずんば同性婚の合法化は困難だろ」「何とおっしゃるブンタロさん。アンタ退職して何年になる。元社会科教師も鈍ったね。戦前の婚姻は二人の合意のみで出来ましたかね」「いや、家父長の同意が必要だった」「ご存じじゃないですか。今でも嫁貰う時に父親の許可貰いに行くのはその名残りですな。さておき、新憲法で両性の合意のみとは、家父長の同意権の排除が目的だった訳ですよ。そこを理解すれば民法と戸籍法改正のみで同性婚の不利益は排除できる、そうなりますわな、お解りかな」。

立ち話を終えると、長居は無用とばかりにそそくさと帰って行ったモモだ。飲む時は根を生やしたみたいに居座って「狸の金玉(きんぎょく)でまた一杯」を繰り返して酒を督促する男なのだが、今から釣り道具の手入れをすると言う。「釣り具屋でも開くつもりか」と冷やかすと、帰りしなに言った

「『人の一生は誠にわずかの事なり。 好いた事をして暮らすべきなり。夢の間の世の中に好かぬ事ばかりして苦しみて暮らすは愚かな事なり』。知ってたか。常朝の言葉だ」。

 

久々のセラピー依頼は同世代の男性だった。とは言え、依頼は同居の息子からで、父が精神不安定状態になった。頭が痛いお腹が痛い、眠れないなど変調を訴える様になって診療を勧めたが、精神科など行くものかと拒否された。こちらで自律神経失調症の診断と回復をやっていると知り、父を同伴してきたというものだった。診断と回復は誤解で、自律訓練法を伝授するに過ぎないのだが引き受けた。

ヒプノ無しでという依頼は珍しく、また高齢の患者(クライアント)も多くはない。当方のヒプノはHP(ホームページ)からのアクセスが殆どで、高齢者はネットから遠ざかったところにいるからだ。そして個人的見解なのだが、高齢者は人生末期を覚悟しての達観若しくは諦観からか、人生相談など忌避しがち傾向にあると思えるからである。

同伴の息子には別室で待機して貰ってのカウンセリングとしたが、説明したヒプノ手法に共感して貰えたらしく、予定を変更して一泊しての前生療法までやりたいという事になってしまった。

そこでキャンピングカーの助手席に乗せ、片道一時間の別宅〈ヒーリングハウス北緯三十一度〉に向かった。息子から、父はパン会社の製造を退職まで生涯勤めてきた仕事柄、無口な職人肌だと聞いていたが、助手席で男は喋りまくった。対面では言葉少ない依頼者も、助手席という側面になると口を開きやすくなるというのは経験で学んだものである。

「自分の素性を隠して相手を攻撃するなど卑劣そのものですな。許せん」。尖った口調に怒りを乗せて男は続けた「コロナが連続発生した飲食店や病院、介護施設、職場、学校などを何て言うんでしたっけ」「クラスター源ですか」「そう。そういった施設に、何で大量発生させてるんだ。社会的自覚が足りない、責任取れとかの抗議電話が行ってるそうな」「みたいですね」「匿名での攻撃など卑怯だ、名乗るべし」「え、名乗ってならいいの?」「そうだ。クラスターなど許せんよ。コロナを移されない、移さないに皆がもっと真剣になるべきだ。俺みたいな高齢の持病持ちは、近くで感染発生がありやしないかと、寿命が縮まる思いでニュースを聞いてるんだぞ。なのに、どこで誰が発症したかは秘匿された上、広報ではこう呼びかけてるだろ。〈感染者や家族に対しての誹謗中傷や差別・偏見などは厳に慎みましょう。不確かな情報に惑わされず落ち着いた日常生活をおくりましょう〉、とな。こんなんで落ち着いて暮らせるか」。

男の不安がコロナ禍によるという事を理解できた夜、酒を飲みながらの懇談である。寝食を共にする事がラポールを深め、結果としてセラピー効果をあげると信じている。とはいえ、政治や信教の話は控えるようにしている。スタンスに疑念を持たれるような言動は依頼者の深層に支障をもたらしかねないからだ。それでも夜はコロナ談義他で盛り上がり、男に煽られるかのように自分も感情発露を抑えられなくなっていた。コロナ対策では五輪実施が最優先命題としてあり、入国禁止も非常事態宣言もその為に遅れた。検査数の少なさも他国に比べて異常に少ないし、経済効果を優先するあまりか終息後に出すべきゴーツートラベルとイートなど早めに出して感染拡大させた。おまけに大学や製薬会社などの研究機関への助成をケチって来た成果が治療薬すら国内開発できずに外国に頼らざるを得ない有様だ。ブザマ極まりない、と自説を延々と開陳している。

翌日、ヒプノである。

「あなたの現在の焦燥、それと関係ある過去生です。何をしています。何が見えますか」「家だ。今、体のお浄めをしたところさ」「お清め?」「ああ。体を拭いていた」「何の為に」「吟味があるってさ」「ギンミって」「掟改めよ」「何ですか、それ」「忙しいんだ。今から掟を覚えなくちゃならねえ」「何の事ですか」「忙しいって言ったろ。邪魔だ」。

それきり男は口を噤(つぐ)んだので、時を進める。

「ギンミは終りましたよ。何をしてますか」「帰るところさ」「一人ですか」「おう」「ギンミの事を教えてもらえませんか」「よそ者に村のシキタリを誰が漏らすものか」「間もなく私も仲間に入れて貰う身なのです」「そうか身内か。なら教えてやろう。絶対に他言無用だぞ」「はい、絶対に」。

「嘘は掟破りだからな。厳しい処罰ありと心得よ」「解りました。さっき出た、掟の事ですね」「そうだ」「暗記とは」「二才頭(ニセガシタ)に言ってみろと言われた時はすぐに答えられねばなんねぇ」「どんなの?」「俺らの二才(ニセ)仲間には十ある。手ぬぐいを三尺下げるな。二尺以上の棒を持つな。嘘を言うな。娘(オゴジョ)をからかうな。年長者より先に挨拶せよ。村中で口笛やホーカをするな」「ホーカとは」「歌うな」「成程。他には」「他人の敷地を横切れるのは日中のみ。足袋は年中履くな、などだ」「細かいですね。掟破りが見つかったら?」「頭(カシタ)からの招集があって吟味となる」「それでギンミとは」「二才衆宿での詮議だよ」「詮議? 人民裁判みたいなものですかね」「人民何とか? そんなの知らん」。

解りにくい方言を何度も聴き直して、男が語ったのを理解できたのは凡そ、以下の内容だった。

村の二才(ニセ)衆(シュウ)という若者組に入らせて貰ったのは十五歳。時は明治の初め。二才衆の一員と認められて大人の一人前扱いとされる。一人前とは、村の共同作業で一人前として扱われるという意味だ。村人の家建てや屋根吹き替えの加勢。田畑の共同(ユイ)作業。村道整備に水路や堤防補修、入り合い山野の管理に神社管理など。他に二才組として任されているものとして、祭りの開催に、火事や水害時の出動、祝儀・不祝儀の使い走りに葬儀の手伝い、犯罪時の対応などなど。

「凄い役割りですね。村を離れて生きていく事は考えられないですね」「当然よ。掟あってこその村よ」「掟破りには罰があったんでしょ。村八分とか」「ああ,〈外(はず)し〉の事じゃな」「ええ。火事と葬式以外は交流を断つ」「良く知っているじゃないか」「で、今日のギンミとかはどんなものだったんですか」「他言無用だぞ」「勿論」「なら教えてやろう、多情者よ。二股ならぬ三股かけ、いやそれ以上に女と遊んでいると娘組から訴えがあったそうな」「もっと詳しく」「吟味から離されて当人は待ち控え、俺は三人で見張り番じゃったからよくは知らん」「言い訳の機会はあるんでしょう」「あるもんか。言い逃れは、嘘という罪を重ねるだけじゃ」「それで処分は?」「叩き、の折檻じゃつた。棒の音と呻き声が聞こえただけで、見てた訳じゃない」「厳しいですね。他の処分は」「荷役がある。田起こし三倍、モッコ重ねなど」「村八分ですが、火事葬式以外の交流断ちとは楽な方じゃないですか」「甘い。道や川の普請に出れんという事は道も水も、入り合い地の木も草も使えんという事だ。田畑も加勢が貰えんではやれはしない」「と、なると」「日を改めて許しを貰う。貰えない時は一家で村を出るしかない」
 

「一家離村か。村の支配統率権は暴力組織にまでなったらしいな」、モモが言った。

「どういう事だ」「例えば水利権などを巡って対立する村が暴力集団になっていくのは必定だ。東京大震災の時、井戸に毒を入れたとの噂から、司法無しの私刑(リンチ)で朝鮮人六千人を虐殺したのは自警団という共同体だった」「自警団だと」「それが形を変え、戦時に政府から作らされたのが、隣組だ」「隣組と、な?」
 知らないのか、と言うなり、歌い出したモモだ。

「♪とんとんとんからりと隣組 地震や雷火事泥棒 互いに役立つ用心棒 助けられたり助けたり。とんとんとんからりと隣組 何軒あろうと一(ひと)所帯 心は一つの屋根の月 纏(まと)められたり纏めたり♪」。

「お前、フロイデだった割にはヘタクソだな」「こんなの上手く歌えるか」「で、隣組に何か問題があるのか」「鈍くなったね、お前のオツムも、ブン。〈纏められたり纏めたり〉で気づかないかね」「同調か」「そうだ、異物の排除だ。翼賛体制にそぐわないモノを見つけて摘発するスパイ組織になった。半藤一利を知ってるか」「おう、歴史学者だろ」「隣組に父はアカだとレッテル貼られて特高に密告されたのが三度あった、と彼は共謀罪成立で反対講演している」「そうだったか」「コロナ禍で生まれた自粛警察とやらもその流れに近い、と俺は思っている」「自粛警察か」「そうだ。コロナを出した施設や個人宅に攻撃している。が、今に始まった事じゃない。福島原発被災の時もあった。県外への避難者が迫害にあったり子供達がいじめを受けたりしたそうだが、コロナでも似たような事が起こっている。県外ナンバーの車に〈私は県内に住んでます〉と張り紙しているのを見た事あるだろ」「ああ」「あれも他県人がコロナを伝染している、との風評への防衛策だ。そして自粛警察は、原発事故の元凶やコロナ対応のまずい政策を追求する事なく被災者を乏しめる、いわゆる体制補完勢力だ」「そうきたか」「俺に言わせれば、空気を読まない、とか立場を弁(わきま)えないというのも同根だね。階級社会の上から目線だ」「相変わらず厳しいな、モモ」。 

「それはさておきブン、お前のコロナ不安の依頼者はどうなった?」。

「まぁまぁ納得して帰ったと思う」「どんなご託宣がでたんだ?」「託宣じゃない、メッセージだ」「どっちでもいい、聞かせてみろ。簡単でいい」「掟や仕来たりに縛られる事はない、自由に生きろ。それがメッセージだった」「大胆な伝言だな、明治初めだったんだろ」「時代はそうでもメッセージは中間生、つまりその時代を終えた世界からの教訓だ。中間生の魂(ソウル)は時空を超越した存在だから発想は自由だ。前生の思いを引きずってるケースもたまにあるけどな」「そんなものかね」「こうも告げてた。風評に振り回されずに自分の目と耳でしっかり判断せよ、とも。そしてアドラーまで持ち出した。コロナ禍だからと言って、みんながノイローゼになる訳じゃない。不安というトラウマは自身が創っているのだと考えればその排斥(はいせき)は困難じゃない、とも」「それで、納得したのかい?」「ノン。それでも、生活習慣病という病気を抱えている身だから心配するのは当たり前だ、と訴えた。そこで俺も伝えたよ、『私も同じく生活習慣病です。ですが怯(おび)えるほど心配はしていません。三密を避けるなどの用心だけはしていますが』とな。同病という事で少しは得心がいったみたいだった」「そうか。だが、ちょっと待て、おかしいぞ」「何だ」「生活習慣病と言ったな」「ああ」「それって、普通の人に比べて生活習慣が破綻しているという脱落者に扱いになりはしないか。基礎疾患の語でいいんじゃないか、普通の人という定義もおかしいけどな」「そうだな。同意するわ」「呼び名はさておき、ブン、心配せんでもお前、コロナになったらトリアージから外されるわ」「何だ、トリアージとは」「医学的優先順位よ。低医療費で且つ治る見込みのある患者から優先して治療を進めていくという方法論が医学の主流になりつつあるらしい。オレは是認しないけどな」。
 

日帰りのヒプノ希望でやってきた女性は訴えた、コロナで頭がおかしくなりそう、と。

またコロナか、とうんざりした訳ではない。対面が基本のヒプノでは密接が避けられないが故に仕事も抑えるべく、HPでの勧誘も控えて来た。が、コロナノイローゼともいうべき愁訴の依頼は、たまにだがあったのである。依頼者は四十代女性で鹿屋での日帰りヒプノだった。

「どうされました」「鬱屈(うっくつ)してヘンになりそうなの」
「原因とかは思い当たりますかね」「コロナのせいよ」「どうしましたか」「みんなが〈巣ごもり〉になっちゃったでしょ。私はパートの仕事が無くなり、夫は自宅(テレ)作業(ワーク)とかで在宅になったし、おまけに義母までウチで面倒みる羽目になったのよ」「どんな事情で?」「義母は独り暮らしで別居だったのよ。それが転んで腰を痛めたらしいの。買い物も家の始末も出来なくなったと、ウチにやってきて居つきになってしまったのよ。一日中、二人の面倒を見なきゃならない、それでイライラ。学校が休みになったら二人の子供の面倒まで加わるのよ。イッソ、自分がコロナになってどこかに隔離して欲しいとさえ思う時があるんだから、限界も頂点といったところね。私、過去生でよっぽど悪業をやった報いなのか、観てほしいの」「解りました。ですが、現在の課題は過去の悪業からくるという因果説を私は採りません。そして前生を観るのは私でなく貴方なのです。それでよければ」。

という次第で、現在に関係する過去を呼び出す催眠(ヒプノ)である。

「何をしていますか」「洗い物をしているの」「どこですか」「庭よ。井戸の傍」「え、井戸ですか。手洗い?」「ええ、叩き洗い。棒を使って」「砧(きぬた)棒ですかね?」「そう。夫が私の手に合わせて作ってくれたの。握りやすいので前より楽になったのだけどね」「優しいご主人ですね」「優しいかは判らん。夫と二人で話ってした事ないもの」「え、どうして」「亭主への話は姑を通すシキタリなの」「え、全部?」「ええ」「食事の時は」「別よ。義父母と夫は居間で箱膳。私は控え間で一人」「夫婦の営みは」「合図があるの。雨戸が閉められた夜に納戸の部屋で夫を待つだけ。一緒に眠る事はないわ」「仕事は何? 仕事の時は?」「舅(しゅうと)さんは百姓。夫は指物師(さしものし)」「指物師って?」「大工さんみたいなもの。頼まれた品物を材木で作るの」「どんなの」「何でも。家の壁や屋根の吹き替え。箪笥(たんす)や自在(ジゼ)鉤(かぎ)つくり、小さなのでは櫛(くし)や簪(かんざし)作りなど。頼まれたらなんでも引き受けているわ、最近では碁盤も作ってた」「そうなんだ。貴方はご主人の手伝い?」「いいえ。夫は職人仕事だから手伝いなし。私は家事の他は姑の畑仕事の手伝い」「舅さんは」「畑と山」「山とは?」「小さな杉山を少しずつ広げて杣(そま)山にしたの」「杣山って」「加工用の材木、杣(そま)木(き)を育てる山」「どんなの」「櫛にはツゲ、簪(かんざし)には楓(かえで)、まな板なら檜(ひのき)、桐(きり)、銀杏(いちょう)。擂粉木(すりこぎ)なら山椒(さんしょう)とか好みがあるのだけど、山では楢(なら)や樟(くぬぎ)の他は杉だけしか大木になってないから、大抵が杉で間に合わせているわ」「山での手伝いはないの」「女は山には入れない仕来たりだから。草の下払いや下枝払いに間伐も一人で舅さんがやってる。材木運びの加勢で馬引きの手伝いをする事はあるけどね。あ、馬の世話も私の仕事」「手伝いにも制限ありとは、仕来たりも大変だね」「仕来たりなら他にもあるわ。洗い物の盥(たらい)や干し竿は男と女は別々、縫物の針も別。風呂は必ず男が先、とかもね」「多くの縛りがあるんですね。不満はない?」「無い訳がないでしょ」「変えたいとか思わないの?」「みんながやってる事だから、と姑が言うの。それに舅にはいつも言われているわ。女のブを弁えよって」「ブって何?」「女の分際で、の分(ブ)」「なるほど。納得はしないけど理解はできましたよ、そんな時代だったって事が。ではその生を終えて今、中間生です。総括してどんな人生でしたか」「不満はあったけどさほど不幸な人生とは思わないわ。嬉しい事もたまにはあったし」「例えば?」「体調が悪かった時などに舅が猿を捕って来て食べさせてくれたわ。血の道が良くなるからって」「へえ、そうなんですか」「とにかく女はみんな似たような人生だったと聞いてたから」「そうですか。では現生の貴方に何か励ましの言葉、教訓など戴けませんかね」「どんな生活でしたっけ」「新型風邪の流行でムシャクシャ」「理由は?」「夫、義母と毎日顔を突き合わせているから付き合いが大変だって」。

「ホホホ。世の中って変わるものね。私の時代とは丸反対だわ。寡黙が女の美徳と言われてたもの。男も似たようなものだったけど」「で、メッセージですが」「そうだったわね。では」「ええ」「何でも喋れる時代なら、言葉を武器にして思いを腹蔵なく言葉にする事。お互いが思いの丈を伝えあってこそ理解が深まるのよ。忖度(そんたく)など無用」「なるほど。腹に溜めずに自分も言うべきは言え、との理解でいいですかね」「よろし」。

 

「いいメッセージだったんじゃないか。時代が女性の権利向上の法や制度を作ろうと、活かすのは一人一人だからな」と、納得したようにモモは続けた「それにしても封建社会では、権利という概念が無かったんだからな。〈分を弁えよ〉が基本。それが階級社会の通底(ベース)だった」「そうだな」。

「知ってるか、ブン。〈正名思想〉を」「メタボじゃなくアタボーよ。孔子の論だ、君臣父子がそれぞれ名に違(たが)わず、正しく君臣父子らしくあるべし、というものだろ。男は男らしく女は女らしく、に通じるヤツだ」「そう。封建思想の根幹だ。そして〈分を弁えよ〉の論は階級社会の概念で、時代錯誤も甚だしい。ところで、ブン、話変わってお前の女の方はどうなんだ」「海のものとも山のものともつかぬ状態、見通し無し」「お前、見た目は無骨だが中身は繊細だからな。猫が燠(おき)を炒(い)らうみたいに、女にもちょこっとチョッカイ出しては手をひっこめてるんじゃないか」「そんな事はない」「あれはどうなった。裁縫に来たみよちゃんとやらは」「連絡無し」「再訪したくらいだから脈ありと思ったんだがな」「衣類の綻びをほっておけなかったという単なる責任感からだと思う」「それほど責任感の強い女性なんて今時珍しいぞ。逃がした魚は大きいってとこか。他に撒き餌はやってるのか」「おう、新規(ニュー)蒔き直し(ディール)だ」「面倒くさがりなところがあるからな、お前は。続けろよ、女にはマメさが必要。野菜でも何でも送り付けてそれが誠実と相手に思われたらアタリだ。美女恐怖症とか言って外見に囚われるな。人間は中身だぞ。サヨリみたいな女じゃだめだって事よ」「サヨリだと」「おう。あの魚は見た目綺麗だが中身は腹黒い。見た目に惑わされるなって事」「おーりゃ。解ってるって」「そして釣り上げるにはタイミングだ。早すぎても遅すぎてもダメ。マグロ一本釣りの電気ショッカーな、二十五米での電気効果がベストなのさ」「何だ、それ」「マグロが喰った時にな、それより遠くでショッカーを落しても通電効果無し。だからと言って無理に近くまで引寄せようとしたらテグスを切られるか、船底に潜り込まれたりしてバラしちまう。二十五米がベストなんだ。女を釣り上げるにもタイミングこそが重要だ。見逃すな」「タイミングかね」「そう、忘れるなよ。おっと俺が忘れるとこだった。ブン、お前に宿題を持って来たんだった」「何だ」「これだ。読んでみろ」

モモが渡した紙には、短い詩のようなものがあった。

 『大事を成そうとして力を与えてほしいと神に求めたのに、慎み深く従順であるようにと弱さを授かった。より偉大なことができるように健康を求めたのに、よりよきことができるようにと病弱を与えられた。幸せになろうとして富を求めたのに、賢明であるようにと貧困を授かった。世の人々の賞賛を得ようとして権力を求めたのに、神の前にひざまずくようにと弱さを授かった。人生を享楽しようとあらゆるものを求めたのに、あらゆるものを喜べるようにと生命を授かった。

求めたものは一つとして与えられなかったが、願いはすべて聞き届けられた。神の意にそわぬ者であるにもかかわらず、心の中の言い表せない祈りはすべてかなえられた。私はあらゆる人々の中で最も豊かに祝福されたのだ』

「何だ、これ」
「〈病者の祈り〉というヤツだ。副題は、私の祈りに対する神の応え、だと。ニューヨーク大の所蔵品だ。で、ブン、お前に訊きたい。お前は『神は乗り越えられない試練は与えない』と言ってるよな。そして『試練は成長するためにある』とも。はてさて、試練とは神の祝福なのか、答えてみろ」

笑みを含んでいるのは論争を挑む時のモモの顔つきだ。

〈来たね、よっしゃ、受けて立とうじゃないの〉。

一杯あおると、ヤツと同じ顔つきになってきている自分に気付いた。

〈釣りのテクニックでホントに女が釣れる、って思ってるんかな、こいつ。撒き餌論を女に洩らしたら呆れられたぜ、とこの前ヤツに言ったら、女は釣られてナンボのものさ、女が男に渡す身上書の表書きに何と認(したた)めるか知ってるか、釣り書きだぜ、とぬかしやがった。ヤツの口から「釣った魚に餌はいらぬ」を引き出してやる、そこを突破口だ。〉

俺はコップを片手にゆっくりとモモに向き合って言った。

「モモ、女を魚釣りに例えるのは問題がありゃせんか」

「五輪豚(ピッグ)と豚に例えるよりマシだと思うけどな」。

 

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